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【銃魔のレザネーション】第六章『従容たる王佐の賢人』
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【銃魔のレザネーション】第六章『従容たる王佐の賢人』

2016-03-17 17:00
    ニコニコゲームマガジンで配信中の
    「銃魔のレザネーション」のシナリオを担当した
    カルロ・ゼン自らがノベライズ!
    ゲームでは描ききれなかった戦争と政争の裏側が明らかに。
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     第六章 『従容たる王佐の賢人』
     
     南で勝ったヤーナ率いるコモンウェルス主軍は、その後、直ちに西方へ転戦。
     勝利の余勢に駆られた無謀な攻勢を装い、シュヴァーベン革命軍を会戦へ誘引。戦略次元での大規模機動戦により見事に包囲殲滅戦の好例を戦史に刻んだ。
     号して、第二次ロスバッハ会戦。
     嘗ての敗者であるコモンウェルスは、嘗ての勝者であるシュヴァーベン革命軍を屈服させしめ、講和を勝ち取るに至っていた。
     今や、ロスバッハと聞けばコモンウェルスの勇者たちは誇らしげに胸を張ることだろう。それは、誇りと名誉にまみれた武勇伝の一幕だ。
     ロスバッハとは、汚辱にまみれた敗北の地ではなくなった。いや、無論のこと、過去は偽れない。敗北の苦い記憶が途絶えることもなし。
     コモンウェルスの中において、それは格段の響きを持ち続ける。コモンウェルスが地上にある限りにおいて、忌々し気に語り継がれることだろう。
     しかして、地に落ちた名声は因縁の戦場において羽ばたいた。
     敗北からの、復活。
     強勢を誇ったコモンウェルスは、滅びざることを文字通り鉄血でもって世界に誇示してみせた。
     勝利の美酒は美味しいだろう。屈辱を晴らした勝利の杯ともなれば天上のそれ。なればこそ、ヤーナ・ソブェスキの武威はコモンウェルス史において燦然と輝く。
     勝利者、軍神、コモンウェルスの守護者。
     だが、勝利の当事者であるヤーナ・ソブェスキはシュヴァーベン革命軍を屈服させしめた瞬間に、やる気下げに頷いただけであった。
     従軍していた諸将を代表し、宰相として戦勝祝いを述べたモーリスに対する返事は酷くそっけない。
     真意は、と言えば単純だろう。
    「さて、政治の季節ね。暫時、片手間で物事を進めていくわよ」
    「……いまだ、諸問題は残っておりますがそのような余裕が?」
    「残っているといえば残っているけれども。……勝利の焦らない活用こそが、肝要じゃなくて?」
    「違いありません」
     戦勝にあって、喜びに浸らないことは限りなく難しい。なにしろ、勝利とは魔物じみた魅力に富んでいるのだから。
     その点、一仕事終えたとばかりに肩の力を抜いて見せるヤーナ・ソブェスキ摂政は意欲と能力が決定的に反比例している好例だった。
     内面を忖度するのであれば、とモーリスは苦笑する。
     『これで、さぼれる』
     辺りだろうか?
     事実、というべきだろう。
     モーリス・オトラント辺境伯語って曰く、『南方会戦』以降のコモンウェルス政治はヤーナ色である。砕けた場では、怠け者の、怠け者による、怠け者のための政治、とまで語ってしまう程だった。
     ある時、それを咎めるように窘めてきたバルターやコストカあたりへモーリスは苦笑して次の様に言い返したものである。
    「つまるところ、ヤーナ摂政殿下は『二度と問題に直面しないこと』を至上命題に設定されておいでだ。いうなれば、問題の発生阻止を目的としての諸改革」
     それは、どこまでも消極的な動機による改革だ。極端に言えば、アカデミーの学生に類型を見出しうるだろう。
    「対処を要する問題を未然に防ぐ。こうすれば、有能な怠け者であらせられるヤーナ摂政殿下は麗しい隠遁生活を満喫できるとお考えなのでしょう」
     怠け者が追試や補講で夏休みを潰されないようにするべく、ほどほどにやる気を出して赤点を回避するのと本質的にはかなり近い。銃兵改革にせよ、学校制度と市民権拡大にせよ、緩やかな王家とセイムの近代化にせよ同じだ。
    「ヤーナ摂政殿下を恐れながら消防士に例えますと、大変な怠け者です。だからこそ、火事を防ぐことには人一倍熱心であらせられる。……まさに、怠け者らしい独特の感性をお持ちではありませんか」
     とはいえ、ここまで語ったところでモーリスは相手の反応も予想できている。大体は否定できないなとばかりに苦笑しつつ、一応は不敬ではありませんか、と苦言を呈してくるものだ。
     『摂政殿下はそういったことに目くじらを立てる狭量な方ではないでしょう』 
     『それは確かに』
     というようなやり取りを経て、モーリスは指摘するのだ。『可燃性』の体制を『難燃性』の体制に再構築するヤーナ体制は、存外に機能するだろう、と。
     往々にして、改革の失敗は『改革主義者』が急進になりすぎるからだ。
     モーリスの見るところ、『自分が正しい』と信じる御仁らの改革運動ほど危ういものはない。極端なことを言えば、辺境伯仲間のロヨナ女史のような理想主義者が政権を握っていれば、即日離反することを決意していただろう。
     或は、アカデミー神秘学教理部のエドウィージュ・コンスタン教授のようなバリバリの研究バカの下でも同じことだ。
     やる気のある改革主義者というのは、摩擦を生み出す。最高速度で走る船が水面をかき分けて大波を招くのと同じ理屈だろう。そうなれば、小波が大荒れの元になる。
     ……けれども、やる気のないヤーナ摂政殿下であれば。
     そもそも、トラブルを引き起こすまいという視点で改革に手を付けているのだ。傍から見れば、戦争によるゴタゴタに紛れて『改革の種が蒔かれている』という事実にすら気づき得ないという狡さだ。
    「それだけであれば……『酷く退屈』なのですけれどもね」
     退屈であれば、火遊びの一つも考えたことだろう。
