岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/09/20
今日は、2019/09/01配信の岡田斗司夫ゼミ「ブラタモリ手法でラピュタ世界を語る〜『天空の城ラピュタ』完全講座ついに第3弾!」からハイライトをお届けします。
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「空中帝国マゴニア」の伝説と謎
【画像】スタジオから
いやあ、ということで、1時間10分も過ぎたんですけど、すみません。まだやり残したことがあるので、もう少し無料が続きます。
ごめんなさいね。もうね、『ラピュタ』って、ニコ生ゼミで2回分も語ったから、俺「語ることないわ」と思ったんですけど。ブラタモリ形式で語ったら、まだまだあるんですよ。
ちょっと今から話す最後の話が終わったら休憩に入りますから、もうちょっと待ってください。
『ラピュタ』の都市伝説というのを話したいと思います。
『ラピュタ』の都市伝説として有名なのは幻のエンディングっていうやつですね。
まあ、「幻のエンディングを劇場で1回見た」とか「金曜ロードショーで見た」って言う人がいるんですけど。
これに関しては、謎が解けてます。
(パネルを見せる)
【画像】オーニソプターのパズー © 1986 Studio Ghibli
これ、何かというと、宮崎駿がわりと初期の頃に描いた「パズーが、やっと発明したオーニソプター(羽ばたき飛行機)に乗って、シータを迎えに来る」というか「シータのもとに遊びに行くパズー」というイメージボードですね。
宮崎駿は、こういうイメージボードを描いていたんですけど、これが悪いわけですね。これが全ての犯人なわけです。これを見た人は、いつの間にか、記憶の中で繋げてしまった、と。
昔、金曜ロードショーで、『ラピュタ』の放映が終わった後、スタッフリストを流す時に、この絵を写したことがあったらしいんですね。その他にも、いくつかイメージボードを見せたので、そのおかげで「『ラピュタ』には、本編が終わった後に、もう少しエンディングがある」とか「続きのお話がある」という噂が立ってしまったんですね。
人間というのは面白いもので、頭の中で「見た」という記憶を作っちゃうんですね。それで、いつの間にか「別バージョンのエンディングがあった」と言う人が出てきたんです。
・・・
実は、『天空の城ラピュタ』というアニメ自体には、僕が知っている限り、不思議な都市伝説というのはないんですよ。
でも、ラピュタではなく空中帝国の都市伝説なら存在する。冒頭の目次でも話した通り、今日はその話なんですよ。
ジョナサン・スウィフトが18世紀に書いた『ガリバー旅行記』には、小人ばかりの国リリパッド、巨人の住むブロブディンナグ、空中に浮かぶラピュータというのが登場するんですけど。「では、空に浮かぶ王国のモデルとは何だったのか?」という話です。
ジョナサン・スウィフトというのは、あんまり完全な架空の話を書くタイプの人ではなかったんですよ。何かモデルがあって、それをもじって書くというタイプの人なんですね。
では、ジョナサン・スウィフトは、何をモデルに空中帝国を書いたのかというと。ええと、マゴニアっていうのをご存知ですか?
マゴニアというのは、9世紀くらいにフランスで信じられていた空中王国なんですね。
「雲の上に土地があって、そこから帆船で地上に降りて、穀物や果物を持ち帰った」という話が、フランス全土で記録されているんですよ。これは、ウィキペディアで調べてみたら、ちゃんと出てきます。
リヨンの大司教……だから、本当にキリスト教的には身分の高い人で、嘘とかを書く人じゃない人なんですけど。その公式記録として「リヨンの大司教アゴバルドゥスという人が、マゴニアから船で降りて来た4人の商人を捕まえて、石打の刑、みんなで石を投げて殺す刑で死刑にした」という話が残っています。
このマゴニアというのは、フランスだけの迷信ではありません。起源956年、アイルランドのクロエラという街にも、「空飛ぶ帆船が降りてきた」という記録が、これも司教が公式な文書に残しています。
空から降りて来た帆船は、錨を降ろして泊まろうとしたんですけども、その鎖が教会のアーチにひっかかって、逆にどこにも行けなくなってしまった。
1人の男が空中の船から降りてきて、なんとか錨を外そうとした。しかし、それを下で見ていたクロエラの街の人達が興奮して男を捕まえようとしたので、司教は市民に命じて「その男を助けてやりなさい」と言った。
すると、男は慌てて帆船まで戻って行って、その後、空中帆船は錨の紐を自分で切って逃げて行った、と。
これも、公式記録として残っているんですね。
・・・
こういう話は、怪しげな話だと言われるんですけど、それが怪しげだとするならば、司教が残した他の話にも嘘とかがいっぱいあるはずなんですよ。
当時の中世の司教が書いた記録というのは「かなり正確なもの」として認められているんですね。もしこれが与太話とか嘘だとするならば、他にも司教が書いた嘘話というのがいっぱい残ってて当然なんです。
そういうのがないのに、なぜか不思議と、こういう話がポコポコと、中世のフランスやイギリスに残されているんです。
空飛ぶ帆船というのは、1211年にも、イギリスのケント州で目撃されているし、18世紀に入った1743年にも、ウェールズで目撃されています。
ウェールズの空飛ぶ帆船は、かなり低いところまで降りて来たようで、雲の間から降りてきた船の底の竜骨まで見えたそうなんですね。
これらの船は「空中に浮かぶ島マゴニアからやってきた」と言い伝えられているんですけども。マゴニアには、雷とか嵐を起こすテンペスタリイという、テンペストのもとになった種族がいると伝えられています。
『天空の城ラピュタ』に出てくるラピュタにも「嵐とか雷に守られている」という設定があることからも、宮崎駿は、このマゴニアとかテンペスタリイの話を知ってるんですよ。
知ってるから、「はい、ラピュタというのは、スイフトが書いた『ガリバー旅行記』が元ネタだっていうけど、そのさらなる元ネタはマゴニアですよ? 皆さんもご存知のアレですね」っていう、例の教養丸出しで書いて、俺達にはわからないっていう、「知るかよー!」っていう、例のやつなんですけども。
・・・
ところが、これが全くの与太話と言い切れないという、1つの証拠じゃないかと僕は思っているんですけど、19世紀になるとパッタリ消えちゃうんですよ。このマゴニアとか空中の帆船の目撃談というのは。
じゃあ、リヨンの大司教やアイルランドやウェールズの司教が目撃して記録したものは何だったのだろう? ただの幻覚ならば、なぜ、大勢の目撃者がいて、司教もそれを見て、わざわざ公式記録に残したんだろうか?
これは1665年の記録です。
(パネルを見せる)
【画像】空飛ぶ帆船の大戦闘
1665年に「空飛ぶ帆船同士の大戦闘」というのが目撃されたんです。この空飛ぶ帆船同士の戦闘を目撃した人達の記録として、1680年に出版されているんですけど。
ひょっとして、この空中帝国マゴニアというのは、実在していて、17世紀半ばに戦争が起きて、お互いを滅ぼし合って消えてしまったのかもしれない。
世界中の山奥とかジャングルとか、あとは、全く船が通ってなかったはずの海底から、時々「なぜこんなところに金貨とか、金属で作った装飾品があるんだろう?」っていう、不思議なものが見つかることがありますよね。
それらは、これまでは「わからない」とか「謎だ」って言われてたんですけど。ひょっとしたら、9世紀から12世紀まで、ヨーロッパの人を恐れさせ、17世紀の空中戦争で滅びてしまったマゴニアの遺産なのかもしれません。
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