岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/09/21
今日は、2019/09/01配信の岡田斗司夫ゼミ「ブラタモリ手法でラピュタ世界を語る〜『天空の城ラピュタ』完全講座ついに第3弾!」から無料記事全文をお届けします。
岡田斗司夫ゼミ・プレミアムでは、毎週火曜は夜8時から「アニメ・マンガ夜話」生放送+講義動画を配信します。毎週日曜は夜8時から「岡田斗司夫ゼミ」を生放送。ゼミ後の放課後雑談は「岡田斗司夫ゼミ・プレミアム」のみの配信になります。またプレミアム会員は、限定放送を含むニコ生ゼミの動画およびテキスト、Webコラムやインタビュー記事、過去のイベント動画などのコンテンツをアーカイブサイトで自由にご覧いただけます。
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本日の予定
【画像】スタジオから
こんばんは、岡田斗司夫です。
もう9月1日ですね。9月最初のニコ生になりました。
「こんばんは」(コメント)
はい、こんばんはです。
「昼飯食い過ぎて晩飯が食えない」(コメント)
結構ですね。僕はもう、昼とか夜がわからなくなりました。
もう、かれこれ14時間、ずーっと座ってレジュメを書いていたので、何が何だかわからなくなっているんですよね(笑)。
あとは、放送が始まる前のコメントで「今日はアロハかな? スーツかな?」と聞かれてたんですけど、もちろんアロハであります。
基本的に、11月くらいになったら、またスーツを着ると思いますけど、それまではアロハでやらしていただきたいと思います。
あと、今日、たぶんね、まあ、ちゃっちゃと行けると思うんですけど、わりと長いと思うので、無料の終わりに1回トイレ休憩を入れます。
チャンネルに入っている人は、限定放送と合計して、ちょっと長くなるし、シンドいと思いますので。途中で5分くらいトイレ休憩入れようと思います。
悲観的な『なつぞら』とミラクルへの期待
【画像】スタジオから
さて、では最初は今週の『なつぞら』です。
もうね、『なつぞら』ね、エラいことになっててですね。先週は出産で、今週は育児ですよ。もう、僕的にはテンションだだ下がりで。
しかも、理不尽な展開も多くて。
例えば、なつが作画監督をやっている『キックジャガー』。まあ『タイガーマスク』と『キックの鬼』を足して割ったような作品なんですけど。
このアニメの最終回に不満を持ったなつが、ストーリー展開に口出しをするんですけど。「作画監督がストーリーに口出しするってそれアリか?」と。「作画監督の仕事はそれじゃないでしょう?」と。
まともに作画監督は……いやいや、こんなことを言ってもしょうがないかもわからないんですけども。
あの『ガンダム』の作画監督をしていた安彦良和さんですら、『ガンダム』の内容に口出しをするようになったのは、自分でマンガを描くようになって、おまけに自分が監督をするようになってからですから。
そういうのは、プロとしての誇りを持っている人間だったら、あんまり考えられないんですよ。
やるんだったら、もうちょっと「それまでにも『キックジャガー』の演出とか脚本の人と会話をしていた」という流れを作ってからでないと。あそこでいきなりポーンと口出しをした結果、みんな「なつのアイデアはすごい!」「それいいね!」と言うようになるっていうのは、もう本当にバカの書いた脚本だと思うんですけど(笑)。
でね、次週は幼馴染の天陽君が死んじゃうわけですよね。「天陽君さようなら」って書いてあるから、死ぬのがもう、丸わかりなんですけど。
最終回まで、あと4週しかないんですよ? 4週しかないのに、丸々1週間、こんなくだらないことに使うなんて!
そもそも、この幼馴染の天陽君を死なせる理由がないんです。「単に番組を盛り上げたいから殺す」という「見てる人を泣かせたいから殺す」という、もう本当に無駄死にというか、これで泣く人も無駄泣きですよ。
これ、昔、手塚治虫が言った「いや、まあ、感動させたいから殺すんですよ」という言葉を聞いた宮崎駿が「僕はその瞬間から手塚治虫を見下しました!」って言ってたんですけど。この例のやつをモロにやっちゃうわけなので。
「朝ドラにそれを期待するな」(コメント)
いや、そういう意見もわかるんですけど。
でも「『まんぷく』の時は、もうちょっとラーメン業界や食品業界に対して、真面目に取り組んでいたんじゃないか! 『マッサン』の時は、もう少し、ウィスキー業界に真面目に取り組んでたじゃないか! お前ら、アニメ業界を、あまりにも馬鹿にしてるぞ!」というのが見えてしまって。
「朝ドラだからダメ」っていうんじゃないんですよ。「同じ朝ドラでも、他のネタだったらもうちょっと、真面目にやるはずなのに」って思うんです。
今回のテーマはアニメだからって……なんか昔「自民党のどっかの大臣か議員さんが、秋葉原でちょっと演説しただけで、オタクのお兄さん達は喜んでファンになっちゃう」っていう、痛い事件があったんですよ。こういうふうに、オタクというのは、ちょっと色目を使われると簡単に喜んじゃうもんだから、あいつらは、すぐに図に乗るんですよ。もう、ご立腹ですよ、斗司夫ちゃん。
・・・
まあ、最後の2週間は、たぶん、生き別れの妹の話で、またまたしょーもない泣かせをするに決まっているから、「もうアニメのことを詳しくやる暇はないんじゃないか?」と、僕はもう、絶望しかけてるんですよ。
これはもう、脚本家さんの向き不向きの問題で。今回の脚本さんは、ファミリーモノでお涙頂戴の話は、まあ、お上手に書けるんです。でもね、職業系の描写が全く下手くそ。才能ゼロで。
まあ、例えて言うならば「橋田壽賀子が無理して『アオイホノオ』を書いている」みたいなもんなんですよ。「『渡る世間は鬼ばかり』を書いてりゃいいんですけど、『アオイホノオ』は違うだろ?」と思うんですけども。
前回、僕は「『なつぞら』に、のんが登場するとしたら、『宇宙戦艦ヤマト』のプロデューサーじゃないか?」と言ったんですけど。
のんが登場するとしても、『ハイジ』をモデルにした『十勝の少女そら』の声優としての出演で、下手したら声だけの出演になるんじゃないか、と。
そうすれば、NHKとしては「歴代の朝ドラ女優を全員出しました」という体面も保てるし、そして、何か知らないけど芸能プロに対しても気を使えるという。なんかね、そこまで悲観的に見てて。
もう今週は捨てました。今週は捨てたんですよ。もう幼馴染が死ぬから。
なんですけど、「その後の3週間で、何かミラクルが起こりますように」と。
この「ミラクルが起こりますように」というのは、有名なセリフで。昔、『ドラゴンボール』がハリウッドで実写化された時に、鳥山明が試写を見て、目の前が真っ暗になったんだけど、でも、現場パワーでミラクルが起きるかもしれないと言ったそうなんですけど。
僕も同じです。「何かミラクルが起こりますように!」と、今、祈っています(笑)。
三度目となるラピュタ解説は、「ラピュタ遺跡」を掘り返す
【画像】スタジオから
ということで、じゃあ『天空の城ラピュタ』の話に行きましょう。
今日は『ラピュタ』の特集です。でもね、内容とかテーマは、2018年の1月7日と1月14日の回で、わりと語り尽くしてるんですよ。
なので、今回は、ちょっと別方向から話してみようと思います。
これは、『ラピュタ』に登場するスラッグ渓谷の、宮崎さんがわりと初期に描いたイメージボードです。
(パネルを見せる)
【画像】スラッグ渓谷 © 1986 Studio Ghibli
今回、話したいのは、このパズーの生まれ育ったスラッグ渓谷の話なんですよ。「そもそも、このスラッグ渓谷というのはどんな場所なのか?」ですね。
『ラピュタ』というのは、もともとは、宮崎さんが、かなり昔にテレビシリーズとして企画していたお話だから、このスラッグ渓谷に関しても、何時間もの、テレビ放送何週間分ものエピソードが詰まっているんですよね。
『天空の城ラピュタ』という作品は、劇場アニメとして作られることになり、カットされてしまったんですけど。本編の中には、そういった「考えたんだけど、カットされてしまった」とか「時間の都合で入らなかった」みたいなアイデアとかエピソードがいっぱいあるんです。
そういうのを僕はラピュタ遺跡って呼んでいるんですけど。ラピュタの中にまだ残っている初期のアイデアが、本編中にチラチラ出てくるんですよね。
そういうラピュタ遺跡について、今回は話してみようと思います。
『ラピュタ』って、すごく話しやすいアニメなんですよ。
なぜかというと、高畑勲がプロデューサーやってたからなんですね。
高畑勲は、『風の谷のナウシカ』と『天空の城ラピュタ』でプロデューサーをやったんですけど。イコール、どういうことかというと「宮崎駿にかなりツッコんだ」わけですよね。
例えば、当初はラピュタの全体像が見えなかったところに、高畑勲が「全体像を見せないと話にならない」と説得して、見せるようにさせたとか、そういう高畑勲の考え方がかなり入っているんです。
それ以降、『トトロ』と『火垂るの墓』で、2人がお互い別々に監督をするようになってからは、そんなにキツいプロデューサー的な縛りがなくなってしまったので、宮崎駿としては、高畑勲の目を気にしながらも、わりと自由に作れるようになったんですけど。
なので、『ナウシカ』と『ラピュタ』って、お話としての背骨がすごく強いんです。だから、かなり色々と語れるんですよね。そういう意味では「なぜ、これが入らなかったのか?」という、本編内に残された遺跡を見つけやすい作品になっています。
・・・
今回は、このスラッグ渓谷を説明するにあたって、こういう簡単な地形の模型を作ってみました。
(模型を見せる)
【画像】スラッグ渓谷模型
この谷に住んでいる人にとって、この鉱山というのがどういう場所なのか?
