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記事 7件
  • 俺の棒銀と女王の穴熊【1】 Vol.5

    2013-04-24 22:00  
         ☆
     将棋部見学を終えて、来是は帰宅の途についた。
     正午前の陽気な春の天気。新学期にふさわしい、気持ちのいい空気。
     一歩前を、依恋が静かに進んでいる。
    「……やっぱりあの人、あたしのライバルなのね。一年生で学園クイーンなんて、やるじゃない」
    「まあ、頑張れよ」
     依恋の目標に、来是はさほど関心はなかった。適当に応援するだけだ。
    「でもすごいよな。本当に女王なんて! この世にさ、女王が正式称号の競技ってどれほどあるかな? あまりないだろ。女王様! なんて呼んでいる人もいるんだぜきっと」
    「嬉しそうにしちゃって。あんなにコテンパンに負かされたくせに」
    「ああ、負けた直後は悔しかったけど……また指したいって思ってるんだ。将棋って、すごく面白いんだな。新しい発見をした気分だ」
    「まさか、入部するわけ?」
    「そう思ってる」
     即答されて、依恋は目を細めた。
    「男磨きはどうしたのよ」
  • 俺の棒銀と女王の穴熊【1】 Vol.4

    2013-04-24 22:00  
         ☆
     ――どうしてこうなった?
    「な、なんで? あんなにハンデあったのに?」
     依恋の戸惑いの声に、ろくに返事する気も起きない。どうしてこうなったと何度も自問していた。
     勝負はあっけなく終わっていた。ありとあらゆる駒で敵陣の突破を図ったが、ことごとく巧みな防御に阻まれた。
     逆に歩と金と王しかない紗津姫の駒は悠々と躍動して、来是の歩から香車から桂馬から角飛車まで、軽々と捕縛してしまう。それらの奪った駒で容赦なく急所を攻め立てる。
     そして今、来是の玉将が詰まされた――どこにも逃げ場がないところに追い込まれた。
     確かに自分は駒の動きがわかる程度のド素人だ。上級者なら当然習得しているだろうテクニックなどまるで知らない。先の先を読むなんて器用なこともできない。
     だが、それにしても、この強さはいったいなんだ?
    「ま、まいりました……」
     呆然と負けを宣言した。
     これはさすがにハン
  • 俺の棒銀と女王の穴熊【1】 Vol.3

    2013-04-24 22:00  
    「こんにちは」
     彼女は立ち上がって、にこやかに会釈をする。両手は前に持ってきて、ホテルの従業員のような姿勢だ。自然にそうした行動が身についているんだろうと思わせた。
    「は、はい、こんにちは」
    「新入生ですね。入部希望者でしょうか?」
    「え、いや――」
     ネクタイの色で判断したらしい。赤は一年で、青は二年、緑は三年である。
     この女生徒は、青のネクタイだ。一年上の先輩ということになる。
    「将棋の経験はありますか?」
    「こ、子供の頃にほんのちょっとだけ。駒の動かし方がわかる程度で」
    「仮入部もできますので、よろしければ……少しでも見学していただければ嬉しいです。どうでしょうか?」
    「ああ、えっと、はい!」
     断れるわけがないと来是は思った。
     なぜなら、美人のお願いだからだ。
     テレビのCMでしか見たことのない、油を引いたような麗しい黒髪。肩まで伸ばしたそのストレートヘアーは、風に揺れれば綺
  • 俺の棒銀と女王の穴熊【1】 Vol.2

    2013-04-24 22:00  
         ☆
     私立彩文学園。
     昭和初期創立という長い歴史を持ち、近隣では有名な私立高校だ。
     日本文化の大切さをよく学ぶべしと、ヒゲの豊かな校長先生が、入学式の挨拶で繰り返し力説していた。我が国の彩り豊かな文化……これが学校名の由来だ。修学旅行は例外なく古都の訪問であり、その他特別なカリキュラムも多数用意しているとのこと。
    「日本文化ねえ……。そう言われてもピンと来ないけど」
    「そうよねえ。いっそ和服を制服にすればいいのに。男子は袴でさ。学帽も被って」
    「昔の書生みたいだな」
     初めてのホームルームが終了し、早くも放課後を迎えた教室。来是はなんとなく依恋と話し合っていた。新しい友達を作ろうと積極的にアクションを起こすクラスメイトもいるが、ふたりに近寄ってくる者はいなかった。
     ……こいつが美人すぎるからだよな。来是はそう直感した。
     自己紹介のときの依恋の美少女ぶりには、クラス中が好奇
  • 俺の棒銀と女王の穴熊【1】 Vol.1

    2013-04-24 22:00  
    ■1
    「女王様に、あたしはなる!」
     何度も聞いてきた台詞だった。これから三年間通ることになる私立彩文(あやふみ)学園の校門を前にして、碧山依恋(みどりやま・えれん)は爛々と瞳を燃え立たせ、果てなき遠くを見つめていた。通学路に植わる桜並木と舞い散る花びらが、少女をこの上なくフレッシュに彩っている。
    「このあたしの美貌をもってすれば、一年……いえ、半年もあれば充分ね! この学園でナンバーワンの女の子はあたしなんだって、みんなに知らしめてみせるわ。今までと同じようにね」
     幼稚園の頃、女王様になるのがあたしの夢ですと発表会で宣言したのが事の始まりだ。男の子が一度は世界最強を目指すように、女の子も一度は女王様と崇め奉られたいもの。しかしいつしか、現実を前に諦めるようになる。平凡の道を歩むほかなくなる。
     依恋は凡人ではなく、ずっとその夢を持ち続けていた。
     努力より成功が先に来るのは辞書の中だけ
  • 『俺の棒銀と女王の穴熊』はなぜ生まれたか

    2013-04-24 22:00  
    「はじめに・料金体系について」で書いたとおり、本ブロマガの連載は都度課金制にしており、物語の途中までは無料で読めるようになっています。
     で、課金して読める部分の掲載はまだ先のことになるのですが、チャンネルの開設にあたって有料記事が最低1本必要ということなので、本稿を書くことになった次第です。(本稿は2013年6月18日をもって無料記事にしました)
     また「個人クリエイターがニコニコチャンネルでいかにマネタイズできるか」についても焦点を当てています。企業や著名人しか開設できないと思われていそうなニコニコチャンネルを、無名の一作家・ライターにすぎない私がどうやって開設できたのか? 知りたい方はぜひお読みください。
    1.『俺の棒銀と女王の穴熊』はなぜ生まれたか、を語る前に
     そもそも将棋をテーマにした小説が少ないということから話を始めましょう。
     最近では小説すばる新人賞を受賞した『サラの柔ら
  • はじめに・料金体系について

    2013-04-24 22:00  
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