岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2017/08/26

おはよう! 岡田斗司夫です。

今回は、2016/07/17配信「ハインラインの世界~政治論炎上の根源を理解する最上の教科書」の内容をご紹介します。
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2016/07/17の内容一覧

論争を読んだ『宇宙の戦士』の「暴力」

 『機動戦士ガンダム』から故意に削除された政治思想というのがテーマになってくるんですけど、「リバタリアン入門」っていうの語ってみようと思います。
 これが『宇宙の戦士』ですね。

 ロバート・アンスン・ハインラインという人が書いた、1959年ですね、昭和34年、『ALWAYS 三丁目の夕日』の1年後に書いたやつです。
 その頃にしたら先駆的な作品ですね。この表紙に書いてあるのがパワードスーツ。人間が着て、なかの動きが何十倍にも増幅されるスーツ。
 これジャンプしてるんですけど、軽くジャンプするだけで、背中のロケットブースターに点火されて、10メートルとか20メートルの高さに上がって、数百メートルくらい前進することができる。すべて人間の動きを何倍にも拡大することができる。聴力、耳の力にしても視力にしても、何倍にも拡大された。
 これは最近のSF映画では当たり前のように使われているんですけど、それを初めて小説の中で体系的に書いた、兵器として集団運用したら戦争はどんなふうになるのかということを書いたSF小説なんですね。
 この『宇宙の戦士』というのは当時のアメリカでも軍国主義とか暴力肯定と言われて、わりと大騒ぎになりました。『宇宙の戦士』『スターシップ・トゥルーパーズ』というのが原題なんですけど、宇宙の歩兵っていうんでしょうね、トゥルーパーズ。

(中略)

 60年代末から70年代はベトナム戦争で、反戦つまり戦争行為に対してはめちゃくちゃ反対運動が盛り上がったんですけど、核兵器をアメリカが持つことに関して、一番盛り上がったのが1958年『宇宙の戦士』の執筆当時ですね。
 アイゼンハワー大統領に色んな団体、学校から婦人団体から核兵器を放棄しましょうとか使うのやめましょうという署名が殺到してた時代でもあります。アメリカ自体が、戦争という行為に疲れてた時代なんでしょうね。朝鮮戦争もあり、第一次大戦でヨーロッパがもう戦争は嫌だ、と思ったのと同時に、第二次大戦でアメリカは勝ったんですけど、国が経済的にもすごい疲弊して若い人の労働力が奪われると。もう戦争はこりごりだと。やっと核兵器なりなんなりをもって、地球最後の戦争を終わらせたという実感があったんで、反戦気分もかなりあった時代です。

 その時代に『宇宙の戦士』という、これは子供向けの小説なんです。ジュブナイルっていわれる、青少年向けって言うんですけど、どちらかというと中学生高校生を対象にしたハインラインの一連の作品のひとつです。相手に軍隊へ行くことの正しさ、戦争をする正しさを語ってるんですね。ラノベの元祖みたいなものですね。
 『宇宙の戦士』のかなり最初の部分、主人公がもうすぐ高校を卒業する。その中で道徳哲学の時間というのがある。あまり聞いたことがない言葉ですけど、これはもちろんハインラインの造語です。
 道徳哲学という授業があって、それはいっさいテストとかない。聴いてるだけでいい授業。その道徳哲学の授業は元軍人の先生が来て、子供たち学生たちに怖い考えというのを教える。たとえば公民権に関して読み聞かせたりとか憲法の権利に関して読み聞かせたりとか、というようなわりと過激な授業をするんですけど、最後の授業で学生たちに自由に質問させるんですね。
 そんななかである女生徒から、「暴力はなにも解決しないと母から言われました」と言われるんですね。これよく聞く考えですよね。基本的に今の現代の日本でも、反戦の話とか自衛隊の話とかすると、暴力では最終的に何も解決しないというのは、すごくよく聞く考え方です。
 それに対して、この道徳哲学のデュボア先生という元軍人の人は、暴力は歴史上最も多くのことに決着をつけてきた、解決するとは言ってないんですね。最終的な決着というのは、歴史上最も多くのことを決着づけてきた。これに反対するっていうのは、最悪の希望的観測にすぎない。この事実から目を背けようとする民族、種族は、その命と自由という高い代償を支払わされる、と言いました。

 『宇宙の戦士』を僕が初めて読んだのは、高校生くらいでちょうど主人公と同じくらいの年齢だったんですけど、すごいショックだったんですね。暴力でしか解決しないとは言ってないんですね。暴力によって、歴史上だいたいのことは決着がついてきたと。このことから目を背けるなと。暴力で何も解決しないというのはそのとおりなんですけど、それを言いだしたら話し合いでも何も解決しないし、金でも解決しない。
 解決っていうのはなくて、歴史の中では決着というのがあるだけだと。だから勝者と敗者というのがあって、敗者は恨みを残すと。それはもう一回繰り返しますけど、話し合いであっても金であっても合理的な解決法であっても、成田闘争とかを見てもわかるとおり、どんなに話し合いをつくそうともどうしようとも、解決はしないんですよね。ただ決着があるだけ。
 で、暴力が歴史上最も多くのことを決着させてきた。そのことから目を背けてはいけないという授業。ここまでは別に、暴力主義でもなんでもないんですけど、ハインラインがこれを書いた1959年のアメリカでは、これを学校の先生が生徒に言ってるってだけで、すごいスキャンダラスな内容だったんですね。つまりこれって非武装中立とか非武装による平和、軍を捨てるっていうことを望むのであれば、暴力による決着っていうのが最も単純で最もありがちなんだから、非暴力による決着を望むのならばものすごい、暴力によるより何倍も手間やコストや時間がかかるっていうことを覚悟しておけ、っていうんですね。そういうお話にもなるんですよ。

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