なぜ、こういうふうに、街が谷の色んな場所に点々と存在しているのか? 底の方にまで存在しているのか?
なんで、こういう鉄道が走っているのか? パズーの家はこのてっぺんにあるのか? この巨大な穴、この鉱山はどうなっているのか?
そういういろんな謎が、この地形図を作ったことによって解ける部分もあります。
他にも、スラッグ渓谷の「スラッグ」とは何だろうかという問題もあるんですけども。こういったスラッグ渓谷の話が、今日語るラピュタ遺跡その1です。
・・・
次に、その2は……ちょっとこれ、小さいんですけど、ラピュタ自体の模型ですね。
(模型を見せる 株式会社さんけい みにちゅあーとキット ラピュタ城)
【画像】ラピュタ模型
これが、クライマックスの舞台になっている天空の城ラピュタです。
【画像】ラピュタ模型裏
これを見るとわかるんですけど、この裏側の部分が崩落しています。この不完全さを見て「かつてはどんなすごい城だったのか?」と考えた人もいるんじゃないかと思います。
『ラピュタ』の設定っていろいろ発表されているんですけど、不思議なことに、このラピュタ自体のサイズはどこにも書いていないんですね。
なぜかと言うと、映画の中で、サイズ的に矛盾する描写がいくつもあるからなんです。だから、決めようがない。
しかし、今回の講座では、画面上のいろんな証拠から、ラピュタのサイズを特定することに成功しました。
その結果、「映画に登場するラピュタのサイズは、直径なんと1760mで、東京の中心にある皇居とか、あと大阪城とほぼ同じサイズである」ということがわかりました。
しかし、そんな巨大に見えるラピュタですら、実は、大崩壊した後の姿なんですね。そもそも、このラピュタというのは、2500年前に大空に浮かび、この地上の全てを支配していたはずなんですけど。それは、今の崩れたラピュタではないんですよ。
当時の完全体としては……うーん、どう説明すればいいかな? 「完全体」というと、思わず『ドラゴンボール』で説明したくなるんですけど(笑)。
完全体のラピュタというのは、なんと直径5.4kmで、高さが3.7km。ほぼ富士山と同サイズなんですね。幅としては、富士山の宝永山あたりまでを含めた全て。高さとしては、富士山より100m高い。それが、完全体のラピュタだと考えてください。
そうですね。今のラピュタとかつてのラピュタは「フリーザさまの一番最初に車椅子みたいなのに座っている時と、最終形態くらいの強さの差がある」と思ってくれればいいです。まあ、フリーザ様の例えではサイズの差はあまりないから、言っても無駄ですね。
ラピュタ遺跡その1がスラッグ渓谷だとすると、その2はラピュタそのもの。2500年前に空中に存在した、天空の巨大なラピュタというのを完全再現しようと思います。
・・・
ラピュタ遺跡その3はポムじいさんです。
(パネルを見せる)
【画像】ポムじいさん © 1986 Studio Ghibli
このポムじいさん、実は、かなり重要なキャラクターなんですよね。
パズーとシータがスラッグ渓谷の地下で会う、人のいいお爺さんなんですけど。この爺さんの重要性に気が付いている人が、ほとんどいないんですよ。
例えば、ポムじいさんの登場するシーンって、5分もあるんです。124分の映画の中で、まるまる5分あるんですよ。すごく長い。
セリフの分量で言えば、パズー、シータ、ドーラ婆さんに続いて4番目にセリフが多いんです。実は、悪役であるムスカよりも多い。つまり、それくらい重要なキャラクターなんです。
おまけに、このポムじいさんが出て来るシーンは、パズーとシータとポムじいさんの3人しかいない。すごく重要なポイントなんですね。
実は、このポムじいさんこそ、『天空の城ラピュタ』に登場する最重要キャラクターなんです。
宮崎駿は、とにかく124分という尺に収めるために、いろんなお話とか設定とか、登場人物のセリフを削りに削ったんですけど、やっぱり、このポムじいさんの出番は5分以下には削れなかったんですね。
では、そんなポムじいさんというのは、何者で、何を象徴するキャラクターなのか?
これはポムじいさんが登場する、ほとんど最後のカットなんですけど。
(パネルを見せる)
【画像】パズーとポムじいさん © 1986 Studio Ghibli
ポムじいさんが残される真っ暗な穴と、パズーが「さあこっちだ!」とシータを誘う地上の光溢れる世界。この何気ないカットで、宮崎駿は何を伝えようとしたのか?
ラピュタ遺跡その3は、謎のキャラクター、ポムじいさん。この謎を徹底的に追ってみようと思います。
・・・
あと今日の都市伝説ですね。
毎回毎回、ちょっとした、ちょっと不思議な話や怖い話、都市伝説の話をしているんですけれども。今日の都市伝説は幻の空中帝国についてです。
ジョナサン・スウィフトが18世紀に書いた『ガリバー旅行記』の中に出てくるのが、空に浮かぶ王国ラピュータなんですけど。その他にも小人ばかりの国リリパットや、巨人の住むブロブディンナグというのが登場するんですよ。
この『ガリバー旅行記』というのは、当時、アフリカとかアジアで発見された小さい人種とか、あとは巨人族の骨が次々と発掘されたという事件に大きく影響されてるんですね。
ジョナサン・スウィフトの『ガリバー旅行記』というのは、一応、政治風刺であったり、社会風刺を目的に書かれたものではあったんですけど、決して元ネタがない話を書いていたわけではないんです。
じゃあ、この空中帝国ラピュータというのは、一体どんな元ネタがあったのか? 空に浮かぶ王国というのも、何か現実の事件をモデルにして作られた話だったはずなんです。
では、空に浮かぶ王国というのは何だったのか? これを話してみようと思います。
これは、当時の『ガリバー旅行記』に載ってたイラストなんですけど。
(パネルを見せる)
【画像】ラピュータイラスト
磁石で浮かぶラピュータ。後は、そのラピュータという小さい島の下にある巨大な島がバルニバービという、ラピュタに支配されている島です。
アジアの果て。アジアの東の果てにある謎の国・日本の、さらに東の海に、バルニバービという大きな島があって、その上にラピュータという、直径4.5マイルの空に浮かぶ島が浮いている。
実は、これにはモデルになった実際の事件があるんです。
中世の初め頃、10世紀になる前のフランスでは「雲の上に人間が住んでいる大陸がある」と信じられていたんですね。
「そこに住んでいる人がいる」と、本当に信じられていたし、その目撃談や、それどころか貿易の記録まで、多数残されています。
そんなふうに、歴史上、本当にあった空の上の王国の話とかを、都市伝説として紹介したいと思います。
・・・
あと、今日のプレミアム放送、放課後の時間は、一応、予定としては「岡田斗司夫の妄想劇場」ということで、『ラピュタ2』、『続・天空の城ラピュタ』というのを語ってみようと思います。
実は、本編の中にいっぱいヒントが入っているんですけど。それをちょっと妄想してみる、と。
あと、『ラピュタ』の生まれた場所。宮崎駿が『ラピュタ』のアイデアを考えるために使っていた隠れカフェの正体というのを、まあ、放課後の時間には紹介してみようと思います。
それでは、ここまでが目次です。では、『ラピュタ』語りを始めます。よろしくお願いします。
鉱山を掘るだけの街ではない「スラッグ渓谷」の秘密
【画像】スタジオから
じゃあ、ラピュタ遺跡その1、スラッグ渓谷の話に行ってみましょうか。
もう一度、このイメージボードの登場です。
(パネルを見せる)
【画像】スラッグ渓谷 © 1986 Studio Ghibli
これが、主人公パズーの住むスラッグ渓谷ですね。
まあ、さっきも話したように、『天空の城ラピュタ』の中には、アニメのシーンの中には残ってるんだけど、パッと見ただけではなんだかわからない、元々のアイデアの残りであるラピュタ遺跡というのがいっぱいあるんですけども。
このスラッグ渓谷を、ブラタモリ形式で見て行って、ラピュタ遺跡を探してみましょう。
「スラッグ」というのは何かというと、「鉱石から金属を精錬するときに出るカス」のことなんですね。金属を精錬する中で、何倍、何十倍ものカスが出るんですけど。
【画像】スラッグ渓谷炭住 © 1986 Studio Ghibli
ただ、このイメージボードを見ると、「炭住」って書いてあるんですよ。これ、何かというと「炭鉱住宅」のことなんですね。石炭堀りの人たちが住む、共同住宅のことです。かつて、三池炭鉱や夕張炭鉱、有名な軍艦島にもあった炭鉱住宅というのが、ここにズラーッと並んでいるわけなんですけど。
つまり、初期設定では、スラッグ渓谷というのは、鉱山の街ではなく、炭鉱の街だったんですね。
炭鉱では、石炭の何倍もボタと呼ばれるカスが出るんですよ。石炭の塊みたいなものをとって、それを割ると、その中からほんのちょっぴりの石炭と、その何十倍、何百倍ものボタというカスが出るんですね。
なので、炭鉱の近くには、どこにでもボタ山というのが出来ました。ボタを堆積した山のことです。軍艦島の何が優秀だったのかというと、ボタを全部、海に捨てられたので、ボタ山がほとんどなかったところなんですけど。
『空の大怪獣ラドン』という映画を見たら、幼虫の怪獣がボタ山を登るシーンがあるんですよ。あれ、山のように見えるんですけど、そうじゃないんですね。石炭を掘った時に出るボタが、もう本当に、何百mという高さの山のように積まれている。
炭鉱の周りには、ボタ山という人口の山が出来る。つまり「このスラッグ渓谷の深い谷というのは、実は自然の大地ではなくて、人間が掘り出した石炭のボタ、カスで出来ている」というのが、たぶん、初期の設定なんですね。
