創薬ベンチャー企業、モダリス(4883)をめぐり有名な個人カリスマ投資家が行ったロックアップ解除前の株売り抜け後の対応が話題となっている。
株式市場では上場前にしかるべきファンドや個人エンジェル投資家などに株式を保有してもらうことになるが、その前提となるルールが予め決められていることは引き受ける投資家には自明の話で上場後半年間は売ることができないというロックアップ期間内での売却ができないというのは予め説明を受けている筈。
今回のカリスマ投資家は若くして100億円以上の資産をつくったとしてメディアでも有名なのだが、このことを知らずに上場後割当られた株式を売ってしまい、それが後で発覚して会社側が驚いて発表に至り、それに対応してこのカリスマ個人投資家も一定の計算で得られた利益のうちの一部を会社に返還するとしているのだ。
モダリスは東大発の遺伝子治療薬の創薬ベンチャーとして2020年8月にマザーズ市場にIPOした企業で将来性が高く評価されており、時価総額は現在でも600億円近い水準となっている。上場時は1000億円を超えてユニコーン型企業となって一段と市場人気を高めるかと見られた矢先に起きた出来事なのでとても残念な話なのだが、日本の株式市場の今後の発展にとってもとても不幸な出来事だと思われる。
ノーベル賞受賞の遺伝子治療、クリスパー技術を用いた創薬ベンチャーとしては米国などの企業も存在していて市場で高く評価されているのだが、同社はそうした企業群と比べ遜色ない位置付けがなされている一方で時価総額が何か低いと言われてきた背景がこうした上場前に引き受けた個人投資家の売り抜け行為にあったとすればうなずける。
仮にこのカリスマ投資家が同社の今後の成長を期待して長期スタンスで保有する意識を持って保有していたらこうした事態にはならなかった。売却した株価は3000円か2400円(時価は2100円)の差にしかならないが、本来はもっと評価される筈の企業の株価に水を差した行為となったように思われる。
創薬ベンチャーの経営者(森田CEO)は本来はこうした事態に巻き込まれることなくもくもくと新薬開発、技術開発に邁進して投資家の期待に応える必要があるのだが、ロックアップ期間が明けた今はVCなど期間限定で保有する大株主に代わる投資家集めに奔走する必要が出てきたようだ。
新たなパイプラインターゲットを見つけないとならないし、大手製薬企業とのライセンス契約も締結しないとならないしと超忙しいCEOに新たな悩みが出てきたとすればそれはこのビジネスや技術開発、治験状況を株を手放したカリスマ投資家以外の多くの長期投資家に説明すること。
オンライン説明会では多くの質問が飛び交い丁寧な回答を行う森田CEOだが、一般個人にはなかなか理解しにくいし分野が希少薬に限られているのでなかなか関心が向かない。
今後も時価総額600億円を正当化するだけのビジネスの方向性を示していく必要があるが、手っ取り早いのはライセンス先を決めることとなる。
ただ前期のようなこともあり今期もまた年後半にという曖昧な目標では理解が得られそうもない。
とてもクレバーで社会的意義のある創薬ベンチャー企業の経営者の悩みは尽きない。むなしく株価2000円前後で推移する同社株の行方をただクールに見守るしかないのだろうか。
(炎)
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