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 以前も話題にしたことがあるスーパーコンピュータ京(けい)が、クローズアップ現代で取り上げられました

 その圧倒的な計算パワーゆえ、様々なシミュレーションをでき、試作を大幅に減らせます。また人体のCTスキャン情報から、人体をシミュレーションして、血栓が起きやすい状態かどうかを予測しようという試みも始まったようです。以前取り上げたときは巨大地震の揺れ・沈下・津波のシミュレーションの目処がたったというものでした。

 またこれは世界でも行われていますが、中小企業など誰でも利用できるようになってきています。ノウハウに頼っている鋳造技術をシミュレーションで解析しようとしている中小企業の取り組みが紹介されていました。こういう広がりはどんどん広まってほしいです。

 息子達も見ていまして、特に車のシミュレーションを熱心にみていました。すると長男(7)が「僕だったら、トンネルから出たときの横風に対応するには、タイヤ四輪を同じ方向に曲げて車体を少し風上に曲げる」とか言ってました。なるほど。シミュレーションしたら面白そう。それにしても、数分その話聞いて、いきなりそれ言うとかやっぱ前提がないって強い。いろんな人が、自由にえー?といわれるような発想だろうがいろんなシミュレーションすることで、イノベーションはどんどん加速しそうです。

 本格稼働を始めたというスパコン京(けい)。これからが楽しみです。

 ちなみに、解くと世界が崩壊するというハノイの塔は、wikipediaの記述を元に考えると、京を使えば半年くらいでコンピュータの中では終わると思うのですが、つまりもう少し速いスパコンが出たら解けてしまうと思うのですが、その時世界は崩壊するのでしょうか・・・・。

 (ツイッターで@_Super_Reini_さんにハノイの塔は並列処理できないから京で半年ではできないと指摘いただきました。確かに…。まだまだ世界は崩壊しないようです。ありがとうございました)

スパコン活用のためには人材が必要

 さて、放送最期のまとめのところで、人材について触れていました。中小企業が活用するには、それを支援する人が不可欠で、教育するだけでなく自分でプログラミングすらしてしまうくらい強力な人材が必要だが、その体制が欧米より遥かに弱いと。

 となると国の支援が必要だねという話に陥りがちですが、注意が必要です。こういう人材は国の支援だとうまく集まりません。国の支援はいつ終わるか分からないので、迂闊になるとその後路頭に迷います。

産学連携の頓挫

 少し前産学連携が流行りいっぱい予算がついた時がありました。それまでアメリカで働いていた私はその予算のポストで日本で働き始めました。が、まあ数年して減額されたりなくなったりで今ではそういう国の予算はすっかり萎んでいます。その代わりに独立採算で運用できるほどに産学連携が活発になっていれば良かったのですが、そうはなっていません。仕組みは整い細々と続いてはいますが、まあ期待されたような規模にはなっていません。

 しかし、こういう話は、そうなりがちだよねとみんな身構えるので、大抵の人は本来普通の大学の研究者でいたいところを片手間でやります。片手間というのは、産学連携の支援をしながら、一方で普通に研究もして論文も書いて、つまり研究者としてのキャリアを途切れないようにします。いつ予算が途切れてもまた普通のポストに戻れるようにです(企業の人は企業に戻れるようにしておく)。

 本来なら産学連携支援に専念する人材を集め育てることで産学連携が発展していくはずですが、専念する人はほとんどいないので中途半端な結果になり、予算も減らされてしまい終わってしまいます。国の支援では、大抵こういう展開になります。

国の支援の限界

 スパコンを中小企業に活用してもらう支援員とあらば、30代辺りの活きのいい人材が論文なんか書かず専任でがんがんやってこそ素晴らしい支援ができると思いますが、そんな酔狂な没入をするお人好しはいません。人生かかってますから。

 これはほとんど不可避な構造です。民主党が悪いとか自民党が悪いとか官僚がわるいとかそういう話ではなくて、単年度予算で動いていく国ではどうしようもありません。もし、毎年評価もしないで少なくとも10年続けるって言ったら、国民が許しません。この点についてはむしろ官僚は必死に予算を守ろうとしてくれる味方です。

 「毎年成果をあげればいいじゃないか」と思うかもしれませんが、評価というのはある支援事業について日本中一律カット、あるいは打ち切りということもあります。つまり個人やチームの力ではどうしようもないことも多いです。そもそも省全体で予算を削れとなれば、こういうまだ立ち上がりきってないのは反発する勢力が弱いので切りやすいですし。つまり、やはりそういうポストに応募する人は、片手間に研究を続けて自衛する必要があります。

 いや、その期間研究してなくても、その期間の業績を評価して大学が研究者として採用すればいいと思うかもしれません。確かにそういう動きはあります。ノーベル賞の山中教授は、実績乏しい時に、奈良先端科学技術大学院大学が採用したという話もあります。でも一方でiPS森口騒動なんてものもあったりして、当然国民は怒ります。山中さんが出るということは、森口さんも出るということなのですが、大学は税金をたくさんもらっている以上、開き直ることも難しく、思い切った採用がしにくいのが現状です。研究者としては、それでも採用するような懐の深い大学に巡り会えることに将来を預けるのは現状困難です。

 もっと国民が理解をすべき問題でもありません。私は大学に近いので、その手の予算について、あぁその予算は切るべきではないのにとか、なんだこの無駄な予算はと思うことができますが、同じことをそれぞれの分野のそれぞれの人みんなが思っています。それぞれの分野の事情すべてを国民で共有することなどできません。

分厚く人材を確保するには

 じゃあいったいどうすればいいのか。たとえば基金。大学自身がどんどん自身の基金を強化すれば、スパコン支援員を自分たちで支援できますし、採用も裁量が効きますから、研究キャリアがとぎれた支援員を雇いやすくなります。この問題に限らず、どの大学も基金強化には力入れています。強化すればそれだけ、思い切った取り組みができ、素晴らしい成果をあげることでしょう。

 直接スパコン支援員を支える基金を立ち上げてもいいでしょう。国は国の予算だけでやろうとせず、どんどん国以外の資金を集めるといいと思います。その分野を支援したい・しなければならないと思う母体があれば、より息の長い支援ができます。

 一方で、スパコン支援員が立ち上がったら、どんどん横につながっておくべきだと思います。そうすると自分たちの価値をどうやってアピールするべきか洗練されていきますし、なんといってもその後の人材流動で効きます。

 産学連携のときはそれがうまく行かなかったように思います。同じ支援事業の中であればある程度つながるのですが、当時産学連携支援事業はいろいろあったので、それを横断してつながっていれば良かったと思います。今、産学連携分野は人材が手薄でたまに「いい人いない?」と聞かれるのですが、なかなかいないのです。スパコンについては、たとえば神戸市が支援していると番組で言っていたと思います。国、自治体など支援母体は違っても、人材同士は横につながっておくといいと思います。

 「京」を含め日本中のスパコンが誰にでも使えるよう行き渡るために、ぜひぜひぜひぜひ分厚い支援体制ができることを願います。そのためには、国にできるのは音頭をとるくらい、国だけではできないという現実をまずは関係者みんなで共有してほしいと思います。

 そしたら、未来はちょっと腕に覚えのある小学生が夏休みの自由研究でスパコン使ってこんなシミュレーションしました!なんてことも珍しくなくなるかもしれません。ああ楽しみ。

追記:さっそく他の方もとりあげていて、「京」にこだわる必要があるのかという厳しい視点。
 スパコン「京」に関する素朴な疑問

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