だから、こんな無茶苦茶な地形になっているんですけども。
しかし、石炭の炭鉱になるはずが変更が入って、パズーの住む山は、石炭ではなく、銀とか銅とか錫などの貴重な金属を穫るための場所という設定になりました。
かつては、鉱石が豊富に採掘出来た場所。しかし、今や、鉱石はあまり穫れず、スラッグというカスばかりが目立ってしまう。その結果、誰か呼んだか、スラッグ(鉱石クズ)の谷、スラッグ渓谷という呼ばれ方をされるようになったわけですね。
・・・
じゃあ、これをさっきの模型でもう一度見てみましょう。
(模型を見せる)
【画像】スラッグ渓谷模型
この模型、すごくいい加減です。どれくらい、いい加減かというと、裏から見ると新聞紙が見えるくらいです(笑)。
(裏側を見せる)
【画像】スラッグ渓谷模型裏
これ、持つ場所を気をつけないと、ベコベコとヘコむんですよね。今回1回きりしか持たない強度しかありません。
これが、スラッグ渓谷の全体の形です。
実際の谷の深さは、これの2倍くらいあります。つまり、この模型では嘘をついているんですけど。本当は、谷の壁面はこの模型よりももっと高さがあって、山肌にポツポツと家があるんですけど、この谷の底には、街がびっちりと建ち並んでいます。
丘の上の位置には十字路が走っています。
(模型を見せる)
【画像】模型十字路
ここが、街のメイン通りになっているわけですね。
一番最初に、乗っている飛行船が襲われてシータが空から落下するシーンがあるんですけど。
(パネルを見せる)
【画像】シータ落下シーン © 1986 Studio Ghibli
落ちていくシータの横に、かすかに十文字の光があるんですよ。見えるかな?
【画像】シータと地上の光 © 1986 Studio Ghibli
それが、次のカットに切り替わると、このスラッグ渓谷の十字路になっているんですね。
まあ、「この十字路に落ちている」というよりは「スラッグ渓谷にまっすぐに落ちていますよ」ということなんですけど。それは、このカットの背景に、かすかに見える十字の灯り、パズーが走って買い物に行っている商店街の灯りが見えることからもわかります。
もう一回、模型の方を見てください。
(模型を見せる)
【画像】スラッグ渓谷模型十字路
十字路のある商店街の位置がここです。パズーの家がこの辺で、パズーがシチューを届ける親方がいる鉱山の穴がここです。
パズーは自分の家からこの穴に働きに行って、その後「晩飯を買ってこい」と言われたので、この道をガーッと降りて、十字路に行ってシチュー買って、またガーッと来た道を登って、鉱山へと戻ったわけですね。
・・・
【画像】商店街 © 1986 Studio Ghibli
映画の中では、十字路がもう一度アップになったと思ったら、ソーセージか何かを揚げるか炒めるかしている店が映って、次にパズーがシチューを買う店というのが映ります。
(パネルを見せる)
【画像】ソーセージの店 © 1986 Studio Ghibli
【画像】シチューの店 © 1986 Studio Ghibli
これが、まあ、さっき話した十字路のある商店街の辺りの風景なんですけど。
ここで注意してほしいのは「夜も遅いのに、お店屋さんが開いている」ということなんですね。
これは「パズーが行った時間が夜といっても、まだ早い時間だから」ではないんですね。かなり夜も遅い時間に行ってるんです。
これ、なぜかと言うと、鉱山というのは、世界中の鉱山、どこでもそうなんですけど、24時間、人が働いているものなんですね。1日3交代制で昼夜を問わずに働いている。
なので、鉱山の街というのは、どんな店も、だいたい24時間営業なんですよ。そりゃもう、本屋であれ、オモチャ屋であれ、メシ屋であれ、飲み屋であれ、映画館であれ、キャバレーであれ、喫茶店であれ、全ての店が24時間営業なんです。
なので、こういうふうに、いつも賑やかな街なんですね。
パズーは、そんな賑やかな街を走り抜けるんですけども。よく見ると、こうふうに、道の傍らにうずくまっている人とか、寝ている人がいるんですね。
(パネルを見せる)
【画像】寝ている人 © 1986 Studio Ghibli
これは、宮崎駿らしい街の描写なのかというと、そうではなくて。景気のいい鉱山の街では、こんなことは絶対にありえないんですね。
例えば、軍艦島の記録のフィルムとかを見てもわかるんですけど。軍艦島というのは本当に24時間営業で、その上、そこで働いている人は、当時の大卒の給料がだいたい3千円とか5千円だった時代に、8万円くらいの月給を貰っていたんです。
それだけの給料をもらっていた炭鉱夫は、こんな街の端っこで寝たりはしないんですね。とにかく、みんな元気がいいし、こんなふうに道端に倒れている人がいたら、それを助ける人が現れて、次の飲み屋に連れて行ってくれるという、本当に景気のいい場所だったんですけど。
スラッグ渓谷というのも、かつて街が発展して24時間営業の店がどんどん増えていた時期はそうだったんでしょうけども、今では、もう、そうではなくなってしまったというのが、ここから見て取れるわけですね。
・・・
パズーは、そこで落ちてくる女の子を目撃して助けに走ります。
(パネルを見せる)
【画像】走るパズー © 1986 Studio Ghibli
鉱山の穴があるところに女の子が落ちてきて、パズーが「わあ! なんだ!?」って言って走り寄る。
これ、シータと反対側に走ってるように見えて、実は、こちら側に回り込んで、この大滑車の横を走り抜けて女の子を受け止めようとしてるわけですね。
さて、この鉱山の穴、異常にデカいです。たぶん、直径50mくらいあります。
鉱山のこの直径50mの穴は、深さも50m以上あります。そんな穴の底から、さらに簡単なエレベーターで、だいたい垂直に800mくらい降りた所に採掘場があります。
このエレベーターの降下速度というのは、もうほとんど自由落下と同じで。下に降りるまで、乗っている人の足が宙に浮いている状態だったそうです。炭鉱で働いていた人の証言をDVDとかで見ると「手すりを真っ白になるまで握りしめるくらい怖い」そうですね。本当に自由落下の速度で落ちるから。そうやって恐怖に耐えながら、底まで降りるそうです。
この巨大な中央のプーリー(滑車)は、そのエレベーターの巻き上げ機です。パズーが親方に「お前、やってみろ」と命令されたのがこれの操作ですね。
カンカンという音が鳴ったんだけど、親方は手を離せなかった。「パズー、お前がやってみろ」「えっ?」「慎重にやれ!」と言われて、パズーが握ったレバーというのは、蒸気エンジンでこの滑車を回してエレベーターを巻き上げる装置なんですね。
800mの深さを、だいたい、10秒とか20秒くらいで上がってくるという。もう本当に、スカイツリーよりも高速のエレベーターなんですよ。ブレーキのタイミングを間違えたら全員即死なんですよね。
当時、本当に炭鉱の記録でも、「エレベーターの操作を間違えたせいで全員死亡」という事故がよくあったくらいですから。だから、パズーは緊張してたんですね。親方も、それくらい手が離せなかったから、パズーのことを見込んで「こいつなら、やれるだろう」と思ったわけです。
・・・
さて、エレベーターで穴の底から上がってきた男たちは、さっそく、獲ってきたサンプルを地質学者に見せます。
(パネルを見せる)
【画像】地質学者 © 1986 Studio Ghibli
このおじさんは炭鉱掘りではないんです。まあ、ちょっとバイザーみたいなのを着けているんですけど、この虫眼鏡で掘った鉱石を見てるんです。いわゆる、地質学者というやつですね。
しかし、彼がサンプルを見ても……この石の間に入っている模様みたいなものを見ているんですけども。それを見ても、銀はおろか、錫さえも見えない。つまり「ハズレだ」ということですね。
親方は、もう本当にがっかりして、窯から蒸気を抜きます。
(パネルを見せる)
【画像】窯と蒸気 © 1986 Studio Ghibli
親方がレバーを引くと、窯からブッシューッと蒸気が広がるんですけど。
この「諦め切って蒸気を抜く」というのは、こういう仕事をやっていない人にはなかなかわかりにくいんですけど。蒸気を抜くと、窯の圧力というのは一瞬で下がっちゃうんですね。ここから先、蒸気機関で動く機械というのは、一切動かなくなるわけです。翌朝、また1時間くらいかけないと、窯の蒸気というのは上がらない。
小説版の『ラピュタ』(宮崎駿・亀岡修『小説 天空の城ラピュタ〈前篇〉』 アニメージュ文庫 徳間書店)を読むと、「パズーが1人、早起きして、窯に火を入れて、床掃除をして全身汗まみれになって、脱いだシャツを絞ったら汗が水のように落ちるくらい時間を掛けて掃除すると、ようやっと窯の温度が上がってくる」という描写があるんですけど。それくらい高価な石炭を焚いて焚いて焚きまくって、巨大なボイラーの中に蒸気を貯めていたわけですね。
その全ては「この新しい坑道の中から、まあ、銅とはいわない。銀とはいわない。せめて錫くらいは見つかるだろう」と思ったから。だからこそ、みんなで夜勤して、わざわざ弁当も買いに行かせて、力を合わせてやっていたのに、それがダメだったわけです。
ということで、みんな諦めて、散々、窯の温度を上げて貯めていた蒸気を抜いてしまった。ここら辺から、親方達の絶望感というのが見て取れるわけですね。
・・・
この蒸気機関の蒸気というのは、何のために使うのか?
