廃棄することなく、WEBやアプリのサービスを活用して「モノを売る」ことが増えてきた今、あえて「ずっと持ち続けている」のはなぜなのか。そのモノと出演者との関係性を語ってもらうことで、その人の暮らし方や生き方が見えてくるのではないか、と数年前に始まりました。
その人にしかわからないストーリー
小さい頃から大切にしているモノ。これがないと不思議と落ち着かないというモノ。大切な人から、印象深いシチュエーションでもらったモノ。
芸人のヒロシさんのように「なんとなく」から始まる方や、漫画家のスケラッコさんのように“人に買ってきてもらう”という方もいます。イラストレーターのたかくらかずきさんは「ふと入った店で買ったアイテム」を紹介してくれました。
他人から見たら「ブランド」「デザイン」「価格」といった客観的な情報しか頭に入らないモノも、お話をうかがってみると、その人にしか感じられない愛着やストーリーが詰まっています。
「10年後」という時間
アイテムのセレクト条件として、31×34.5cmの箱に入りきるモノ=制限がある。この制限によって、車や家、大物家具といった「そりゃあ10年後も持っているよな」というモノをなくして、限りのある中で考えてもらいます。
こういう「なんでもアリではない」ところもすごく好きなのですが、1番好きなのは「10年」という期間です。
1年後、2年後なら使っているだろうけど、「10年後」となると、急にためらう。この連載を始める前、何年後の話にするか……と悩んでいたタイミングで、当時の編集長から「10年後がいいんじゃないかな」と言われ、納得感があったことを思い出します。
5年後に設定すると、もしかしたら今と全く変わっていない可能性がある。かといって20年後だとライフステージが変わりすぎていて想像しにくい。自分がどうなっているのかどうか、じっくり考えてみると想像できそうな10年という時間。この時間設定によって、出演者の方々が「本当に大切なモノ」をセレクトしてくれるのです。
自分にあてはめて考えてみると
あるとき、僕にとっての「10年後も手放さないモノ」は……と考えてみましたが、正直、めちゃくちゃ悩んでしまいました。この企画を重ねていくごとに、インタビューを受けていただいた方々がいかに「自分にとって大切なモノ」をよくわかっているか、ということを思い知らされます。
それと取材でいつも思うことは、「自分の好きなもの」を語る姿、表情が、生き生きとしていること。子どものような目をして、聞いているこちらも嬉しくなってくるようなテンションで語りまくる。その熱量たるや、取材現場を動画で撮影して感じてほしいくらいです。
いまは前編・後編と分けている記事もありますが、とにかく出演者が語って語って語り倒すので、いくら削っても文章が長くなってきます。とはいえ、なるべく現場の熱量をそのままご紹介したいと考えているので、必要な情報は全て詰め込む。この企画に関しては、長さ=その方の熱量だと思って読んでみてください。
この取材をする度に考えて、ようやく導き出した答えとしては、自分は「手に入れたシチュエーション」を大切にしている、ということです。例えば、僕の「10年後も手放さないモノ」として挙げたいこの2つ。
入院時にもらったレスラーのフィギュア
高校生2年生の6月後半、鎖骨を骨折して入院しているときに、友人が「暇だろうから、買ってきたよ」と見舞いで持ってきた100均のレスラーフィギュア。プロレスが好きなわけではないし、高校生にもなって人形で遊ぶってどんな発想なんだよと思いながらもらいました。
それからもう10年以上が経ちました。高校、大学、社会人とライフステージが変化しても、未だに持っています。そして今後も持っていることでしょう。
合羽橋で買ったエンダースキーマのショルダーバッグ
もう1つが、エンダースキーマのショルダーバッグ。最近購入したばかりだけど、直感的に。もちろんデザインやサイズ感、ブランドが好き、という理由もあるけれど、それよりも「合羽橋にある雰囲気の良いお店で買った」という事実が大きいと思ってます。
合羽橋という最高のロケーション。開放感があり、騒音がなく、時間が緩やかに流れる店内。あぁ、通路が広くて欲しいアイテムがめちゃくちゃあるし居心地のいい店だな~と思いながらぐるっと1周。そっと近づいてきたかっこいい店員さんによる威圧感ゼロの説明を受けて、すぐ購入。
合羽橋という場所が好き、居心地のいい店だった、という理由が大きいと思いますが、ここまでの一連の流れは、今後も記憶に残ると感じています。
出演シミュレーション
自分の部屋を見回してみてください。「10年間持っているモノ」がどのくらいありますか? もしかしたらそのモノたちには、自分にとっての大切な何かが詰まっているかもしれません。手に入れたときのことや、誰かのことを思い出すかもしれません。
お時間があったら、出演依頼が来たと妄想して、準備してみてください。想像以上に楽しい遊びですよ。