そこで、さまざまなジャンルで活躍する方々に「10年後も手放さない」思い入れのあるモノを、31×34.5cmという限りのある『ROOMIE BOX』の中に詰め込んでもらいました。
なぜ、「10年後も持っている」と考えるのか―――。大切に持ち続けるモノについて語る姿から、その人の暮らしが徐々に見えてきます。
フラワーアーティスト 前田有紀
10年間テレビ局に勤務した後、2013年イギリスに留学。コッツウォルズ・グロセスター州の古城で見習いガーデナーとして働いた後、都内のフラワーショップで修業を積む。「人の暮らしの中で、花と緑をもっと身近にしたい」という思いからイベントやウェディングの装花や作品制作など、様々な空間での花のあり方を提案する。2018年秋には、自身の手がける花屋ブランド「gui」を立ち上げる。
https://sudeley-flower.com/
10年後も手放さないモノ
「違う世界を見たい」留学へのきっかけをくれた本『旅をする木』は、写真家の星野道夫さんによる著書です。オーロラや氷河など、見たことのない手つかずの自然についての描写に、いわゆる「都会暮らし」をずっとしていた当時の自分は衝撃を受けました。
職場の近くに住んで、自分やまわりの人が中心になっている暮らしっていうのは「今いる世界のほんの一部だけ」だということを実感したんですよね。
この本を手に取ったのは偶然だったんですけど、テレビ局に勤めて5年目くらいのことだったので、いろいろと将来についても考え始めていた頃でもありました。
アラスカには行ったことがなかったからこそ、子どもが絵本を読んで空想するみたいに、すごく自分の世界が広がったんです。
「違う世界を見てみたい」と思うきっかけをくれた本ですね。いまでも、ふとしたときに読み返します。
イギリスでの修業時代を思い出すウェッジウッドの花瓶お花の勉強をするためにイギリス留学をしていた頃、招かれたお宅でお茶をごちそうになる機会がたくさんありました。
とくにホームステイ先では、学校や仕事でちょっと落ち込んで帰ると「お茶にしましょう」といつも誘ってくださって、そういうときにウェッジウッドのティーセットが出てくるんです。
それが「とても素敵だなあ」と思っていて。でも留学中は、あまりお金があるわけじゃないから、さすがにティーセットは買えなくて……。
最初に買ったウェッジウッドは、ノッティングヒルの骨董市で買ったマグカップでした。
それからも、ちょっとずついろいろ買い足していって、大切に使っています。この花瓶もそのひとつなんですよ。
葉脈をモチーフにしたデザインや、白磁でどんなお花にも合うところが気に入っています。
いまでもウェッジウッドにふれると、イギリスで出会った人たちの顔が思い浮かびます。慈しむように大切にしているブランドです。
夫婦のティータイムのために旅先で手に入れたヤカンイギリスの方って本当によくミルクティーを飲んでいて。ホームステイ先だけじゃなくて、修業先の庭師の男性たちも、それぞれ淹れ方にこだわりがあるんです。わたしが淹れると「ちょっとぬるいね」ってダメ出しをされたり(笑)。
仕事中でも、ちょっとひと息つく時間をとても大切にしているんですよね。留学前のわたしの働き方だと、仕事をどんどんやっつけるって感じで。
まわりにも「ちょっとお茶しよう」なんて声をかける人はいなかったし、自分自身もそんな気分ではありませんでした。
だからこそ日本に帰ってきて結婚してからは、夫婦のお茶の時間を大切にしようと思いました。子どもがお昼寝しているときとか、ちょっとした時間なんですけど……。
それでも、お茶をすると、新しいアイデアが浮かんだり気持ちが整ったりしますよ。
そんな夫婦のお茶の時間に使えるヤカンをずっと探していたんです。愛着を持って、長く使えるものがいいなあと探しているうちに新潟の「東屋」さんを知りました。
旅先の長野のセレクトショップで購入したんですが、今思えば、このヤカンを買うために旅に出たというほうが正しいかもしれません(笑)。それくらい惚れ込んで手に入れました。銅製なので、経年変化していくのも楽しみですね。
お義母さんからもらったパールのチャームとマグカップパールのチャームは、結婚式の日に夫のお母さまからいただいたもの。夫は3人兄弟なんですけど、わたしを含め、お嫁さんはみんなお揃いのチャームを持っているんですよ。
お正月に家族みんなで集まるときや、なにか大切な日につけて、大事にしています。
このマグカップは、お義母さんの手作りなんです。長く趣味で陶芸を続けていて、わが家の食器は、ほとんど手作りですね。
土の温かみがあって、どんな料理にも合うので気に入っています。
このマグもよくお茶の時間に登場するんですが、手に持った感じが好きですね。模様の手触りだったり、うすく釉薬がかった色合いだったり……。既製品に比べて味があるんですよね。
星をモチーフにした「KRAS」のアタかごこれは、「KRAS」(クラス)という友人のブランドが作っているアタのかごです。アタというは、インドネシアに自生している植物で、バリのトゥガナンという地域で作られていると聞きました。
トゥガナンというところは自然がいっぱいで、星がとてもきれいに見えるんだそうです。だから、村の人たちは星空が大好きで、このかごにも星のモチーフが使われていて。
しかも、地元の職人さんが丁寧に作っているから本当に丈夫。触ってみるとわかるんですけど、きめ細かな技術もすばらしいんです。
かごものが好きだからいろいろ持っているんですけど、友人からストーリーを聞いたこともあって、これは唯一無二のものだなあと感じています。
この年齢になって、見た目のかわいさよりも、そのものが持つストーリーに惹かれることがよくあるんですよね。
普段はリビングに置いて、ちょっとリモコンを収納したり体温計を入れたり。ふたをあけてドライフラワーを飾ったりしても似合うんですよ。
フラワーアーティスト 前田有紀さんの10年後
仕事に関しては、日本でみんなが植物を育てたり花を飾ったりする日常が当たり前になるといいなあと思っています。アナウンサー時代は、わたし自身も花を飾る暮らしとはほど遠い生活をしていましたから……。
「忙しくて花どころじゃない」という人は、きっと他にもたくさんいると思うんです。だから10年後、花を身近に感じる人がもっと増えている未来になるように、いろいろなところに届けていきたいと思っています。
あとは、仕事もあるけど、子どものいる暮らしも大切にする。そういう生き方を肩肘はらずに実現していきたいですね。たぶん、できると思う。
そもそも鎌倉への移住を決めたのは、子どもには、わたしの憧れた「自然が身近に、当たり前にある暮らし」をしてもらいたいと思ったからなんです。
なんだかんだで、わたし自身は子どものころからずっと都会暮らしをしていたんですよね。小学校の頃は横浜から東京へ満員電車に乗って通学していたから、草花に触れる時間より、ビルを見ている時間のほうが長かった。
だから引っ越す前には「家族でこれからどう生きていきたいか」「いろいろやりたいことがあるなかで、なにを一番優先するのか」といったことをたくさん話し合いました。
その結果、いまやっと自分が本当に望んでいた暮らしができていると感じます。
憧れていた自然の暮らしやお花の仕事を大切に、誰に言われたわけじゃない、自分で決めたこの道を味わい尽くす10年にしたいと思っています。
Photographed by Yutaro Yamaguchi、取材協力:GARDEN HOUSE