さっき見せたような「巨大な滑車を動かして、エレベーターを動かす」というのもあるんですけども、それはあくまでも、ついでなんですね。どちらかというと「まあ、エレベーターがあったら便利だから」というような仕掛けなんです。
実は、蒸気機関の蒸気というのは、何のために発明されたのかというと。そもそもは「汽車を動かすため」でもなければ、「船を動かすため」でもないんですよ。蒸気機関の蒸気というのは、もうひとえに「鉱山の坑道の底に溜まっている湧き水を汲み上げるため」なんですね。
蒸気機関を発明したのは、ワットではなく、ニューコメンという人なんですけど。このニューコメンも発明したのは「坑道の下の溜まっている水を、とにかく抜くため」なんですよ。
本当にね、鉱山の仕事というのは水との戦いで、どんどん水を抜かなきゃいけない。そのために蒸気機関というのが発明されたんです。
炭鉱というのは、深さ15mくらいまでは、まあ、大丈夫なんですけど、15mを超えると、湧き水が最大の問題になってくるんです。
地面の浅い部分というのは、炭鉱でも鉱山でも、あっという間に掘り尽くせてしまうんですけど。産業革命前には、炭鉱の深さも、そろそろ50mを超えて、だいたい100mくらいになってきたんですよ。
そうなると、もう最初の頃は、手掘りの井戸みたいにして、カラカラと手で水を汲み上げてたんですけど、それではもう、どうやってもやりようがなくなってしまった。
なので、ニューコメンという……たしか神父だか牧師だったんだと思うんですけど、まあいいや。この人が発明したのが蒸気機関だったんです。
その結果、「鉱山の湧き水を汲み上げるために、こんなに便利なものはない!」ということで、あっという間に世界中の炭鉱や鉱山に普及しました。
そして、蒸気機関がヨーロッパ中に普及したおかげで、さっき見せたような巨大な滑車によるエレベーター設備と、蒸気機関というのが、鉱山や炭鉱のシンボルみたいになったんです。
・・・
こういう設備が全て出来た頃、この巨大な滑車のエレベーターや蒸気機関の設備が整った頃くらいが、スラッグ渓谷の黄金期です。
渓谷中に、軽便鉄道が敷かれたのも、この時代だと思います。
(模型を見せる:株式会社さんけい みにちゅあーとキット 機関車とオートモービル)
【画像】軽便鉄道模型
これが、スラッグ渓谷内を走っている軽便鉄道の模型です。
でも、実際はこうじゃなかったと思うんですね。これは、宮崎駿が、ちょっと面白く描くために作った嘘で。当時の軽便鉄道の線路というのは、木造じゃないんですよ。
このスラッグ渓谷のモデルとなっているのは、イギリスのウェールズだと言われているんですけど。当時のウェールズは、すでに、こんな木で橋桁を組めるほど木材が豊富ではなかったんですね。産業革命の初期の頃に、木材というのは切り尽くされて、燃やされ尽くされてしまったので、イギリスには、もう鉄しか残ってなかったんです。
なので、世界産業遺産の第1号って、確かイギリスにある鉄橋なんですよね。鉄で作った橋というのが産業遺産になっている。それはなぜかと言うと、「もう、イギリスには、こんな良質な木材がなく、鉄で橋を作るしかなかったという時代だったから」なんです。
だけど、ここら辺で、ちょっと嘘をついてですね、カッコいい木材で作った橋桁の上を軽便鉄道という簡単な鉄道が走るようになっています。
スラッグ渓谷には、この軽便鉄道が、ありとあらゆるところに敷かれています。
(模型を見せる)
【画像】スラッグ渓谷模型線路
これは、スラッグ渓谷の中を走っている軽便鉄道の模式図みたいなものです。このダンボールで作っている線路みたいなのが軽便鉄道なんですけど。この位置に駅があって、ここからかなり縦横無尽に走っています。
【画像】スラッグ渓谷美術ボード © 1986 Studio Ghibli
縦横無尽というのはどれくらいかというと、スラッグ渓谷の美術ボードを見ると……美術ボードというのは、背景さんが背景を描く前に、見本として描かれる絵のことですね。
背景さんというのは、何人ものチームで動いているんですけど、チーム全体に対して「こういうふうに背景を描きましょう」ということで、美術監督が描き下ろす絵のことを美術ボードと言います。この美術ボードを見て、背景のそれぞれのスタッフが「俺が描くのは昼だから、これくらいの光で」とか「俺はこの位置のアップだから、これくらい」とか「朝だから、もっと朝もやが出てている」みたいに調整して描くのが、アニメーションの背景なんですね。
この美術ボードを見てもわかる通り、かなり縦横無尽に軽便鉄道の路線が走っています。
これは、スラッグ渓谷が、単なる鉱山を掘るだけの街ではなく、その精錬から加工まで、ありとあらゆる作業を全部一手に引き受けていた街だったんですね。
だから、街の中に線路を敷きまくっているわけです。あらゆる場所で、加工の作業場や工作設備があるので、この街はもう本当に煙突とか線路だらけの、こういう不思議な構造になっているわけです。
まあ『映像研には手を出すな!』の作者の大童さんが喜びそうな構造になっています。
・・・
このスラッグ渓谷、実はちょっと不思議な部分があるんですけど、わかりますか?
