漠然とではあるものの、そんなことを考える年齢に差し掛かっている自分に気がついた。とはいえ家を買うには、乗り越えるべきさまざまなタスクがある。購入に必要な手続きは? そもそも自分はどんな家に住みたいのだろう?
マンションか一戸建てか。通勤や日々の買い物など利便性を重視すべきか、静かな環境の物件がいいか。資金はどう調達すればいいのか、ローンの組み方は?
Style&Deco代表取締役 谷島香奈子さん
そんなときに出会ったStyle&Decoは、中古物件探しから資金計画、リノベーションの設計までトータルで提供するサービス「EcoDeco(エコデコ)」を展開している。昨今の“リノベブーム”以前から、リノベに取り組んできた会社だということで、代表取締役の谷島香奈子さんにお話をうかがってみた。
「事業を始めた2006年当時は、リノベーションという言葉自体がまだあまり知られていませんでした。新築を購入できない人が中古物件を購入するという、ネガティブなイメージが少なからずあったように思います。それを払拭したくて、EcoDecoを立ち上げました」(谷島さん)
リノベーションのよさって何?
谷島さん+EcoDecoによる著書『ビギナーのための賢い家のつくり方 中古を買って、リノベーション。』
少し前までは、家の購入を決めたなら、まずは新築物件を検討する人が多かったはず。立地、予算、間取り、デザインなど、何ひとつ妥協せずに理想の家を作る/見つけるのはとても難しいし、都心ともなればそのハードルはさらに上がる。
「私たちが提供したいのは、『自分らしい暮らしがもたらす、居心地のよさと気持ちよさ』。暮らし方は100人100色なので、住まいはもっと自由でいいと思っています。新築マンションを購入する場合、間取りをはじめ、床材や壁紙、キッチンやバスルームなどの設備は既に決められている場合が多く、選択肢が制限されています。
リノベーションは、既製品に当てはめなくてもいい自由度があります。壁を取り払って広いリビングにしたい、壁を作って部屋を仕切りたい、玄関に土間を作りたいなどの要望も、リノベーションなら叶えることができるんです」(谷島さん)
例えば、CDや本の所有数は人ぞれぞれ。今後も増えることを想定して壁一面に棚を作ったり、収納スペースの中が見えない工夫をしたり。すべて自分たちの「暮らしやすさ」から決めていける点が、リノベーションのおもしろさと魅力。
リノベーション、まず何から始めたらいい?
中古物件を購入してリノベを始めたいと思ったら、まずは気になるリノベ会社を見つけて相談に。次の3点だけを持って来ればOKだそう。
・源泉徴収票(住宅ローンを組む人のみ)・一緒に暮らす人と、作りたい家の意見を共有してくる
・理想の家のイメージが分かる資料や写真
「まずは、自分がいくらローンを組めるのか、収入から割り出す必要があります。いろいろなWeb上のシュミレーションサイトでも調べることができますよ」(谷島さん)
EcoDecoのヒアリングシート
打ち合わせの中で、固定概念や思い込みを外していくことも大切なプロセスだという。自身も中古マンションを購入し、リノベーションやDIYを楽しんでいるコーディネーターの天井理絵さんによると……
「不動産サイトや、分譲マンションの広告を見ていると、駅からの距離やエリアなど、条件を絞って探していきますよね。もちろんそれは必要なことですが、実際に内覧をしたり、購入を決めて住んでみたりすると、建物の条件が自分にマッチしていないことがあります。それは、自分がどんな生活がしたいか分かっていないからだと思います。
駅からの距離を重視して選んだはずなのに、実はそれ以上に静かな環境が欲しかった、路線を1本変えるだけでそれが叶う物件があったなんてことも。心地よさや暮らしやすさの基準は人それぞれで、文字にするのは意外と難しいものです。でも、そんな感覚的な部分こそが、理想の物件を探す軸になるんですよ。
打ち合わせはヒアリングシートをもとに進めます。駅から徒歩圏内が条件というお客様がいらしたら、私たちはその理由をお尋ねします。お話を聞いているうちに、それ以上に趣味の音楽が楽しめる環境を求めていることが分かったり、単純な思い込みで駅からの近さにこだわっていたり、なんてことも。自分たちがどんな暮らしを求めているのか、何が一番大切なのかをパートナーとして導き出したい思いで、お客様と接しています」(天井さん)
対話を通して、自分にとっての「心地よさ」「暮らしやすさ」に気づかせてくれることで、本当に暮らしたい家が見えてくる。それがEcoDecoの提供するサービスで、もっとも重要なことだという。
例えば、EcoDecoでリノベーションをしたUさん宅は、旦那様はフリーランスで在宅ワーク、奥様は都心にお勤めだが、都心から遠い物件を選んだ。その分、部屋は100平米と、かなりの広さ。
物件を探していた際は60~80平米を希望していて、広すぎるとメンテナンスが大変だったり、リノベーション費用がかさむのではと思い込んでいたそうだが、ちょっと遠い場所のこの物件を内見すると「何がいいって言うよりビビッときた」のだという。
広さがあることでライブラリーや書斎などが作れ、通常迷う“これからできるかもしれない子ども部屋を作るかどうか”問題も、子ども部屋を設けたうえで、しばらくは物置きやどちらかが風邪を引いた際の寝室にしている。広さがあるからこそ、空間を贅沢に使えたのが、互いの距離感を大切に暮らしたいご夫婦には合っていたよう。
駅や勤務地からの距離よりも、空間が贅沢に使える広さを選んだことが大正解で、結果として「一緒にいること」と「一人でいること」が共存する場所ができ上がった。
物件探し、資金計画、施工……リノベーションって面倒なことが多いのでは?
