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昨今、日銀に対する風当たりが厳しい。
経済評論家やエコノミストは金融政策の一面しか見ていないので、わたしはどちらかというと日銀に同情的。
そもそも、マイナス金利になっている背景や構造論はあまり語られていない。
1)日本は貸し出し需要が乏しいという大前提が議論されることがまずない。
家計はじゃぶじゃぶな預金だらけの状況。1000兆円の預金。
これに対して負債は主に持ち家のローンであり、不動産価値と相殺できる。
家計は資金の出し手でしかない。
企業も内部留保が高水準でありキャッシュリッチ。自己資本比率も高い。
こちらも資金の出し手になっている。
家計と企業しか需要がないのだから、この2つの需要先が供給過剰なのでマイナス金利となるのが自然。
10年債のYCC(イールドカーブコントロール)をやめても、さほど10年債の利回りは上がらない。利回りはインフレに実質金利を足したもので、実質金利は日本の場合、マイナス。物価連動債はこのインフレの世の中になってもマイナス0.4%(29年3月10日償還の日本政府物価連動債の利回り)。
すでに米国では移民の流入が21年から増えており、23年には労働力の需給ギャップが解消される見通し。「インフレで大変だ」という議論は市場ではすでに過去の遺物となっている。
マスコミが騒ぎ始めたら、その事象はもう過去のものだというのが市場参加者の常識です。
日本は賃金が上がらないというが、それはもともと、割高な給料をもらっている技能や専門性がない中高年が多すぎるから。新卒給料を倍にしても、トータルの人件費を上げなくてもよいぐらい中高年が余っている。
中高年の給与を3割に減らしても、彼らは実力が足りないので市場価値がない。つまり、転職できない。
企業は若手のやる気のある人を倍の給料で雇って、技能も専門性もやる気もない中高年の給料を半分にする。そこまでやらなくてもトータルの人件費管理はできる。
となると、日本でインフレの議論はすでに終わったと見なさなければならない。
高齢化で人口減少という日本において、メガバンクのROAはゼロコンマ2%程度しかない。10年保有してもバランスシートは数%しか拡大しない。
そのような銀行株を推奨する証券会社ばかりなのが日本の機関投資家リテラシーの実態。
要するに構造的な問題は市場には織り込まれており、日々起こるイベントだけを材料として評価するような人々が多数派になっているということ。
家計が資金の出し手。企業も資金の出し手。銀行も資金の出し手。
これで金利が上がるはずはないではないか。
「YCCで日銀追い込まれた云々」という議論はインフレが沈静化したらおしまいの議論。もうすでにインフレは出口が見えている。
2)資金の調達ではなく運用の見通しが重要
日銀がETFを買っているが、調達レートの期待値がマイナスであり、運用レートの期待値はプラスなのだから、レバレッジを効かせて国家のために粛々と利益を積み上げていることが議論になることはない。
たとえばの話として聞いてほしいが、日銀が100兆円世界株を買い、政府が100兆円世界株を買えば、益利回り7%程度の期待値で14兆円の付加価値が毎年生まれることになる。
このような調達と運用とを組み合わせた作戦を政府や日銀が取り始めているし、これは世界的な潮流で時代の要請。時代の風といってよい。
ESGと表裏一体となっているのでわかりにくいが、政府は企業から税金をとれば企業は逃げてしまう。そのことに気が付いただけで、それならば企業と運命を共にしようと半導体誘致や産業育成に予算を大量につぎ込むことになったという経緯がある。
金融政策には理論や原理というものはもともとない。
借金が増えたらいけないというのは調達サイドしかみていない片手落ちの視点にすぎない。
長期のデザインで運用サイドを含めて、企業と政府が同じベクトルにようやく立ったのが21世紀になってしまったというだけで、そのためのバランスシート作戦なわけで、その時代の風が感じられない不感症の評論家が多いわけだ。
たとえば、国債を発行して、ばら撒いてしまってはいけないのは当然なわけで、国債を発行して、よい企業に投資をしたり、よい不動産開発をしたりすれば、ROIがそのまま国家財政となるわけだからやった方がよいに決まっている。
このロジックを理解していたのが自民党の主流派の安部派だったが、このロジックを危ないといってリスクをとらないでなんとか税金でやりくりしようという時代錯誤の人たちが騒いでいる。
騒ぎを起こしている人々は時代そのものが見えないので、大局観からして間違っているのだが、それでYCCに対抗して空売りするという外資系の経験の足りないヘッジファンドが無謀な試みをしているというのがいまの構図。
「時代を感じない」というのは怖いことだ。
いまは、グローバル企業が資金の出し手でもあり、家計も資金の出し手である。
だからこそ、リスクアセットに投資をする貯蓄から投資へという流れが求められているわけで、その大きな潮流にポツンと置かれた日銀が、時代錯誤の政策をとるわけがない。
つまり、需給の著しいギャップにより、需要がまったく足りないわが国で、「何をすべきか」というと、資金の有効活用(上手な投資)に他ならないわけで、ROIのリスクリターンの割合で優先順位をつけてお金をROIの安定性とリターンリスクレシオのよい順番で資金を殺さないように上手く投資をしなければならない。
そのための金融リテラシーであり、経営者や株主はROIの高さだけではなく、長期安定性を見なければならない。
要するに、調達(国債)が悪いわけではなく、悪くなって困るのは運用の腕(投資先)だ、ということ。
運用の腕を上げるためには、教育力を高め、世界で指揮をとる多数のリーダーを輩出することが日本の役割なわけ。
時代の風を感じて運用というものはなされなければならない。
昨今のYCC議論は、時代錯誤の議論であり、社会と運用の本質とが両方とも見えていない方々の自分勝手な議論なのではないか。
日本は、国民ひとりひとりに良質の医療を保障する稀有な国家であり、それでもまだ、なお、余裕のない人々が多く、他国と同様に課題も多い国家である。
頑張れる人々は頑張るしかないので、FIREするのもよいが、その場合でも、懸命にボランティアをしてもらいたい。みなが助け合う夢の社会こそが、ジャパニーズドリームであり、突出した大金持ちになるのだというアメリカンドリームの下劣さを超えられる良質の夢が日本にはふさわしい。
アメリカンドリームを目指すよりも、みなで幸せになるジャパニーズドリームを達成して、米国に自慢してやろうではないか。
俺たちはすごい国をつくったぜと。
弱者切り捨てのお前らとは人間の出来が違うんだと。
(NPO法人イノベーターズ・フォーラム理事 山本 潤)
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。)