スラッグ渓谷には、本来だったら絶対にあるべきものがないんですよね。このような大規模工場の街には、絶対にあるようなものが。
例えば、有名な「パズーがスラッグ渓谷の夜明けにトランペットを吹く」というシーン。
パズーの家は、スラッグ渓谷の一番眺めの良いところにあって、ここでラッパを吹くと、向こうの方から太陽の光が差してきて、朝日がスラッグ渓谷の崖を照らしていく、すごく綺麗なシーンなんですけど。
なぜ、こんな良い場所にパズーは住んでいるのか? この崖の上に本来あるべきものがないんですよ。
あるべきものがない。それが何かは、宮崎駿が『ラピュタ』公開の2年前に手掛けたテレビアニメ『名探偵ホームズ』を見ればわかります。
『名探偵ホームズ』の第11話「ねらわれた巨大貯金箱」という回があって、この中に、スラッグ渓谷とそっくりな場所が出てくるんですね。
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【画像】ギルモアの谷 ©RAI・TMS
これはギルモアの谷と言われています。ホームズとワトソンがオートモービルで坂を登ったらビックリ。その下には、ギルモアの谷と呼ばれる、巨大な煙突がズラーッと並んでて、煙をモクモク吐いていて、貧乏人が山のように住んでる工業の街がありました、というやつなんですね。
もう本当に『ラピュタ』のイメージ元になったような作品なんですけど。これ、本当にスラッグ渓谷そっくりなんですよ。
そして、スラッグ渓谷の中からわざと削除されたものがここに描かれています。それが、これです。
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【画像】ギルモアの屋敷 ©RAI・TMS
これはギルモアの屋敷なんですよ。カメラが下から上に上がっていくと、最初はスラッグ渓谷の貧乏な家が見えて、そのはるか上方、丘の上に、ギルモアさんという人が住んでいる立派なお屋敷がある。その屋敷の中の黄金の貯金箱がキラーンと輝いているというシーンなんですけど。
【画像】黄金の貯金箱 ©RAI・TMS
そうなんですよ。あるべきものというのは、ギルモアの谷を所有するギルモアさんのような、大金持ちの屋敷なんです。
つまり、炭鉱にしても鉱山にしても、実は維持や開発には巨大な資本が必要なんですね。なので、ギルモアの谷の上には、谷全体を見下ろすようにして、金ピカのギルモア屋敷が建っているんです。
しかし、スラッグ渓谷の山のてっぺんには金持ちの家がないんですよ。さっき見せた通り、上の方まで工場でいっぱいで、全然、金持ちの家がない。
だから、パズーも山の上の一等地みたいなところに住めるんですね。
これは、宮崎駿が思いつかなかったから、気が付かなかったから、気にしなかったから、そんなことではないんですよ。たった2年も前に、わざわざ自分で作品を作っているわけですから。『名探偵ホームズ』の中では、丘の上に建つ金持ちの家というのをちゃんとやってるんですよ。
では、これがなぜかと言うと「この谷から、金持ちはいなくなっちゃったから」なんです。「この30年ほどで、スラッグ渓谷は経済的に没落していったから」なんです。
スラッグ渓谷というのは、ギルモアの谷の30年後の世界なんですね。巨大な資本が撤退して、どんどん貧乏くさくなっていった。
パズーが住んでいる家も、周りの家並みからすると、おそらく教会なり公民館なりの施設だったんですよ。そういう場所が空き家になって、水道とかも流れていない丘の上は不便で、暮らしにくいからということで、パズーでも住めるようになっている。そういう場所なんだと思います。
・・・
「スラッグ渓谷は、ギルモアの谷の30年後の世界だ」と言いましたけど、さてじゃあ、そんな貧乏なスラッグ渓谷とはどんなところか?
これはパズーの親方のおかみさんです。
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【画像】親方のおかみさん © 1986 Studio Ghibli
まあ、巨乳で肩幅も広く体格も良くて、しっかりしたおかみさんなんですけど。実はこのおかみさん、宮崎駿自身が『アート・オブ・ラピュタ』(アニメージュ編集部編『THE ART OF LAPUTA 』ジ・アート・シリーズ7 徳間書店)という美術本の中で解説しているんですけど、この女性、まだ20歳なんですよ。
今、コメントでも書いてた人いるけど、そう。20歳なんです。「15歳で結婚して、すでに子供がいる」という設定で。
つまり、メッチャクチャ結婚が早いんですね。この親方は15歳の嫁をもらって子供を産ませて生きているんです。
これ、なぜかというと「鉱山で生まれ育った第2第3世代が早目に結婚しているから」なんですよね。
早目に結婚して家族を持つ。これは、景気が良かった鉱山街にあるあるの現象なんですよ。昔、景気が良かったから。それくらい昔は儲かったんですね。なので、若いやつは、さっさと嫁を貰って、さっさと独立した。
だって、他で働く10倍とか20倍の給料が手に入るから、もう若いやつが家の中で我慢する必要がないんですよ。「長男しか家を継げない」とか、そんなことではなくて、次男も三男も働いたら働いただけ儲かって、どんどん嫁を貰って、家を建てた。だから、スラッグ渓谷というのは、あんなにひたすら家が増えていったわけですね。
その結果、若い嫁さんを貰うというのが、当たり前の習慣になっている。すごく景気が良かった時代の習慣が、まだ続いているんですね。
こういう鉱山に流れ着いて、鉱山で働くようなやつというのは、世界中の鉱山を回るベテランというのはほとんどいないわけですよ。「あそこに行けば金が稼げるぞ」と聞いた食いつめもの達が集まって、それでも、働きだしてみたら、あまりにも稼ぎがいいから、そのまま定住しちゃったような人ばっかりなんですよね。
だから、金払いもいい。そういう人らは、お金を貰ったら、すぐ遊ぶから、飲み屋とか娯楽施設がどんどん出来るんです。
そして、若いやつは、さっきも言ったように、どんどん独立して、おかみさんみたいな15歳の女の子と結婚する。それが、もう本当に当たり前になっていたわけですね。
・・・
スラッグ渓谷は、そういう時代の名残りで習慣だけは残っているんですけど、経済的にはどんどん景気が悪くなってきています。
理由の1つは「掘りやすい深さにある鉱石は、すでに掘り尽くしてしまったから」です。つまり、800mくらい降りて、横穴も2kmも3kmも、下手したら5km10kmと延ばさないと、もう鉱石が獲れなくなっちゃったんですよね。
しかし、さらにさらに深刻な理由が、この地形の模型と、鉱山鉄道の模型の中に隠されています。
なぜ、スラッグ渓谷は、こんなに急速に景気が悪くなってしまったのか? それは、このかわいい素敵な軽便鉄道のせいなんですね。このスラッグ渓谷を縦横に走る路線、このちゃんと出来ている鉄道路線自体が街の寿命を縮めてしまったんです。
これは歴史的な事実なんですけど、19世紀の半ばくらいには、スラッグ渓谷と同じような、山の中にある鉱山がいっぱいあったわけです。石炭だけでなく、いろんな鉱山の街があったんですけど。
そういうところは、だいたい19世紀の半ばくらいに急激にゴーストタウン化しちゃったんですね。
だから、このスラッグ渓谷の悲劇というのは、何もここだけの話じゃないんですよ。別に「石炭とか鉱石が取れなくなったから」という理由だけではなく、こういう山の中の街はどんどん滅びていってしまった。
これは、イギリスだけの話ではなくて、アメリカ大陸でも同じでした。アメリカにある古くからの工業都市というのは、だいたい、山の中とか大陸のど真ん中にあることが多かったですけど。それらは廃れてしまったんですね。
その代わりに大きくなったのが、ピッツバーグとかデトロイトなんです。
鉄鋼の街、スティールタウンと呼ばれるピッツバーグは、オハイオ川の隣にあって、デトロイトはエリー湖とヒューロン湖という2つの湖の間に挟まるようにあるんですけども。
19世紀の半ば、産業革命が進行すると、なんかね、動かすものがやたら重く巨大になっちゃったんですよ。工作機械も巨大なら、作られるものも巨大で。あとは燃やさなきゃいけない石炭も、とんでもない量になったんですね。
なので、鉄道などの陸路でしか運送手段がないような街というのが、どんどんコスト高になってきたんですよ。その結果、水路、水上運送が出来る、川とか海とか湖とかに面した街に工業地帯が移ってくるようになったんです。
もちろん、工業製品を作るためには大量の水が必要だということもあったんですけど、何より輸送の問題が大きかったんですね。
僕は、今年の3月にデトロイトに行って来て、フォードミュージアムというのを見てきたんですけど。そこで案内を直接聞いて、本当にビックリしたんですけども。デトロイトって、自動車の街だと思ってたんですけども、自動車の街になる前に、ちゃんとその準備というのが出来ていたんです。
18世紀の半ばくらい、本当に、ちょうどスラッグ渓谷が寂れてきた時代くらいから、デトロイトという街は、どんどん大きくなってきていた。ガイドのお姉さんが言うには「デトロイトがたまたま湖の近くにあったから」だそうなんです。
その時代のデトロイトというのは、自転車とか、馬車とか、そういう金具とかを作ってたんだけど。技術が発展するにつれて、それらのものが重くなって、運ぶ荷物も、もう何トンもの重みになってきた。それまでは「鉄道で運べばいいじゃん、馬車で運べばいいじゃん」と思ってたのが、もう、船でないと全然コストに合わない時代になっちゃった、と。
だから、デトロイトという街は生き残った。その後、自動車が発明された後にはモータータウンになったんだけども、「それはあくまで結果論であって、まずは水上運送というのがあったからだ」と言われました。その辺、かなりビックリしたんですけど。
この軽便鉄道も「この貨車がいくつ引っ張れるか?」って問題なんですよ。