EcoDecoオフィスの様子
パッケージ化されている新築物件に比べ、リノベーションは少々手続きが煩雑な気がしてしまう。いざ理想の物件が見つかっても、不動産会社や金融機関とのやりとり、工事を請け負う工務店はどこがいいかなど、頭の中にいくつもの「?」が浮かぶのが正直なところ。それらをすべてワンストップサービスで提供するのも、EcoDecoの強みだという。
「リノベーションは広く知られるようになってきたものの、まだ知名度が低いのが現状です。その理由として“ステップの煩雑さ”があります。ローンの申し込みはどの金融機関がいいのか、自分がいくら借りられるのかなど調べないといけないので、すべてパッケージ化されている新築の分譲マンションと比べれば確かに面倒な部分もあります。そんなお客様の不安や負担を軽減するべく、物件探しから資金計画、施工業者の選定まで、トータルでサポートします。
それに、リノベーションのポイントは、“面倒くささも楽しむ”ことだと考えています。効率だけを考えるのではなく、自分のこれからの暮らしを作る空間として、思い切り自由にこだわっていただきたいです。
オフィスには、不動産担当者と設計担当者が同じフロアにいて、常に情報交換をし、不動産・設計双方の視点から、その物件に住まう人の「暮らしやすさ」を模索し、提案しています」(谷島さん)
「何にいくらかかったか」……金額の透明性を上げる工夫
意外(?)に思えるのが、EcoDecoは自社で工事を請け負うことはせず、施工会社を決定する際、コンペ制度を設けている。大きな金額が動く住宅は、工事の内容や金額が分かりづらいことが多々ある。それらに妥当性や公平性を保つため、EcoDecoが信頼している複数の工務店から見積もりを取り、最終決定は施主自身が選び、契約を結ぶといった仕組み。
「弊社内の設計部門、提携の設計事務所各社から要望・予算に応じて選択することも可能です。ご自身で設計される方はもちろん、お知り合いの建築家さんを指定することもできます。大切なのは、お客様の理想の暮らしを実現することなので、選択肢がいくつあってもいいと思っています」(谷島さん)
前職で、建築家と施主をマッチングするコーディネーターをしていた谷島さん。不動産業界の古いやり方に縛られず、「リノベのマイナスイメージを変えたい」思いで会社を立ち上げたバイタリティが、EcoDecoのサービスに生かされている。
気に入った家に長く住むよさ
EcoDecoがリノベーションにこだわるもうひとつの理由に、「住まいを消費するスクラップ&ビルドの悪弊を断ち切りたい」という理念がある。
「土地が限られる都心では、どこも既にマンションや戸建住宅が建っています。オーナーが代わり、中古物件として売りに出されるものがある一方で、新築マンションが次々と建てられているのが現状で、空き家問題も深刻化しています。限られた国土のなかで、いいものに長く住むという、消費者・生活者として大切なことを知ってほしいのです。」(谷島さん)
EcoDecoでは、完成した物件の写真を1冊の本にして贈っている
EcoDecoが提案するのは、ライフスタイルそのもの。固定概念や思い込みを外し、その人にとって本当の「暮らしやすさ」を追求する姿勢は、理想の家づくりにこだわりたい人にピッタリだ。
自分にとって何が大切なのかや、自分の理想とする暮らし方について、今一度考えてみたい。
Photographed by Natsuki Kuroda、一部提供:EcoDeco