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オンリー☆ローリー!〈1〉 Vol.5
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オンリー☆ローリー!〈1〉 Vol.5

2013-12-19 21:00
     こうして転校初日は終了した。途端にガヤガヤしだす教室。
     さてこれからどうしようかと零次は思考回路を巡らせる。
     せっかく温かく迎えてもらったのに、さっさと帰ってしまうのはどうも素っ気ない気がする。ここは適当に男子グループの輪に入って……そこまで考えたところでメルティが目の前まで来ていた。
     椅子に座っても視線は水平に交わらない。本当にちっちゃいなあと、あらためて思った。
     というか、何の用だろう。さっきの話の続きだろうかと警戒する。
    「深見、クラブ活動はどうする?」
     出てきた言葉は、拍子抜けするくらい緊張感がなかった。
    「クラブ……ですか。まだ決めてないですけど」
    「前の学校では何に入ってたのかな」
    「帰宅部でした」
    「それは不健康だなあ。何か夢中になれるようなことはなかったのか」
    「いやあ、家に帰って同じ帰宅部の友達と漫画とかゲームとかやってたほうが面白かったんで」
    「そうか。ここは同好会も含めて、いろいろあるからね。きっとやりたいことが見つかるはずだ。これ、クラブの一覧と入部届。決まったら提出してくれ。義務じゃないから帰宅部でも構わないけど」
     A4のプリントと短冊形の入部届を渡される。一覧にはざっと見て五十ほどのクラブ名が羅列されていた。部員がたった数人、あるいはひとりきりのマイナー同好会も含まれているのだろう。ヨガ同好会とか路面電車同好会とかは、字面からしてかなりのインパクトがあった。
    「なんだったら、自分で部を設立したっていいんだ。自由な校風というのがモットーだからな。とにかく何かをやるといい。転校生なんだから、積極的に人に触れ合わないといけないぞ」
    「まあ、いろいろ考えておきます」
    「どうせだから今、一緒にいろいろ見て回らないか。特に用事はないだろう? 校内もまだ完璧に把握していないだろうし」
     零次はしばし沈黙した。メルティのつぶらな瞳に釘付けになる。
    「どうした?」
    「いや……ずいぶん面倒見がいいんだなって」
     魔女なのに、と思わず付け加えるところだった。
    「私は君の担任だぞ。当然じゃないか」
     零次はうっかり感激しそうになった。
     学園ドラマに出てくるようなフレンドリーでハートフルで、自分から喜んで生徒の面倒を見ようとする教師など、現実にはいないのだと思っていたが……今、目の前にいるのだ。見た目や正体はともかく、結構いい人なのかもしれない。
    「前の学校の担任は、生徒との触れ合いとかあまり考えてないような人で……。ただ授業をするってだけで。別に悪い先生じゃなかったんですけど」
    「そうかそうか。君は教師の愛に飢えていたんだな?」
    「いや、違いますから」
    「遠慮することはない。私は生徒たちには等しく愛を傾けているんだ。もちろん君もできるかぎりの教師愛で包んでやるぞ」
     あまり真面目に受け答えしてもしょうがなさそうだった。
     教室を出て、零次とメルティは並んで廊下を歩く。そうすると、賑わう生徒がさざ波のように押し寄せてきた。
    「メルティちゃーん! 会えない夏休みの間、寂しかったぜー」
    「おお、今日も天使のごとく美しい……」
    「かーわーいーいー!」
    「私も先生みたくロリだったらよかったのに!」
     まるで人気絶頂のアイドルと、その熱狂的な取り巻きだ。
     誘惑の結界の効果で、みんな……ロリコンになってしまっている! 零次は無性に悲しかった。
    「ところで深見は文化系っぽいね。特に体も鍛えてなさそうだし」
    「そう……ですね。体育会系とか、しんどいっていう印象しかないです」
    「腹筋くらいは鍛えておいたほうがいいぞ。そのほうが女の子にモテるからな。もちろん私もたるんだ腹は好きじゃない」
    「はあ」
     そう言われて腹筋を鍛え始めた男子が、かなりいるのかもしれない。
    「で、先生はどこの部の顧問なんですか?」