水上だったら、速度さえ気にしなければ「こういう船を山程つないでタグボートでひっぱる」ということがいくらでも出来るんですけど。鉄道の場合は、こういう機関車をいくら強力にしても、引っ張れる貨車の数には限界があるんですね。
なので、こういう山の中にあるような工業都市というのは、どんどんコスト高になってきたんです。決して「鉱石が獲れないから」という理由だけではなくて、「鉱石が獲れていても、これだけの鉱石を運ぶのに輸送コストが掛かるから」ということで、他所の街に負けてしまう。なので、街がゴーストタウン化してきたわけです。
スラッグ渓谷は、たとえ金属が獲れたとしても、輸送を考えると、採算の獲れない鉱山になってしまいました。
……すみませんね、なんかこんな社会の教科書みたいなことを(笑)。
でもね、そこら辺をおさえているから、宮崎駿のアニメって、やっぱり面白いんですよね。
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結局、『ホームズ』で描いた時代、オートモビルというのがろくになくて水上運送というのを気にしなかった時代は、金持ちがちゃんと街の近くにいて「オラオラ、支配者だ! この街はワシのものじゃ!」という感じになるんです。
ところが、水上運送の時代になると、このスラッグ渓谷もギルモアの谷も本当に山の中にあるので、こういう街はどんどん寂れていってしまうわけなんですよ。
鉱山は、徐々に徐々に、寂れて貧乏になって、まずは、そういうギルモアの谷のギルモアさんみたいなオーナー達が街から消えます。
谷に自分の名前をつけていたわけですよ。「ギルモアの谷」って。だから、スラッグ渓谷も、たぶん、昔はオーナー一族の名前がついてたはずなんですよね。
でも、鉱山の権利を、もう銀行か何かに売り飛ばして、自分たちはロンドンとかパリとかニューヨークみたいな、新しい産業の街、商業の街へ、さっさと移動してしまった。
こういう人達が、後のロックフェラーとかロイスチャイルドなどの財閥になったわけですね。
しかし、このオーナー一族というのは、ギルモアさんみたいに威張って、みんなを奴隷のように働かせるという部分もあったんですけど、逆に言えば、自分が作った鉱山には思い入れがあったんですね。
なので、そういうお金持ちの一族が持っている鉱山というのは、実は長持ちしたんですよ。段々と効率が悪くなってきても、一族が持っているものだから「これはファミリービジネスだ」というふうに、無理してでも運用しよう開発しようとしてくれた。その結果、生きながらえた鉱山というのは、世界中にいっぱいあるんですけども。
ところが、銀行というのは、そういうオーナー一族と違って、鉱山に思い入れがないんですね。だから、採算が獲れなくなったら、あっという間にやめちゃう。
小説版の『ラピュタ』の冒頭には「親方達が半日かけて街まで出かけて、鉱山の持ち主である銀行と交渉する」というエピソードがあるんですよね。
だけど、交渉には全く手応えがなくて、その代わりに、どこかの田舎に「骨のお化け」のようなものが落ちてきたという話を聞いて帰ってくる。実は、それが、ラピュタから落ちてきたロボット兵なんですけど。そこからお話が始まるという、なかなかにくい演出になっているんですよ。
わざわざ半日かけて街まで行ったのに、「今の持ち主である銀行のやつらは、もう俺達の鉱山を閉める気だ」という親方達の疲れ果てた話と、その中でもちょっとパズーを楽しませようとして「こんな不思議な話があるんだぞ」という、空から落ちてきたロボット兵の話が絡んで、なかなか良い物語の始まりになってるんですけど。
これも、ラピュタ遺跡です。「映画の中で、もうそんなことをやっている暇はない」といって、ブツッと切られちゃったわけなんです。
・・・
というわけで、鉱山の持ち主が銀行だとしても、その銀行も、すでに街に引き上げちゃってるだから、スラッグ渓谷の自治権というのは持っていないんですね。
「ギルモアの谷」だったら、ギルモアさんが支配してて、いろんなことに口出しをする。それはそれで困ったことなんですけど、銀行は銀行でどっかに行っちゃってて、「儲かりさえすればいいから、お前らの勝手にやって」というふうに言って、親方達に完全に自治権を渡してる。
だから、「どっちの方向に坑道を掘ろうか?」というのも、親方達次第だし、「今日の仕事はやめだ」と言ったり、「残業だ」と言って頑張ってしまうのも、もう全部、親方達の胸三寸になってくるわけなんです。
「いつ掘り進めるのか? いつ休むのか?」といのも、自分達で決めなきゃいけない。そういう自治権だけは残ってる。
スラッグ渓谷の「他所者にはわりと冷たく、自分達には自信があって、そして権力には決して屈さない」という男たちの文化の根っこは、スラッグ渓谷が段々と貧乏になって来た時に、自治権だけは自分達で持って、銀行と交渉しながら、自分達で仕事をやっているという、ここらへんの自信にあるんだと思います。
しかし、銀行も、この調子で儲からなければ、廃山、閉山を言い出すに違いないわけですね。
このラピュタ遺跡その1であるスラッグ渓谷に、金持ちが住んでないのは「すでにこの鉱山が美味しい場所ではなくなったから」なんですね。
映画『天空の城ラピュタ』の中で、描かれなかった背景。でも、映画の中をよく見ると、例えば、道の隅っこでしゃがんでるオッサンとか、空中海賊とかと対立して自信満々で立ち向かう親方たちとか、そういう部分に残っている。そんな、ラピュタ遺跡としてのスラッグ渓谷を、ブラタモリしてみました。
スラッグ渓谷には、もう1つ秘密があるんですけど、それは後半の限定の方で……限定でも無理かな? 放課後の方で話すことになると思います。
凧と模型から算出したラピュタの巨大さ
【画像】スタジオから
ラピュタ遺跡その2です。完全再現、2500年前の空中帝国ラピュタという話を、ちょっとしてみようと思います。
映画の中でムスカがシータに言うんですけど、ラピュタが捨てられたのは700年前です。シータやムスカの祖先たちは、700年前にラピュタを捨てて地上で暮らし始めました。その後、無人になったラピュタは、誰にも知られずに雲の中をさまよっていたんですね。
では、ラピュタというのは、どんな都市なのか? これを、ブラタモリ風にやってみようと思います。
さっきも話したように、これがラピュタ自体の模型なんですけど。
(模型を見せる)
【画像】ラピュタ模型
700年前に滅んだ空中国家ラピュタなんですけど。このラピュタの大きさって、ほとんどどこにも書いてないんですよ。
ジブリ作品って、たぶん数字が稼げるから、検証サイトはいっぱいあるんですけど、それでも、ラピュタ自体のサイズを書いてる人はほとんどいないんですね。
ありがたいことに、映画の中にわかりやすいシーンがあります。それが、これなんですけど。
(パネルを見せる)
【画像】ゴリアテとラピュタ © 1986 Studio Ghibli
ちょっと暗くてわかりにくいんですけど、これは空中戦艦ゴリアテという、軍が持っている最新型の空中戦艦です。それがラピュタに横付けしているシーンがあるんです。
ゴリアテの全長は312mという設定が出てるから、これを見ると、ラピュタの直径って500mくらいに見えるんですよ。
しかし、もし、ラピュタのサイズが500mだとすると、他のシーンと矛盾するんですよね。
その矛盾というのは何かというと、シータとパズーがラピュタに上陸して「あ、池がある」と言って覗き込んて、「うわー」とビックリするシーンなんですけど。なぜ、ビックリするのかというと、実は、それは池ではなかったからなんです。
(パネルを見せる)
【画像】パズーと池 © 1986 Studio Ghibli
上から見て行ってください。ここにシータとパズーが小さくいるんですけども。池かと思った狭い隙間から下を覗いて見ると、ずーっと下まで続いていて、古代の石造りの都市が水の中に沈んでいて、その中になんか不思議な深海魚みたいなのが泳いでいるという、すごい壮大なパノラマの風景があったんですね。
【画像】池の中 © 1986 Studio Ghibli
こんな超巨大なビル群が水の中に沈んでいた。つまり、この水深は、どう見ても100m以上はあるんです。これ、果てしなく底の方まであるんですけど。
ということは、もしラピュタの直径が500mだとすると、そんなラピュタの池の中に水深100m以上あるような水中都市というのはどうやっても入らないんですよ。
じゃあ、なぜ、こんなゴリアテのシーンが出ているのかというと、これはもう簡単で、実は、このシーンではゴリアテをわざと大きく描いているんですね。
小さく描いちゃうと「ゴリアテが来た!」っていう恐怖感が出ないんですよ。「ゴリアテに横付けされてしまった! 軍に見つかってしまった!」という緊迫感や絶望感を出すために、わざと絵で嘘をついているわけですね。だから、大きく描いてるんですよ。
・・・
実は、今回用意したこのラピュタの模型というのは、ペーパートイなんですね。超精密にレーザーカットされた紙を重ねて作る模型なんですけど。
これを企画制作している「さんけい」っていう会社の担当者の人と、以前、偶然に話をしたことがあるんですね。
本当に偶然なんですよ。大阪に、日本橋という、秋葉原に次ぐ大オタクタウンというのがあって。その日本橋のど真ん中に、ジョーシンスーパーキッズランドというビルがあるんです。
だいたい5階建てか6階建てくらいで、全てのフロアがオモチャや模型で埋まっているという、もう夢のようなところなんですけど。僕、日本中にいろんなオモチャ屋があるんですけど、たぶん、日本で一番楽しいのは、このジョーシンスーパーキッズランドじゃないかと思ってるんですけども。
そのジョーシンスーパーキッズランドに行った時に、偶然、さんけいさんの「みにちゅあーとキット」の、かなり精密な完成品がいっぱい飾ってあったんですね。
