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オンリー☆ローリー!〈1〉 Vol.3
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オンリー☆ローリー!〈1〉 Vol.3

2013-12-19 13:00
         ***

     零次は不思議な気持ちが収まらないまま、始業式が終わるまで職員室隣の教育相談室で待機していた。
     全身がそわそわと落ち着かず、何度となく足を組み替えたり頭や頬を掻いたりした。
    「――なんなんだ、あれ」
     何度も彼女の姿を思い返す。
     あんな教師いるの?
     教師陣はとっくに彼女の存在に慣れている様子だった。とすると、生徒たちも?
     なら、自分も意外とあっさり受け入れられるのかもしれない?
    「いや、でも……ううむ」
     唸っているところへ、ガラッと勢いよく扉が開かれる。
     入ってきたのはメルティだった。転校生を迎えるのがよほど嬉しいのか、無邪気にニコッと笑っている。
    「ではあらためて――初めまして。私が二年A組の担任、メルティ・メイシャ・メンデルだ」
    「は、初めまして。深見零次です」
     椅子から立ち、一礼する。そして担任となるこの小さな女性を眺めた……というか見下ろした。
     日本人ではありえない爽やかな肌の白さ、どんなに丁寧に染めたところで決して得られない天然で滑らかな金髪、宝石のようにつぶらで澄んだ青い瞳、水を弾きそうなふっくらとした唇。いずれのパーツも、お人形さんという表現がピッタリと当てはまる。
     メルティのルックスは、間違いなく美しいと分類されるものだ。しかしここまでロリだと、琴線に触れるものは何もないのだった。
     ……で、結局どうしてそんな、子供みたいな姿なんだろう? 聞いてみてもいいのだろうか? そう思ったところで。
    「教師というのは、世を忍ぶ仮の姿でね。私の正体は数百年を生きた魔女なのだ」
    「……」
    「どうした? 盛大に驚くがいい!」
    「あの、冗談はいいんで」
    「冗談じゃないって。それ以外に、ここまで見事で神秘で美しいロリが存在するわけないだろう? 魔法でこの姿になっているんだよ」
     ふふん、とサラサラのストレートヘアーを掻き上げる。自信満々なその態度は、滑稽以外の何物でもなかった。
    「からかわないでくださいよ! 魔女? 魔法? そんな、バカバカしい……」
    「じゃあ、他に説明できるのかい? さっきの先生たち、見た目は完全に幼女の私と、ごく普通に接していただろう。なぜかっていうとね、学校全体に誘惑の結界を張っているからなんだ。その効果で、私はみんなからロリの女王として称えられているのさ」
     ……何もかもが理解できない。零次は両手で目を覆った。
    「これは夢だ、夢に違いない。この手を放したら、僕はベッドの上で目覚める!」
     勢いよく手を放した。
     微笑んだメルティが、そこにいた。
    「ううむ、今日の僕は眠りが深いようだ……」
    「まあ、なかなか信じられないのも無理ないか。じゃあほら、これを見てみなよ」
     メルティが零次の鞄に向かって手をかざした。
     椅子から崩れ落ちそうになった。
     鞄が……ふわふわと浮き出している。
     そしてかざされたメルティの手は、淡い光を帯びていた……。
    「ど、どど、どうして?」
    「だーかーら、魔法だってば。種も仕掛けもないよ」
     メルティが指揮者のように指を動かすと、それに応じて鞄が宙を踊る。しばし零次の目を忙しなくキョロキョロさせると、最後には彼の胸元へ飛び込んだ。
    「夢じゃ……ない……?」
    「素晴らしき現実さ」
     かつて見たことがないほどの、晴れ晴れしい笑顔。
     ふいにメルティの両腕が伸びて、零次の頬をつねった。
    「痛いだろ? 夢じゃないんだってば」
    「……く!」
     手を払いのけ、零次はにこやかに笑う担任を見据えた。
     確かに、刺激が欲しいとは思っていた。
     しかしいくらなんでも、思っていたのと方向性が違いすぎた。魔女とか超すげー! うっひょー! などと喜べない。零次はあくまで凡人であり小市民であり、常識を愛するただの高校生なのだ。
     が、そうは言ってもはじまらない。これは夢ではない。
     夢でない以上は、さっさと受け入れて馴染んでいくという選択肢しかない。零次の凡人の脳味噌はそう結論づけた。
    「な、なんで魔女が学校の教師なんか?」
    「いろいろ理由があるんだけど、私のことはおいおい話していくよ。今は転校生の君をみんなに紹介しなければね」
    「はあ……」
     教師は世を忍ぶ仮の姿、というわりにはちゃんと仕事をするつもりらしい。
     確かに、今はややこしいことは脇に置いたほうが精神衛生上よさそうだ。魔女……ではなく担任として接することにする。
    「そういえば担当教科は? やっぱり英語ですか」
    「現代国語だ」
    「ええ?」
    「驚かなくてもいいだろう。このとおり日本語ペラペラだ。スシ、ゲイシャ、フジヤマ、モモタロー! 薔薇とか醤油とか漢字で書ける。クイズ番組の日本語問題もだいたいわかるぞ」
    「……ああ、うん、すごいですね」
    「ではこれより教室に向かうぞ。もう自己紹介の言葉は考えているか?」
    「一応は……」
    「ところで生徒たちは皆メルティちゃんと呼ぶ。君も呼びたいならそう呼んでいいぞ」
    「……メ、メルティちゃんですか」
     仮にも担任教師を、初日から愛称で呼ぶ勇気はさすがになかった。
     二年生の教室は三階にある。零次はメルティに先導されて階段を上った。新学期開始ということで、ホームルーム前の各教室はおおいに賑わっている。
     西側の突き当たりにあるA組に到着する。
     零次はひとまず担任のことではなく、これからの仲間たちのことを考えた。
     転校生が来るということはすでに伝わっているのだろうか。末永く付き合っていけるような友達ができるだろうか。授業についていけるだろうか。いじめなどなく平和だろうか。いろいろな期待が少年の頭を駆け抜けていく。
     なんにしても……新しい学園生活を楽しくさせるためには、人任せではいけない。自分から積極的に、クラスメイトに触れ合っていかなければ。そのためには、まず元気よく挨拶だ。零次は背筋を伸ばし胸を張った。
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