岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2018/04/23
おはよう! 岡田斗司夫です。
今回は、2018/04/15配信「【追悼特集】本当は千倍怖い『火垂るの墓』から、高畑勲を読み解く!」の内容をご紹介します。
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2018/04/15の内容一覧
- 本当は10倍怖い『火垂るの墓』
- 視聴者からのお便り
- 『火垂るの墓』「冒頭5秒の謎」
- 見逃しがちな重要なカットが表している「人間性を失った清太」
- 観客が勝手に感情を読み取る「クレショフ効果」
- なぜこんな「トラウマアニメ」を作ったのか?
- なぜ高畑勲の演出意図は観客に伝わらないのか?
- 高畑勲は観客に悩んでほしい
- 『火垂るの墓』の本当のテーマとは?
- 高畑勲の矛盾と宮崎駿の嫉妬
- 高畑勲の一番の理解者は宮崎駿
- 『誰も語らなかったジブリを語ろう』で押井守が指摘したこと
- 死は美しく、生は醜い
- 前半の100倍怖い『火垂るの墓
- 高畑勲の描きたかったもの
- 清太がカメラ目線になった理由
『火垂るの墓』「冒頭5秒の謎」
『火垂るの墓』の冒頭の流れを説明します。映画が始まって一番最初のシーンを、カットごとに順繰りで説明していきますね。
- まず、真っ暗闇の中、カメラ目線で真っ正面を向いた清太の幽霊が現れます。そして、「昭和20年9月21日夜、僕は死んだ」というふうに関西弁のイントネーションで言います。
- 次に、清太の幽霊が見ている光景として、駅構内で死にかけている自分の姿が映ります。
- この時点では、一応、ハアハアとまだ息をしているんですね。
- でも、やがて崩れてしまう。
- すると、駅員がやってきて、清太が死んだことを確認します。そして、「ああ、こいつも死んでしもうた」ということで、遺品を探っていたら、ですね、ポケットの中からなんか缶カンが出てくる。
- 何の缶カンかわからないので、駅員がそれをポイと捨てると、捨てられた缶の中から骨が出てきて、季節外れの蛍がポワッと現れる。
- その蛍の中から1人の女の子の幽霊が現れる。妹の節子ですね。節子はお兄ちゃんの死体を見ています。
- 節子の幽霊がお兄ちゃんの死体に駆け寄ろうとすると、後ろから肩を叩かれて止められる。
- 振り返ると、そこには生きていた頃の優しいお兄ちゃんがいて、2人はそのまま手を繋いで、蛍のいる草原を右から左へ歩いてフェードアウトする。
- この、2人が通り過ぎたところに、『火垂るの墓』というタイトルが表示されます。
まあ、ちょっと簡単に説明したんですけども、こういう大きい流れで出来ています。
さて、実はこの「まだ生きている自分を、死んだ清太の幽霊が見つめる」というシーンには、よくよく見ると、すごい秘密が隠されているんですね。
それは何かというと……さらに細かく、1カットずつ検証していくとこうなります。
- まず、「昭和20年9月21日夜僕は死んだ」と正面を見つめて言う清太の幽霊。
- そう言ってから、清太の幽霊は次に右下に視線を流します。
- すると、駅構内の柱が映るんですけど、この時、手前に何かが映ってるんですよね。わかりますか?
- 柱があって、その手間に、何か物が映ってて、これがスーッと消えたと思ったら、次に、死にかけている自分がボワっと現れて、次のカットに流れるんですね。
この柱の前にあるものは何か? ということで、この3番目の部分だけを、よく見えるように引き伸ばしたのが、これです。
実は、死にかけの自分の姿が映る前に、この柱の手前には、こういう形の物が描かれているんですね。
この曲線的なデザインを見るに、これは戦前に作られたものじゃありません。これ、実は灰皿なんですよ。それも「現代的にデザインされた灰皿」なんですね。
僕はこれ見た時に「ああ、やっぱりそうか!」って思ったんですけども。つまり、清太は、死んで幽霊になった後も、現代の日本に留まり続けているんです。
『火垂るの墓』は1988年の映画なんですけど、その時点でも、清太はあの場所に居る。そして、そんな清太の幽霊が昔のことを思い出すと、そこが昔の風景に戻っていく。つまり、「清太はいまだに三宮の駅に居て、かつての記憶を思い出して苦しんでいる」ということなんですね。
「本当にそうなのかな?」と思って、念のために『火垂るの墓』のBlue-rayのディスクの特典を見たら、ちゃんと制作当時に神戸まで行って撮ってきたロケハン写真というのが載っていたんですよね。
そのロケハン写真をみると、柱の横に、やっぱり同じデザインの灰皿があるんですよ。
まあ、これは劇中に描かれている柱とは別の柱なんですけど、冒頭に描かれていたのとまったく同じ灰皿があります。
実際にモデルとなったこの柱の横に、灰皿だけを移動させたわけですね。
このロケハン写真を見てもわかる通り、『火垂るの墓』の冒頭では、現代の駅にある灰皿を描くというようなことをやっているんです。
つまり、『火垂るの墓』というのは、決して過去の話ではなく、現代のシーンから始まっているんです。「ラストシーンで、現代に戻ってくる」とみんな思ってるんですけど、違うんですよ。そうじゃなくて、冒頭の一番最初から現代なんですね。
清太の霊は、いまだにあの場所に留まっていて、自分の人生最後の3ヶ月間を、何千回も、何万回も、何億回もリプレイして、苦しんでいるというお話なんです。
みなさんがコメントに書いている通り「地縛霊」みたいなものなんですね。まあ、地縛霊というのは「その場所に縛られ続ける霊」という意味で、清太たちは電車に乗って移動するから、正確には違うんですけども。
じゃあ、なぜ彼は、死後も、映画公開時点で43年間も、過去に囚われ続けているのか? そういった理由説明が、ここからはじまる映画なんです。
つまり、「なぜ彼は、死んでから43年も経つのに、自分が一番ツラかった時のことを見返さなきゃいけないのか?」という理由を、これから90分掛けて説明してくれるという構造になっているんですね。
この全体構造がわかっていると、この映画の見方ってだいぶ変わってくるんですよ。実は、この作品って「かわいそうな話」とかではなくて、「なぜ彼が、こんなにも呪われているのか?」を解き明かすという「ミステリー」になっているんですね。
(続きはアーカイブサイトでご覧ください)
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