「うわ、すごい!」と思って見てたら、それぞれに時間が書いてあるんですよ。このラピュタの模型だったら「7時間」って書いてあって。さっきの軽便鉄道の模型だったら、だいたい「7時間」とか「8時間」くらいなんですよ。
ところが、それよりちょっと大きい、キキとジジの家とかになってくると、「13時間」とか「17時間」になってきて、『千と千尋』に出てくる湯屋は「170時間」って書いてあるんですよ。もう、目眩がして。170時間(笑)。
『千と千尋』に関しては、湯屋だけでなくて、湯屋の向こうにある時計台とか、あとは街の全てがペーパートイで出てるんですよ。で、それぞれが全部「23時間」とか「40時間」とか書いてあって。
担当者の方から「私、担当なんです」って言われたので、「これは、素人だったらこれくらいかかるけど、慣れてきたらもっと早く作れるんですよね?」って聞いたら、「いえ、かなり慣れている人で170時間です」って言われて。もう本当に、頭がクラクラしたんですけど(笑)。
なんでこんな時間が掛かるのかというと、この株式会社さんけいって、もともとはオモチャの会社ではなくて、建築模型の会社なんですね。
建築模型の会社が「ジブリの建物って面白い」ということで、わざわざジブリに対して「あなたの映画の中に出てくるものを精密な建築模型として再現したい」と企画を持ちかけたんです。
ジブリはジブリで「いや、実は宮崎駿って、映画の中でいっぱい嘘をついてます。正確に作ろうとしても、困ったことが出ますよ?」と言ったんですけど、さんけいさんの方は「いや、それは映画のセットとしては当たり前ですから、そこら辺は、ちょっと話し合って作っていきましょう」と。
ということで、ジブリから資料をもらって「ちょっとここに矛盾があります」と、ジブリ側に質問状を出して、そうして出来たのがこのシリーズなんですね。
なので、実はかなり正確なんですよ。いろんな嘘や矛盾はあるんですけども、それを現実的な部分にまで落とし込んで作っているんです。
何が言いたいかというと、これは、縮尺模型としてかなり正確なんです。
例えば、このラピュタ、真上から見ると、ラピュタの中心にあると思っていたガラスドームが、中心からややズレた位置にあるのがわかるんですね。
(模型を見せる)
【画像】ラピュタ模型
こういうのも、やっぱり模型を作ってみないとわかんないんですよ。
・・・
さて、ここに小さい丸い部分ありますよね? この緑の部分。
(模型の一部を指す)
【画像】ラピュタ模型のテラス
この小さい丸い部分が、今回のラピュタのサイズの算出の全ての基礎になります。
この丸い部分は何かというと、パズーとシータが乗っている凧が不時着した、あのテラスなんですね。
というわけで、ここからはブラタモリ形式で「じゃあ、ラピュタのサイズはどれくらいなのか?」というのを測ってみようと思います。
全ての基礎はこのカットです。
(パネルを見せる)
【画像】ラピュタのテラスと凧 © 1986 Studio Ghibli
もう数字を色々と書き込んでいるんですけども。墜落した凧の翼の幅に注目してみましょう。
これは翼がひん曲がっているんですけど、実は翼が折れているわけではないんですね。というのは、最後にパズーとシータが乗る時に、パズーが「ワイヤーを張り直せは大丈夫だ」と言ってるので、曲がっているだけで、折れてはいないんです。
この凧のサイズがわかれば、このテラスの直径が、ほぼわかるようになります。
では、この凧のサイズはどれくらいか?
凧のサイズが一番ハッキリわかるのが、このカットなんですけど。
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【画像】アンリとパズー © 1986 Studio Ghibli
これは「タイガーモス号の上で、ドーラ家の3番目の弟のアンリがしゃがんでいるところに、パズーが梯子を登って来る」というシーンです。
このコックピットには、後にパズーとシータが2人で乗るんですけど。だいたい子供2人が身体をぴったりくっつけないと乗れないようなサイズです。
なので、この凧のコックピットの幅を、僕は100cm、1mだと考えました。自分でも、「ドーラ一家としては小柄なアンリが、しゃがんでこれくらいの幅になる感じってどれくらいかな?」と思ったら100cm、1mだと考えました。
このコックピットのサイズがわかると、後に翼を伸ばすシーンがあるので、コックピットと翼の比率から凧のサイズがわかります。
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【画像】凧 © 1986 Studio Ghibli
この凧、翼長が、なんと12mもあります。かなり大きいんですよ。
翼長12mというのは日本海軍のゼロ式戦闘機とほぼ同じ大きさですね。零戦の翼長が11mだから、それよりちょっと大きいくらいなんですよ。
2人乗りで、パズーが操縦して、動力もない凧を飛ばすには、確かに翼長12mくらい必要なんですね。これくらいの翼の面積が必要。「さすが宮崎駿」って思いました。
僕ね、7mか8mくらいだと思ってたんですけど、でも、2人乗りで、最後、ゴンドアの辺までシータを送っていくとか、いろんなことを考えると、ちょっと苦しいなと思ってたんですけど。この12mというのは良いサイズだと思います。それをワイヤーで固定しているというのもにくいですね。
この12mがわかったことで、これで、クラッシュして翼がやや畳まれている状態の凧が落ちているテラスのサイズがほぼ特定できます。
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【画像】凧のサイズ © 1986 Studio Ghibli
クラッシュしているので、この翼の幅を8mと仮定して、僕はテラスの直径を30mと計算しました。
これで、やっとラピュタ全体のサイズに取りかかれるわけです。
……すみません、こんな話でみんな大丈夫? 本当に、俺はすごい楽しいんだけど(笑)。
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【画像】テラスのサイズ © 1986 Studio Ghibli
テラスが直径30mだとしたら、このテラスとラピュタ本体を繋ぐ橋の長さが、おそらく44m。意外なことに、テラスよりちょっと長いだけなんですね。
すると、ラピュタ全景が引きで見えるシーンがあって。
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【画像】ラピュタの半径 © 1986 Studio Ghibli
この長さが40mだとすると、このラピュタの中心部からの半径が、ほぼ335mということがわかります。
ここの半径が335mとわかると、ラピュタ回廊まで、つまり一番外側までの半径は、テラスも通路のほぼ20倍というのがわかります。
つまり、ラピュタの半径は880m。ラピュタの直径は1760mというのがわかるわけですね。
直径1.7kmの構造物なんですよ。思ったよりデカいんですね。
では、そんなラピュタが東京上空に現れるとどれくらいのサイズになるのか?
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【画像】ラピュタと東京
けしからんことに、皇居の真上に「日本人よ、降伏しなさい」と言ってラピュタが現れてしまった場合、皇居がほぼすっぽり入る大きさなんですね。かなり大きいんですよ。
ちょうど皇居と同じくらいのサイズで「これ、下手したらわざとかな?」と思ったんですけども。
実はこれ、大阪城の上に浮かべても、大阪城の本丸周辺と同じ大きさなんですね。
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【画像】ラピュタと大阪城
つまり、デカい城を作ったら……もともと皇居も江戸城ですから。デカい城というのを作ったら、リアリティを持って考えると、だいたい直径1.7kmのラピュタくらいのサイズになるというのがわかります。
なんかね、この辺はわかりにくいので……いや、「わかりにくい」って、どうやってもわかりにくいんですけど。一応、新宿上空にも浮かべてみました。
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【画像】ラピュタと新宿
新宿上空、アルタ前にラピュタが浮かんでいると、上の方は、もう大久保・新大久保の辺りになって、西の方は都庁まで、南の方は代々木を超えて新宿御苑が半分くらい隠れて、東の方は花園通りですから、ちょうどここら辺が吉本興業の本社がある辺りですね。新宿3丁目の辺りまでも覆ってしまうくらい巨大なのが、ラピュタのサイズです。
・・・
まあ、「ラピュタはやっぱりデカいよな」と思うんですけど。このラピュタは、実は本来のサイズではないんですよ。
さっきも話したように、ラピュタというのは裏側が崩れている。じゃあ、ここが復元されたら、ラピュタは本来の姿になるのかというと、そうじゃない。本来は、これよりももっと大きいんですね。
実際のラピュタというのは何かと言うと。
映画に出てくるラピュタというのは、パズーとシータが散々歩いていたんですけど、住人が生活していた感じのところが一箇所もないんですね。花壇があったり、木が生えてたり、お墓があったりとか、そればっかりなんですよ。
なぜかというと、このラピュタの一番上の部分というのは神殿なんですね。つまり、神様を奉るための場所。ギリシャで言うアクロポリスのパルテノン神殿みたいな神殿構造が、上の方にちょこんと乗っかってるだけなんです。
そして、その下の第1層と言われる、緑がいっぱいある芝生みたいな部分って、王様達の憩いの場、王族の住処でしかないんですね。なので、ラピュタって、これだけだったら、王族しかいられないんですよ。
じゃあ、実際のラピュタというのは、本来どんなものだったのか?