     モーリスは自身の気質をよく理解している。遊びの為に我慢することは苦にならないにしても、我慢の為の我慢に耐えられる性質ではない。
     馬鹿どもが活気づく平和で退屈な日常の復活ともなれば、早速戯れ始めるものだ思い込んでいたほどである。けれども、そうはならなかった。それどころか、モーリス・オトラントにとって、戦後とは思いもよらぬ驚きの連続であった。
     最大の誤算であったのは、ヤーナ摂政の下で進められると踏んでいた戦後の再編を全て『押し付けられた』ということだろう。
     その瞬間には、愕然としたものだ。
     ヤーナ・ソブェスキ摂政殿下におかれては、権を潔く放棄され遊ばした……などと世間が賞賛する傍ら、『後事を託された』と祭り上げられる身としてみれば最悪だった。
     面白味のない厄介事を全てこちらに押し付け、スタコラサッサと楽隠居。
     元より、ある程度は承知してはいた。ヤーナという個人の気質は、おおよそ政治向きでないのだ。モーリスの見るところ、ヤーナ・ソブェスキの気質は有能な怠け者。
     だからこそ、ある程度段取りを整えたところで勇退を謀るだろうと踏んでいたのだが……見切りの良さは想像以上だった。
    「やれやれ、逃げそびれてしまいましたからねぇ……」
     愕然としたモーリスが気付けば、国政改革の大半は『モーリス・オトラント宰相』名義で推進するためになっていた。指示を出したのはヤーナ摂政であるにしても、実働はモーリス‐ブルーノというコモンウェルスの正式な官僚組織を通じてのそれなのだ。
     故に、ある程度のところでヤーナ摂政殿下はお逃げ遊ばしても差し支えないわけである。
    「あの瞬間は、本当にしてやられたものです」
     投げ出すか、と一瞬は考えるも……その後のゴタゴタを思えばとても割に合わない。
     往々にして誤解されがちなのだが、モーリス自身は、遊ぶのが好きなのだ。壊すことが好きなわけでもない。
     となると……精々、所与の前提環境が中で懸命に働くまでだった。
     彼は、世間をあっと言わせる勤勉さですべてに取り組み、短期間のうちに諸問題を解決。大宰相とほめたたえられる瞬間に職を辞すべく手配りを行う。
     ありていに言えば、本当に慎まやかな意趣返しを試みたのである。
     私心のない善良な一臣下として、名誉ある地位を敬愛するヤーナ元摂政殿下にご用意したい、と引退直前に零して見せたのだ。
     元より、ヤーナ・ソブェスキの巨大な名声は莫大な求心力を持っている。
     『身を慎んで隠遁されているとしても、名誉ある地位だけならば』と囁き、引退する前のささやかな恩返しを考えておりますとモーリスがヤーナに察知されえないように工夫すれば工作はおのずと動き出す。
     なればこそ、モーリス・オトラント辺境伯は宰相位から退く際にヤーナの元を訪れて白々しく嘆いて見せるのだ。
     隠居先の閑静な別荘にいるヤーナを訪ね、書斎に通されてみれば元摂政殿下におかれては優雅な自由を満喫しておいでなのだろう。高々と積み上げられた書物に混じり、何か考え事を続けていたらしいヤーナ殿下は上機嫌に紅茶とスコーンを供してくれるほど。
     拘っているのか、紅茶の茶葉と香りはモーリスをして味わい深さがわかる代物だ。隠居後、かき集めた茶葉をブランディングしたのよ、と告げられれば多趣味ですなと笑うほかない。
     そして、モーリスは何食わぬ顔で頷いていた。
    「私も、殿下と同じくこれで隠居暮らしです。……さて、中央官界で遊ぶこともないかと思えば、今少し残念ではありますね、趣味でも見つけてみようかと」
    「あら、そうなの?」
    「ええ、フランツ陛下をはじめとして人も育っています。私も、一貴族として王家を引き続き支えてまいろうかとは思うのですが」
     とはいえ、故郷に戻って少しばかり羽根を伸ばしてみたい気持ちもあります。今から、楽しみでなりませんね、などと白々しく呟いて見せるほどだ。
     本心としてみれば、ゆっくりと過ごすことはあまり楽しみでもなし。とはいえ、ヤーナ殿下が口惜しがるであろう『余暇』を満喫するためにならば、派手に有閑生活を楽しんで見せるつもりだった。
     我ながら、というべきだろうか。モーリス・オトラント辺境伯にしては、というべきかもしれない。まったく、迂闊だった。
    「……しっぽ、掴んでいないとでも?」
    「はて?」
    「セイムの議長予定者、あなたにしておいてあげたわよ?」
     ぽかん、と思わず度肝を抜かれたまま、モーリスはしどろもどろになりそうな口を辛うじて動かし、体制の立て直しを図る。
    「……おかしいですね。確か、ヤーナ殿下が再び中央の政治へと誰かから聞いていたのですが」
    「ふふふ、変な勘違いをする人々もいらっしゃるのね」
     またしても、とモーリスは微苦笑する仮面の裏で臍を噛む。
     してやられた。
     この自分ともあろうものが、裏をかかれていたのだ、と。
    「……全くでありますな。しかし、一つだけお伺いしたいのですが」
    「何かしら」
    「どこで、お気づきに?」
    「さっぱり、なんのことかわからないわね」
    「………さようにございますれば、臣もまたセイムで王家との橋渡し役を『喜んで』務めさせていただきます」
    「ええ、励んで」
     騙し、騙され、そして、意趣返し。
     結局のところ、勝敗はほぼほぼ五分五分であった。
     もっとも、怠けようとするヤーナ・ソブェスキの純粋意思に対しては、熟達した策士であるモーリス・オトラントの努力も空しく決定打を与えるには至らなかった、と付記しよう。
     そんな具合のまま、奇妙な緊張関係をはらみつつもヤーナ‐モーリスというラインは同時代のコモンウェルス、ひいては大陸の政治情勢を主導していく。
     コモンウェルス政界の重鎮、風見鶏、陰謀家、はたまた輔弼の臣。毀誉褒貶が激しい人物ながら、しかし、モーリス・オトラントは同時代にあって稀代の政治家として評価されていた。そして、というべきだろうか。
     歴史家からは、黄金の共和国にまかれた種をセイムにおいて孵化させしめるに一役かった政治家の一人、と高く評価されている。
     