    「数が多いマイナー同好会の顧問をいくつも兼任している。そこらから回ってみよう」
     いったん外に出て、校舎と独立した部室棟に足を向けた。三階建ての建物で、規模の小さい部や同好会がギューッと詰め込まれているとのことである。前の学校ではこういった別棟はなかった。
     最初に訪れたのは、部室棟に入ってすぐの漫画同好会だった。
    「漫画同好会って何をするんです?」
    「読む」
    「それだけですか……」
    「うむ。しかし日本の漫画は素晴らしい。我が校は漫画を明確な日本文化と位置づけていてね。勉強に差し障りがなければ、学校で漫画を読むという行為も認められている」
     中に入る。十畳ほどのスペースで、中央に長テーブルとパイプ椅子が置かれている。壁という壁に本棚が密着していて、あろうことか窓側も塞がれてしまっていた。ちょっと不健康そうな部屋だ。
     部員は男子がひとりだけいて、今日発売の週刊漫画誌を読んでいた。思いっきり顔を崩して。
    「メルティちゃん、今週の『はぷにんぐ!』はすげーぜ! 主人公が幼女になった!」
    「ほ~、それは実にいい!」
    「単行本で乳首券、発行されるかなあ~」
    「されるように祈ろうじゃないか」
     あいにくと定期購読していない漫画誌だったのでそのタイトルは知らないのだが、いろいろとダメなやり取りである。
    「漫画同好会は、確かあとひとり入れば部に昇格できるんだったな」
    「そうっすよ。……もしかしてその彼が? おお、部に昇格すれば部費が出ることだし、ぜひお願いしたいなあ」
    「どうだ? 深見も漫画は好きだろう。特に幼い女の子の絵とか」
    「勝手に決めないでくれません?」
     漫画は好きだが、学校で読む気はしなかったので、丁重に辞退することにした。
     次に向かったのは――。
    「パソコンゲーム同好会?」
    「そうだ。これはゲームをプレイするだけじゃなくて、自作してコミックマーケットなどで頒布もしているぞ。――あ、君はコミケを知っているか?」
    「一度だけ行ったことが。でもあまりに混雑してたんで、それからは通販で済ませていますけど」
    「買っているのは幼女の出るエロゲーだろう?」
    「だから、勝手に決めないでくださいよ」
    「買うんだ。私は許す!」
    「許されても……」
     頭がクラクラするのを抑えきれない。
     パソコンゲーム同好会は、先ほどの漫画同好会の部屋と同じ程度の広さだが、四人分の机とデスクトップパソコンが置かれていた。こちらも部として昇格できるのにあと一歩なのだろう。今日は活動日ではないのか、誰もいない。ひとつだけ本棚があり、プログラムやシナリオの教則本、ゲームソフトが並べられていた。
    「サークル名はSTコンピュータエンターテインメント! STとはもちろん私立鳥津の略だ。いずれは同人界を揺るがす壁サークルになるであろう。たぶん」
    「……まあ、高校生が作るものじゃ、なかなか難しいでしょうね。ちなみにジャンルはどんな?」
    「恋愛アドベンチャーゲームだ。具体的には……」
    「いや、聞かなくても予想できたんで言わなくていいです」
    「攻略対象に必ず幼女がいてだな。先月のコミケではついに、オール幼女で固めた超力作『J・K・ろーりんぐ』の体験版をリリースしたんだよ」
    「世界的作家から怒られそうなタイトルじゃないすか!」
    「ちなみにサブタイトルは『常識的に考えてロリがいいでしょ?』だ」
    「とてもどうでもいいです」
    「無料頒布だったおかげか、用意した百部が全部なくなるほどの大盛況ぶりだったんだ。……あ、しまったな。君用にあらかじめ焼いておくのだった。まあ、近日中にネットでもフリー公開される予定だから、そのときはぜひダウンロードしてくれ」
    「……気が向いたら」
    「できるなら冬に完成版を出したいところなんだが、もしかしたらシナリオが間に合わないかもしれない。君も心得があるなら入ってみないか? シナリオでなくても、他の分野でも大歓迎だ」
    「遠慮しますよ。文章も絵も音楽もプログラムも、全然スキルないんで」
     というか、あっても幼女ゲーなど作りたくない。
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