子どもにワクワクや楽しさ、悲しさ、教訓などを教えてくれる絵本。大人になって読んでみると、また違った印象を受けることもあるかもしれません。夜眠る前に、雨降りの日に、もちろん晴れの日だって、絵本を読む時間はきっと貴重な時間となることでしょう。
というわけで、大人も子どもも楽しめる絵本の紹介をしていきたいと思います。第28回は、作:バージニア・リー・バートン、訳:いしいももこ『ちいさいおうち』です。
1965年初版の絵本です。ストーリーはこんな風。
むかしむかし、静かないなかにちいさいおうちが建っていました。それは、ちいさいきれいなおうちでした。しっかり丈夫に建てられていました。
そのおうちは丘の上から周りの景色を眺めて、春夏秋冬の移り変わりや木々や草花の美しさを感じ、幸せに暮らしてきました。
そして時が経ち、ちいさいおうちの前を車が走るようになり、やがて道路はあちこちに延び、大きな家やアパート、お店、駐車場などができ、ちいさいおうちをすっかり囲んでしまいました。
どんどん大きなビルが建ち、電車が通り、ちいさいおうちは四季の移り変わりを感じられず、毎日が同じように思えてきました。
そこへ、このうちを経てた人の孫の孫の孫の人がおうちの前を通りかかり…
リンゴの花がつぼみをつけ、白いひなげしが咲き、おひさまやお月様が毎日、違う表情を見せてくれることを感じながら、毎日を過ごしていたピンクのおうち。でも、周りが都会になって行くといつも音が鳴り響き、人や車が往来し、人工的な街の照明の中では、小鳥のさえずりや、自然の移ろいに気がつくことができなくなってしまったと思い、田舎を懐かしみます。
このちいさなおうちの存在は、まさに私たち人間に置き換えることができます。街だけでなく、技術や社会が変化を遂げ、便利になっていくことはよいことなのですが、反面、大切なことを忘れてしまったり、自然の恵みを感じることが少なくなっているかもしれません。
このお話はおうちを建てた人の孫の孫の孫の女の人がおうちの前を通りかかったことで、話が急展開します。さあ、どんな結末を迎えるのでしょう。
みなさんは、空や星を眺める時間がありますか? 草花の香りを感じていますか? 何が人間にとって、自分にとって大切なのかを気づかせてくれるお話です。
『ちいさいおうち』作:バージニア・リー・バートン、訳:いしいももこ(岩波書店)