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『王手桂香取り!』レビュー 第4回
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『王手桂香取り!』レビュー 第4回

2014-02-10 18:00
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     大雪も無事に去り、ようやく買えた『王手桂香取り!』。今回がレビュー最終回です。本作のタイトルで検索すると、このブロマガがわりといい位置に出てくるのがちょっと嬉しかったり。それにしても、ほとんどの人にとって未知であろう将棋ラノベ、評判が気になっている人が多いようです。

    最終局 歩のない将棋は負け将棋

     前章(第二局)は将棋道場での大会がメインだったのですが、いきなり一回戦でライバルキャラの二階堂に当たってしまい、なすすべなくやられてしまいます。そして憧れの桂香先輩も二階堂に敗北。本作のストーリーは非常にシンプルですね。強敵にぶつかって一度はやられますが、修行を経てリベンジに挑戦。王道の少年漫画的シナリオです。
     最終局では五段の腕前を持つ二階堂にどうやって勝つか? に焦点が絞られるのですが、自己申告で二段の歩とは三段の差。将棋会館道場の規定でいうと角落ちの手合いです。どうあがいても平手で勝てるわけがないのですが……。
     ここからの展開は現実的で素晴らしかったです。二階堂のネット対局データから、彼が横歩取りが苦手だということを突き止め、横歩取りの猛特訓を開始するのです。
     横歩取りとは本書の初心者講座にも書かれているとおり、数ある戦法の中でもっとも激しい戦法と言われています。一手間違うだけで即ゲームオーバーの危険を秘めており、プロでも「これは指したくない」という人がいるくらい。もちろん私も苦手です。
     苦手な戦法では実際の段級位よりも下の実力しか発揮できない。そこにつけ込む。至極まっとうな解決方法です。しかし一番の難問は、どうやって二階堂に横歩対決を受けさせるか。ここをネタバレすると面白くなくなるので伏せますが、現実ではあり得ない、ライトノベルならではの方法が取られて愉快でした。二階堂があんな性格だから余計に。
     ちなみに、前将棋連盟会長の故・米長邦雄永世棋聖にこんなエピソードがあります。
    1990年(1989年度)の王将戦で挑戦者となった時に、「横歩も取れないような男に負けては御先祖様に申し訳ない」と新聞紙上でコメントし、横歩取り戦法をほとんど指さなかった南芳一王将(当時)を挑発した。 ※Wikipediaより
     リアルにこんな話があったということを知っていると、ここらのシーンがより楽しめるのではないかと思います。
     そうして始まった歩と二階堂の横歩取り対決は、手に汗握るの一言。作者さんはおそらくプロの棋譜か将棋倶楽部24の高段者の棋譜を参考に、この対局シーンを描いていったと思われます。順調な序中盤、わずかな読み抜けから一転して敗勢、しかしそこから……と、歩の呼吸や体の震えまで伝わるような密度の濃い描写。あと、いかに敗勢になっても、歩は駒娘の力を借りず、自力で指そうとするんですね。勝つことよりも、自分で指すことを大事にする。これぞ将棋の神髄のひとつ!
     電撃大賞で将棋ラノベが受賞したというニュースを聞いたのは数ヶ月前で、そのときはどのくらいの将棋成分があるんだろうと思っていましたが、ここまでがっつりやってくれるとは! 一将棋ファンとして、この作品を世に生み出してくれたことを、作者さんには感謝しなければなりません。

     桂香先輩との仲もちょびっと進展し、あっと驚く新キャラが登場して、第1巻は終了。続きが気になりまくる引きでしたが、できるだけ長く続いてほしいですね。

     最後に検索して来られた方、うちの『俺の棒銀と女王の穴熊』もぜひよろしくお願いします。
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