~大量上場廃止時代の到来が予想される中で~
世間一般にコロナ騒動で揺れる中にあって制度変更に伴い株式市場にもいつの間にか大きな変革の波が訪れようとしている。
3800足らずの上場銘柄のうち時価総額の小さな企業の株式は今後、東京証券取引所の基準から外れてしまい、上場廃止を余儀なくされる恐れがあるのだから投資家にとっては気が気ではないだろう。
皆さんがお持ちの株はそうした基準をクリアできると思うが、中には上場維持基準をクリアできないまま市場からの退出を余儀なくされる企業も出てくる可能性がある。
上場企業は一種の既得権的な存在で上場の価値を活用して事業の拡大を図ろうとしているものと思うが、意に反して業績が伸びずに結果として時価総額が取引所が決めた基準を満たさずにいる企業も見受けられる。
せっかく苦労して東証上場のお墨付をもらうことができたとしてもそれを十分に活用できないままビジネスの発展ができないで市場から去っていかざるを得ないというのは大変に残念なこと。
東京証券取引所は市場第一部、市場第二部、マザーズ、JASDAQ(スタンダード及びグロース)の5つの市場区分に関して2022年4月1日を目途にプライム市場、スタンダード市場、グロース市場(いずれも仮称)の3つの市場区分へと見直しが実施されるという方針を打ち出した。このことは2月に発表されたことなので皆さんも十分にご存知だとは思いますが、その結果株式市場も俄かに忙しくなってきたという印象だ。
この新基準による移行基準日が来年の6月末日に迫ってきたことで銘柄選びにも注意が必要となる。
皆さんがお持ちの銘柄は果たして市場に残れるのか、残れないのか、残れるためにはどういった方策が必要となるのかを考えておく必要が企業経営者には必要となる。
大雑把に言うとプライム市場の流通時価総額は100億円以上となるし、スタンダード市場では10億円が目途となる。
更にグロース市場では5億円をクリアする必要がある。詳細の基準内容は東証のHPで確認頂くとして、発行済み株式数-(上場株式数の10%以上を所有する株主が所有する株式数+役員所有株式数+自己株式数)で定義される流通株式の時価総額がこうした基準を満たすためには現状の時価総額の小さな企業には一段と積極的なIRや事業拡大方針の打ち出しが必要となるだろう。
【各新市場のコンセプト】
これまで慣れ親しんできた東証1部、東証2部といった区分がなくなることは寂しい限りだが、これは改革が遅れてきた日本の株式市場にとってはようやく改革が本格化し諸外国の基準と比べられる土俵の上に乗るという程度に考えておきたい。
1.プライム市場
多くの機関投資家の投資対象となりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資家との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業及びその企業に投資をする機関投資家や一般投資家のための市場
<新規上場基準>
⇒株主数800人以上、流通株式数2万単位以上、流通時価総額100億円以上、時価総額250億円以上、流通株式比率35%以上
最近2年間の利益合計25億円以上、売上高100億円以上かつ時価総額1000億円以上
<上場維持基準>
⇒株主数800人以上、流通株式数2万単位以上、流通時価総額100億円以上、1日平均売買代金0.2億円以上、流通株式比率35%以上
2.スタンダード市場
公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値向上にコミットする企業及びその企業に投資をする投資家のための市場
<新規上場基準>
⇒株主数400人以上、流通株式数2000単位以上、流通時価総額10億円以上、流通株式比率25%以上
最近1年間の利益が1億円以上、純資産がプラスであること
<上場維持基準>
⇒株主数400以上、流通株式数2000単位以上、流通時価総額10億円以上、流通株式比率25%以上
3.グロース市場
高い成長性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業及びその企業に投資をする機関投資家や一般投資家のための市場
<新規上場基準>
⇒株主数150人以上、流通株式数1000単位以上、流通時価総額5億円以上、流通株式比率25%以上、時価総額基準はなし。
<上場維持基準>
⇒株主数150以上、流通株式数1000単位以上、流通時価総額5億円以上、流通株式比率25%以上 上場から10年経過後40億円以上
文章をよく読むと理解はできるが、個人投資家の皆さんにはやや理解がしにくい内容かも知れません。移行に際しては一定の経過措置が取られますが、既に7月からのIPOはこの新基準に近い枠組みで上場を果たす予定です。
ここで問題となるのか上場して10年以上も経過した企業の時価総額が40億円以下の場合はこれをクリアしていく必要があるということです。
またオーナー経営で流通時価総額が基準以下の場合も対応に迫られることになります。
以下、いくつかの事例を紹介しておきます。
1)サイネックス(2376・東証1部)の場合
時価689円 時価総額44.6億円 発行済み株式数647万株
流通株式383万株 同時価総額26.4億円
スタンダード市場へ
2)テノックス(1905・JQ)の場合
時価894円 時価総額68.8億円 発行済み株式数769.4万株
流通株式数691.4万株 同時価総額61.8億円
スタンダード市場へ
3)リンクバル(6046・M)の場合
時価280円 時価総額54.6億円 発行済み株式数1950万株
流通株式数688万株 同時価総額19.3億円
スタンダード市場ないしグロース市場
流通比率35.3%
株価5倍化実現すればプライム市場も夢ではないが・・。
4)日創プロニティ(3440・T2)の場合
時価658円 時価総額48.4億円 発行済み株式数736万株
流通株式数424万株 同時価総額27.9億円
スタンダード市場
5)バーチャレクスHD(6193・M)の場合
時価455円 時価総額13.4億円 発行済み株式数294.3万株
流通株式数193.3万株 同時価総額8.8億円
グロース市場
明確な成長の説明が求められる。
6)秋川牧園(1380・JQ)の場合
時価857円 時価総額35.8億円 発行済み株式数417.9万株
流通株式数261.9万株 同時価総額22.4億円
上場年1997年。時価総額40億円(株価958円)をクリアする必要。
クリアできればスタンダード市場
7)ホーブ(1382・JQ)の場合
時価900円 時価総額6.9億円 発行済み株式数76.2万株
流通株式数46.2万株 同時価総額4.2億円 上場年2005年。
時価総額40億円のクリアには株価が6倍化が必要となるが現状の収益水準では困難
上場後10年経過して時価総額が30億円以下に留まっている企業の株価は変動の可能性あり。
【時価総額が低水準に留まる上場後10年以上経過の建設セクター銘柄例】
・麻生フォームクリート(1730・JQ)
時価630円 時価総額21.5億円
2001.4上場 熊本大雨被害で本日ストップ高
・コーアツ工(1743・T2)
時価4065円 時価総額30.9億円
1999.7上場 大雨被害関連で買い気配で終わる
・工藤建設(1764・T2)
時価2018円 時価総額26.9億円
1997.4上場 介護事業も展開する横浜の建設会社
・三東工業社(1788・JQ)
時価2180円 時価総額15億円
1995.3上場 滋賀県の建設会社
・マサル(1795・JQ)
時価3170円 時価総額28.6億円
1994.11上場 外壁防水事業メイン、リニューアル強化
建設セクターには業績堅調でも評価が低いままの企業が見出せる。
こうした企業の場合は時価総額基準のクリアの可能性は高いと見られる。
建設以外のセクターについては改めての機会にご報告申し上げたい。
(炎)
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