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オンリー☆ローリー!〈1〉 Vol.4
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オンリー☆ローリー!〈1〉 Vol.4

2013-12-19 18:00
    「はいみんな、座れ~」
     メルティが扉を開けながら可愛い声を出した。わいわいと雑談していた生徒たちはそそくさと自席に戻っていく。
     およそ三十組の目線がストレートに突き刺さるのを感じた。小学生や中学生のとき、転校生を迎えたことは何度かあったが、まさか自分がそういう立場になるとは思わなかった。心地よい緊張感が走る。
    「ほら、名前を書きなさい」
    「あ、はい」
     メルティが差し出したチョークを受け取る。転校生の名前は担任が書くものじゃないのかと思ったが、彼女の身長では難しいのだろう。というか、普段どういう授業をしているんだろうと疑問だった。板書するたびに椅子に乗っているのかもしれない。
     零次は自分の名をたどたどしく書き記していった。持ち慣れないチョークではあまり上手く書けなかったが、細かいことは気にしない。チョークを置き、キリッとクラス中を見渡す。
    「深見零次です! 父の仕事の都合で引っ越してきました。……えー、勉強も運動もそんなに得意じゃないですが、順応力はそれなりにあるつもりです。早くみなさんと仲良くなりたいと思っていますので、よろしくお願いします!」
     いたって無難な挨拶だったが、万雷の拍手が返ってきた。
     自分は歓迎されているのだ。少年の胸はたまらなく熱くなった。残る一年半の高校生活、絶対に上手くやっていけると確信できた。……この怪しい魔女の存在を抜きにすれば、だが。
    「そういうわけで、深見くんは今日から新しい仲間だ! 温かく迎えてやるんだぞ」
    「イエッサー!」
     クラスが一体となった、気合い満点な返事だった。これもメルティの仕掛けた誘惑のなせる業なのだろう。
    「深見、他に何か言っておくことはないかい」
    「……いえ、特には」
    「じゃあみんなから質問をしてもらおうかな。構わないだろ?」
    「別にいいですけど」
     好奇心がそれなりに旺盛らしい生徒たちは、転校生に対して遠慮なく質問をぶつけていった。
    「この学校の第一印象はどうですか?」
    「とても綺麗で清潔って感じがしてます」
    「好きな小説はなんですか?」
    「あー、小説は全然読まないです。漫画とアニメとゲームが好きです」
    「彼女がいたことはありますか?」
    「彼女いない歴イコール年齢です。とりあえず募集中です」
    「巨乳と貧乳どちらが好きですか?」
    「大きいのが好きです」
    「よし、質問は終わり!」
     メルティがいきなり遮ってきた。
    「何かな、その目は」
    「いえ、なんでも」
     どうも、大きいのが好きと答えたのが気に入らなかったらしい。
    「それじゃあ、席替えするぞー」
     メルティは教卓から箱を取り出した。中身がカラカラと鳴る。席替え専用のくじのようだ。
     席替えこそ新学期の醍醐味。教室がいっそう賑やかになる。
    「深見は視力は大丈夫かい? 前のほうが見やすいなら、融通は利かせることにしているんだけど」
    「左右とも一.五なんで、大丈夫です」
     意外にも細かい気遣いをしてくれる。もし前の席を取ったら、欲しい人に譲ってあげようと思った。
     黒板に向かって右側前方の席から順々にくじを引いていき、左側後方の生徒まで箱が回されていく。そして最後の一本を零次が引く。窓際の番号だった。
     全員の席が確定し、ようやく零次は椅子に腰を落ちつけた。
     そして隣の女子に挨拶しようとしたところで……思わず硬直した。
    「こ、これからよろしく。ええと……」
    「崇城朱美(そうじょう・あけみ)。よろしく」
     美少女だった。崇城朱美はこれまでの学校生活でもほとんどお目にかかったことのない、美少女と呼ぶのに何のためらいもない女性だった。
     さながら絹糸のごとき光沢を放つ黒髪。同性ならきっと誰もが憧れるだろう長い睫毛、スマートな鼻梁。目を落とせば、制服ではなかなか隠しきれないほどの、魅力的な胸の膨らみを持っている。
     特に何か大事なものを見据えているような、切れ長の瞳が印象に残った。一言で表現すると、クールビューティーというのが一番しっくりきそうだ。
     こんな美少女が隣とは、なんて幸先がいいんだろう! 零次は小躍りしたくなるくらい嬉しくなった。
    「いいんちょ! クラスのリーダーとしていろいろと教えてやるんだぞ」
    「……ええ、先生」
     クラス一の美少女にして委員長属性の持ち主。フィクションでしかお目にかかれないようなレアケースに零次は感動を抑えきれなかった。
     これだ。こういうのでいいんだ。こういう常識的な華やかさこそ、僕の求めていた刺激だ! 天にも上る気持ちというのを、彼は生まれてはじめて体験した気がした。
     あとは各種の連絡や夏休みの課題の提出など、和気藹々とホームルームの時間は過ぎていき――下校時間となった。
    「それでは二学期、清く正しく過ごすこと!」
    「イエッサー!」
     このとき、崇城は声を出していなかった。そういうことで盛り上がらないタイプも、中にはいるということなのだろうか。
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