さて、今回は江戸川乱歩の妖しき「美」をコミカライズした一作をご紹介します。
■誰もが読んで憧れた江戸川乱歩の「妖しさ」をもう一度!
江戸川乱歩の少年探偵団を子どもの頃に読んだ人は多いと思います。探偵明智小五郎と少年探偵団のシリーズは子どもに人気であったため、図書室の定番ともなっていました。何か読まなくてはいけないので、とりあえず読んでみたらその魅力に引きつけられた、という人も多かったと思います。
少年探偵団は江戸川乱歩の本来の路線としては軽めのものですが、それでもポプラ社のシリーズの表紙やイラストにはなにやら妖しげな雰囲気が漂っており、サーカスや気球といった物語を彩る小道具にわくわくした記憶が誰でもあるのではないでしょうか。
大正時代から昭和初期は、おどろおどろしさ、妖しさ、怪しさ、そしてちょっとしたエロが渾然一体となった世界観に実に似合う時代背景です。それぞれ「もっとグロい」「もっとエロい」画像や映像なら、今ではネットでいくらでもみつけられます。しかし、当時の技術水準や社会背景をベースにお話を作り上げるたほうが、その輝きが強いように思えます。
それはたぶん、技術の進展が世の中を明るくしすぎてしまったということかもしれません。妖怪はゆらゆらしたロウソクの灯りが似合うように、コンビニの強い蛍光灯の下には妖しさが宿らないのでしょう。
■江戸川乱歩の世界観を見事に再現した『江戸川乱歩異人館』
山口譲司の描く『江戸川乱歩異人館』は先日発売になった最新刊まで5巻を数えますが、いよいよ好調な筆の滑りとなっているシリーズです。江戸川乱歩の妖しさを見事なまでに再現したコミカライズとなっています。
すでにある江戸川乱歩全集に題材を得つつも、山口譲司のなんともいえない妖艶な筆致により、その世界観を2010年代において見事に再構築しています。
着物と洋装の混在、洋室と和室の混在、召使いと富豪、背伸びしたハイカラ生活と熟しきった和の暮らし方の混在……といった対比のおもしろさが大正・昭和初期の雰囲気にはあります。そんな中を、明智小五郎が、江戸川乱歩自身が、はたまた小林少年がいきいきと駆け巡ていきます。まだ怪人二十面相は登場していないのですが、その登場が楽しみです。
特に女性の描き具合が絶妙な艶めかしさをもっており、悪女の色香、若い娘の恥じらい、そのボディラインがしっかり書かれているのが、猟奇的な世界観を盛り上げています。そしてまた、名探偵として活躍する明智の色っぽさも格別です。
『D坂の殺人事件』『屋根裏の散歩者』『押絵と旅する男』『人間椅子』等の名作も妖しくエロチックに表現されており、唸らされるばかりです。
乱歩好きならあえて、華やかな祝祭に背を向けて、猟奇的世界観に身を浸らせて過ごしてみてはいかがでしょうか。
「うつし世はゆめ よるの夢こそまこと」ですよ。