TOTOが運営する、建築とデザインの専門ギャラリーTOTOギャラリー・間。特別顧問の安藤忠雄さんをはじめ、SANAAの妹島和世さん、アトリエ・ワンの塚本由晴さん、建築評論家のエルウィン・ビライさんと、そうそうたる顔ぶれが現在の運営委員を務め、注目度の高い建築情報を発信しています。

現在TOTOギャラリー・間では、鈴野浩一さんと禿(かむろ)真哉さんが2004年に設立した建築家ユニット・トラフ建築設計事務所の個展を開催中です。

訪れる人を楽しませることを主眼に置き、トラフ建築設計事務所の世界に引き込む今回の展覧会。いわゆる「過去のプロジェクトを紹介する」展示とはまったく異なり、展覧会場を「敷地」と捉えた新たな作品に仕上がっています。

© Nacása & Partners Inc.

ユニットが生まれるきっかけになった、目黒の老朽化したホテルをリノベーションした「テンプレート イン クラスカ」に始まり、これまで200を超えるプロジェクトを手がけるトラフ建築設計事務所。かみの工作所と製作した紙の器「空気の器」は、いろいろなアーティストとコラボレーションしたり、国内ミュージアムショップで見かけないことがないほどの大ヒットプロダクトです。

建築のように大きなものから、指輪ほど小さなものまで。規模に関わらず設計の姿勢はいつでもフラットで「そこを敷地にして、ものの魅力を引き出す」ことを最大限考えているように思えます。

今回の展覧会テーマは「インサイド・アウト(Inside Out)=裏返し」。空間全体を身体を使って楽しみ、トラフ建築設計事務所の2人の頭の中を探検しているような構成に注目です。

© 阿野太一

上下階に別れた下会場には、これまで手がけた作品と現在進行中のプロジェクトが、それぞれ設計中にインスピレーションを受けた素材とともに大テーブルの上に並べられています。

一見するとフラットで無秩序ですが、全体のポップなごちゃごちゃ感を見るだけで、なんともワクワクした気持ちになりました。

大テーブルの上の細い線路を走るのは、小さな緑の列車「トラフ号」。作品の間や上、下を縫うように走る列車を見ていると、まるで作品が「街の風景」のように思えてきます。

© 阿野太一

フジツボのような「港北の住宅」に親和性を感じる、巨大な木の実

視線を低くして見上げたり、背伸びしたり、横移動したり、キョロキョロしたり……2人の思考を駆け抜けるライブ感。

展覧会リーフレット「1-100マップ」には作品それぞれの解説はほとんどなく、並ぶものの関係性を自分勝手に想像できます。リーフレットを読みっぱなしになることなく、ああだこうだと想像が膨らみました。

© 阿野太一
© Nacása & Partners Inc.

中庭で休憩した後、もう1つ上の会場に入ると、大テーブルを走る列車の目線で、作品をくぐり抜けながら巡る動画が流れています。それに合わせて響くのは、作品解説をしてくれる鈴野さんと禿さんの声。

家具デザイナー・藤森泰司さんとデザインした観覧席のようなベンチに座り、淡々とした誠実な解説を聞いていると、下階で大テーブルを見下ろしていたのが、いつのまにか小人になって建築を巡っているような気になってきました。

下会場で外側から見ていた風景とはまた違う、街に入り込んだ景色。この「スケール感のひっくり返り」こそ、展覧会の仕掛けではないでしょうか。


鈴野さん、禿さんの顔のスタンプを発見
CMYの光で影がK(黒)になる

なにより設計の行為自体を楽しみ、常に人を喜ばせ、おもしろいアイデアを生み出す2人のスタンスが具現化している展覧会。少し敷居が高い「建築の展覧会」が、まったく違う目線で見えてきたことが、とても嬉しかったです。

建築家の思考を覗き見るというと、とても難しい感じがしますが、どんな人も楽しめる展覧会です。秋の週末に出かける展覧会にぴったりですよ。

全416ページにわたる作品集『トラフ建築設計事務所 インサイド・アウト』も、展覧会に合わせ同時出版です。

建物1階、B1階セラトレーディング・ショールームにて「空気の器」インスタレーションも開催、© 阿野太一

トラフ展 インサイド・アウト
開催期間:2016年10月15日(土)~12月11日(日)11:00~18:00
休館日:月曜・祝日
入場料無料
Webサイト トラフ展 インサイド・アウト[TOTOギャラリー・間]

トップ撮影:© 阿野太一
撮影(特記なし):Aya Midorikawa

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