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オンリー☆ローリー!〈1〉 Vol.20
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オンリー☆ローリー!〈1〉 Vol.20

2013-12-24 21:00
    「とまあそういう次第で、私と魔法の世界を教えようと思ったんだ。その矢先、歓迎会で酔っ払った私は、君たちごと襲撃された。あれは本当の偶然だよ。おびき寄せるつもりとかじゃなかった。でも、魔法使いとはなんぞやということを、スムーズに体験できただろう?」
    「はあ……」
    「メルティ、あなた……本気で深見くんを巻き込むつもり? 私たちの世界に!」
     怒りが炎となって立ち上らんばかりの崇城。どんな事情があろうと、許すつもりなどないに決まっている。
     しかし小さな魔女は動ずることなく、ふふっと無邪気な笑みをこぼす。
    「ねーえ、深見」
    「……なんです?」
    「男の子って、こういうの好きじゃないの? 魔法とかさ、謎の組織とかさ、ヒロインを狙う悪の集団とかさ」
    「ヒロインって誰です」
     あえてツッコんでおく。
    「IMPOは私のことを、世界三大魔女とかって位置づけてるんだよ。好きだよね? なんとか三人衆とか四天王とか! 漫画アニメ文化に育った日本人だもん」
    「そりゃ好きですけど……」
     しかしイコール「現実でも起こってほしい」ということには、絶対ならないはずなのだが。
    「ちなみにIMPOも九つの階級に分かれていてねえ。いいんちょは、どれくらいの位置にいるのかな? 一番下っ端の巡査?」
    「見くびらないで。警部補よ」
    「下から三つめか。その若さで警部補なら、まあなかなかの素質ってことかな。威張れるほどじゃあないけどさ。おっぱいを成長させてる暇があったら魔力を成長させたほうがいいよ?」
    「ハ、ハレンチな……!」
    「とにかくいいんちょ、深見から魔法の記憶は消させないよ。刺激に満ちた私のロリボディと魔法の世界を、たくさん教えてあげるんだ。OK?」
    「OKじゃないわ! 彼の気持ちも考えないで……。深見くん、そんなものは迷惑だって、はっきり言ってやって!」
    「……ん」
     メルティと視線を交錯させる。
     彼女の瞳は、本当にまっすぐだった。本気の本気で、ただ自分を楽しませたいと考えている……。
    「絶対に面白いよ。誰もが子供の頃に憧れていた魔法が、君の前にあるんだよ。みんな知らない不思議な世界を僕は知ってるんだって、ひとりほくそ笑むことができるんだよ」
     どうでもいいメリットのように思えるが、数百年を生きた魔女が言うのだから意外と大切なことなのかもしれない。――零次はぶんぶん頭を振る。あまりにフリーダムなメルティに当てられて、思考回路がおめでたくなりかけていた。
     懸念事項がひとつある。少なくともそれが解消されない限り、頷くわけにはいかなかった。
    「……その、危ないんじゃないですか? 先生、しょっちゅう狙われてるんでしょう。昨日の襲撃みたいなことが」
    「そうよ。彼を付き合わせていたら、命の危険があるわ。何かあったらどうするつもりなの!」
    「私が守る」
     簡潔で、迷いのない返事だった。
    「絶叫マシンみたいなものと考えてよ。ちょっと怖いかもしれないけど、それ以上の面白さが、エンターテインメントが確実にあるから」
    「守るですって? その絶叫マシンがトラブルを起こさない保証はないわ」
     メルティは崇城をスルーして零次の手を取る。
     お菓子のように柔らかい感触と、情熱的な温かさだった。
     ドクンと、鼓動が跳ねる。
    「絶対に約束するよ。私は決して――深見を傷つけさせない。不幸にさせない。ただ、楽しさだけを教えてあげる。私がすることに、間違いはないよ」
     その言葉の、なんと力強いことだろうか。こんなにも幼い姿なのに、声なのに。
     彼女の言葉にはエネルギーが宿っていた。数百年を生きた魔女は、言葉そのものに魔力が帯びるのか。
     零次は今、安心してしまっていた。彼女の圧倒的な自信に。
     昨夜の衝撃が脳裏に蘇る。
     流れるように宙を滑り、襲撃者を瞬く間に叩き伏せた魔女の姿。凡人では為しえない、魔法という奇跡。
     欲が出てきてしまっていた。
     これを忘却してしまうのは、もったいないんじゃないかと。
     絶対に安全というのなら、まさに絶叫マシンのように、娯楽として楽しめてしまうのでないかと。
     見てみたい。もっと。正直な気持ちが彼を包む。
    「ふ、深見くん! 断りなさい!」
     わなわな震えている崇城から逃げるように、弱々しく口にする。
    「……崇城さん、ごめん。ちょっと……さ、興味が湧いちゃった、かも」
    「な……」
    「あはっ、決まりぃ! 残念だったねいいんちょ!」
     また首根っこに抱きついてくるものだから、バランスを崩して倒れそうになった。崇城は信じられないものを見ているような表情だ。
     ああ、自分から足を踏み出してしまった。でもまあいいや……そんな気持ちにさせる変な力が、この幼い魔女から流れ込んでくるのだから仕方なかった。
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