700年前、シータたちのご先祖がラピュタを捨てた時には、このサイズまで縮まっていたんですけども、その下には、さらに第2層に騎士たち戦士たちの住む城下町があって、第3層にはエデンの園と言われる巨大な湖と農園がある自給自足出来るような農園が広がっていて、第4層には一般のラピュタの住人たちが住んでいる、下の世界の人達が訪れることもできるような巨大な構造物がついていたわけですね。
この3層が、すでに失われているわけです。だから、どれくらい巨大だったかというと、これが本来のラピュタの姿です。
(パネルを見せる)
【画像】本来のラピュタ © 1986 Studio Ghibli
このイメージボードは、ラピュタの模型とほぼ同サイズになるように拡大しました。
つまり、この神殿構造と第1層の王様が住んでいるところがちょこんと乗っているだけで、ここが1.7kmなんですよ。この下に、これくらいデカいものが付いたまま空中に浮いてたのが、本来のラピュタだったんですね。
で、残っている第1層のみのラピュタのサイズが、さっきも話したように直径1760m、1.7kmです。
じゃあ、本来のラピュタのサイズはどれくらいかというと、この模型を元に換算してみると、直径5.8km、高さに至っては3.7km。ほぼ富士山と同サイズです。
この巨大な世界をブラタモリをしてみるというのは……すみません。これは後半の方で考察していこうと思います。
「空中帝国マゴニア」の伝説と謎
【画像】スタジオから
いやあ、ということで、1時間10分も過ぎたんですけど、すみません。まだやり残したことがあるので、もう少し無料が続きます。
ごめんなさいね。もうね、『ラピュタ』って、ニコ生ゼミで2回分も語ったから、俺「語ることないわ」と思ったんですけど。ブラタモリ形式で語ったら、まだまだあるんですよ。
ちょっと今から話す最後の話が終わったら休憩に入りますから、もうちょっと待ってください。
『ラピュタ』の都市伝説というのを話したいと思います。
『ラピュタ』の都市伝説として有名なのは幻のエンディングっていうやつですね。
まあ、「幻のエンディングを劇場で1回見た」とか「金曜ロードショーで見た」って言う人がいるんですけど。
これに関しては、謎が解けてます。
(パネルを見せる)
【画像】オーニソプターのパズー © 1986 Studio Ghibli
これ、何かというと、宮崎駿がわりと初期の頃に描いた「パズーが、やっと発明したオーニソプター(羽ばたき飛行機)に乗って、シータを迎えに来る」というか「シータのもとに遊びに行くパズー」というイメージボードですね。
宮崎駿は、こういうイメージボードを描いていたんですけど、これが悪いわけですね。これが全ての犯人なわけです。これを見た人は、いつの間にか、記憶の中で繋げてしまった、と。
昔、金曜ロードショーで、『ラピュタ』の放映が終わった後、スタッフリストを流す時に、この絵を写したことがあったらしいんですね。その他にも、いくつかイメージボードを見せたので、そのおかげで「『ラピュタ』には、本編が終わった後に、もう少しエンディングがある」とか「続きのお話がある」という噂が立ってしまったんですね。
人間というのは面白いもので、頭の中で「見た」という記憶を作っちゃうんですね。それで、いつの間にか「別バージョンのエンディングがあった」と言う人が出てきたんです。
・・・
実は、『天空の城ラピュタ』というアニメ自体には、僕が知っている限り、不思議な都市伝説というのはないんですよ。
でも、ラピュタではなく空中帝国の都市伝説なら存在する。冒頭の目次でも話した通り、今日はその話なんですよ。
ジョナサン・スウィフトが18世紀に書いた『ガリバー旅行記』には、小人ばかりの国リリパッド、巨人の住むブロブディンナグ、空中に浮かぶラピュータというのが登場するんですけど。「では、空に浮かぶ王国のモデルとは何だったのか?」という話です。
ジョナサン・スウィフトというのは、あんまり完全な架空の話を書くタイプの人ではなかったんですよ。何かモデルがあって、それをもじって書くというタイプの人なんですね。
では、ジョナサン・スウィフトは、何をモデルに空中帝国を書いたのかというと。ええと、マゴニアっていうのをご存知ですか?
マゴニアというのは、9世紀くらいにフランスで信じられていた空中王国なんですね。
「雲の上に土地があって、そこから帆船で地上に降りて、穀物や果物を持ち帰った」という話が、フランス全土で記録されているんですよ。これは、ウィキペディアで調べてみたら、ちゃんと出てきます。
リヨンの大司教……だから、本当にキリスト教的には身分の高い人で、嘘とかを書く人じゃない人なんですけど。その公式記録として「リヨンの大司教アゴバルドゥスという人が、マゴニアから船で降りて来た4人の商人を捕まえて、石打の刑、みんなで石を投げて殺す刑で死刑にした」という話が残っています。
このマゴニアというのは、フランスだけの迷信ではありません。起源956年、アイルランドのクロエラという街にも、「空飛ぶ帆船が降りてきた」という記録が、これも司教が公式な文書に残しています。
空から降りて来た帆船は、錨を降ろして泊まろうとしたんですけども、その鎖が教会のアーチにひっかかって、逆にどこにも行けなくなってしまった。
1人の男が空中の船から降りてきて、なんとか錨を外そうとした。しかし、それを下で見ていたクロエラの街の人達が興奮して男を捕まえようとしたので、司教は市民に命じて「その男を助けてやりなさい」と言った。
すると、男は慌てて帆船まで戻って行って、その後、空中帆船は錨の紐を自分で切って逃げて行った、と。
これも、公式記録として残っているんですね。
・・・
こういう話は、怪しげな話だと言われるんですけど、それが怪しげだとするならば、司教が残した他の話にも嘘とかがいっぱいあるはずなんですよ。
当時の中世の司教が書いた記録というのは「かなり正確なもの」として認められているんですね。もしこれが与太話とか嘘だとするならば、他にも司教が書いた嘘話というのがいっぱい残ってて当然なんです。
そういうのがないのに、なぜか不思議と、こういう話がポコポコと、中世のフランスやイギリスに残されているんです。
空飛ぶ帆船というのは、1211年にも、イギリスのケント州で目撃されているし、18世紀に入った1743年にも、ウェールズで目撃されています。
ウェールズの空飛ぶ帆船は、かなり低いところまで降りて来たようで、雲の間から降りてきた船の底の竜骨まで見えたそうなんですね。
これらの船は「空中に浮かぶ島マゴニアからやってきた」と言い伝えられているんですけども。マゴニアには、雷とか嵐を起こすテンペスタリイという、テンペストのもとになった種族がいると伝えられています。
『天空の城ラピュタ』に出てくるラピュタにも「嵐とか雷に守られている」という設定があることからも、宮崎駿は、このマゴニアとかテンペスタリイの話を知ってるんですよ。
知ってるから、「はい、ラピュタというのは、スイフトが書いた『ガリバー旅行記』が元ネタだっていうけど、そのさらなる元ネタはマゴニアですよ? 皆さんもご存知のアレですね」っていう、例の教養丸出しで書いて、俺達にはわからないっていう、「知るかよー!」っていう、例のやつなんですけども。
・・・
ところが、これが全くの与太話と言い切れないという、1つの証拠じゃないかと僕は思っているんですけど、19世紀になるとパッタリ消えちゃうんですよ。このマゴニアとか空中の帆船の目撃談というのは。
じゃあ、リヨンの大司教やアイルランドやウェールズの司教が目撃して記録したものは何だったのだろう? ただの幻覚ならば、なぜ、大勢の目撃者がいて、司教もそれを見て、わざわざ公式記録に残したんだろうか?
これは1665年の記録です。
(パネルを見せる)
【画像】空飛ぶ帆船の大戦闘
1665年に「空飛ぶ帆船同士の大戦闘」というのが目撃されたんです。この空飛ぶ帆船同士の戦闘を目撃した人達の記録として、1680年に出版されているんですけど。
ひょっとして、この空中帝国マゴニアというのは、実在していて、17世紀半ばに戦争が起きて、お互いを滅ぼし合って消えてしまったのかもしれない。
世界中の山奥とかジャングルとか、あとは、全く船が通ってなかったはずの海底から、時々「なぜこんなところに金貨とか、金属で作った装飾品があるんだろう?」っていう、不思議なものが見つかることがありますよね。
それらは、これまでは「わからない」とか「謎だ」って言われてたんですけど。ひょっとしたら、9世紀から12世紀まで、ヨーロッパの人を恐れさせ、17世紀の空中戦争で滅びてしまったマゴニアの遺産なのかもしれません。
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