           ◇
     
     かくして、そこからはコモンウェルスにおいて長らく語られる神話となっていく。
     常に自身の好奇心と趣味だけを追い求めつつも、ヤーナ・ソブェスキはあちらこちらへと顔を出している。ヤーナ殿下、フランツ陛下は、しばしば王城を抜け出してはコモンウェルスを散策していたなどと……ほほえましく語れる神話にも、原型はあったのだろう。
     神話の原型、と語られるそれ。しかし、俯瞰(ふかん)した視座でみれば……それはまいた種を見守る目でもあったのだ。
     まかれた種は、かくして見守られつつ育っていた。
     驚くべきことに、同時代人のうち、モーリス・オトラントのみが気づいたヤーナ・ソブェスキの種は……彼女の死後、花開く。
     他の封建諸国では流血なしでは為せなかった国民国家への移行はコモンウェルスにおいてのみは、移行という言葉すらはばかられるうちに完了していた。
     だからこそ、歴史家はヤーナ・ソブェスキはなすベきを終えた政治家として、『権力に干渉しない』という先例を残したのだと絶賛されている。
     王族にして、勝利者にして、王姉である彼女すらも、権においては一の市民として規範を超えることはありえなかった、と。
     行動において清廉であり、国家の有事において果敢。
     そして極めて有能な救国の軍神ですら、正統な政治権力に対しては常に従順であったという前例は、コモンウェルスの歴史において絶大な統制力を発揮する。
     コモンウェルスにおいて、彼女の前例が以後の比較対象として、権力者らに一定の制約を及ぼしたのは間違いない。
     権力に拘泥せず、軍務に優秀であり、それでいて戦争直後に隠遁する清廉さ。)
     世界において、見ているものが違いすぎると、同時代人ですら語るほどに彼女は異質であった。
     だからこそ、一部の歴史書は彼女のことを『異邦人』と表現する程だ。
     ヤーナ・ソブェスキ。その名前は、軍神として、異邦人というあだ名とともに、コモンウェルス第一の英雄として語り継がれている。
     同時に、と小さく専門家が付け加えている部分も語り継ごう。
     モーリス・オトラント。功臣にして、策士、はたまた、共犯者。謀略を心より愛した希代の風見鶏は、しかし、結果的にヤーナという一大の為政者が蒔いた種を悉く萌芽させしめる最大の補佐役であった。
     奇妙な緊張関係を含みつつも、稀有な両者の関係を基軸とするヤーナ体制は、フランツ・ソブェスキの治世が花開く基盤を完璧に整えて見せる。
     コモンウェルス青史が語って曰く、それはまさしく『怠謀連理』の時代であった。
       
    <完>

     


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