とある作家がそう語り始める、ゴージャスでミステリアスな物語。世界中に熱狂的なファンを持つウェス・アンダーソン監督最新作『グランド・ブダペスト・ホテル』は、格式高いホテルの“伝説のコンシェルジュ”が連続殺人事件の謎に挑むミステリーです。
舞台は美しい山々を背に優雅に佇む、ヨーロッパ最高峰のグランド・ブダペスト・ホテル。エレガントな上客たちのお目当ては、マダムたちの夜のお相手も辞さない徹底したプロ意識を持つコンシェルジュ、グスタヴ・Hでした。
ところが、長年懇意にしていた伯爵夫人が殺され、莫大な遺産から1枚の絵画を贈られたグスタヴは、事件の容疑者にされてしまいます。愛弟子のベルボーイのゼロと、コンシェルジュの秘密結社の力を借りて、グスタヴは命より大切なホテルの威信を守るべく謎に挑みます。
グスタヴ・Hと愛弟子ゼロを好演したのは、共にアンダーソン組初参加のレイフ・ファインズとトニー・レヴォロリ。レヴォロリがファインズを「兄のような存在だった」と語るとおり、息の合った演技を見せています。
84歳の伯爵夫人、マダムDの正体はティルダ・スウィントン(実際は50代)。毎朝ヘアメイクに5時間近くをかけたそうで、白内障に見せるコンタクト・レンズや老女の歯や耳たぶもつけられ、素のままの部分は全くありません。
シアーシャ・ローナンが演じるのは、頬に魅力的なアザがあるゼロの婚約者アガサ。若きパティシエの彼女が作る“コーティザン・オウ・ショコラ”は、観ていると無性に食べたくなる一品。
マダムDの息子ドミトリーはエイドリアン・ブロディ(上の写真中央)。ウィレム・デフォー扮する殺し屋のジョプリング(左)は、革のコートにメリケンサック、ヒールの高いブーツ姿。コートはプラダから提供されたそうです。
今作は現代と60年代、そして大戦前夜という3つの時代を結ぶ一大叙事詩。60年代のさびれたホテルでは、コンシェルジュ・デスクにジェイソン・シュワルツマン。そこを訪ねる作家をジュード・ロウが演じています。
他にもビル・マーレイ、エドワード・ノートン、オーウェン・ウィルソンら、アンダーソン組の豪華な常連たちが脇を固めます。
撮影でホテルとして使用されたのは、世界遺産に登録されたドイツの町ゲルリッツに20世紀になる直前に建てられた広大なデパート。エレベーターのドアからコンシェルジュ・デスク、大階段まで、当時のホテルの膨大なリサーチを行ってデザインされました。
グランド・ブダペスト・ホテルのみならず、登場人物の衣装、ヘアメイクから小道具、音楽に至るまで、監督のこだわりが隅々まで感じられる今作。各時代でスクリーンサイズを変えるという斬新なアイディアも起用されています。
1930年代のコメディとウィーンの作家シュテファン・ツヴァイクの作品から、今作のアイディアを得たというウェス・アンダーソン監督(上の写真右)。まるで映画の中に住んでいるかのような佇まいの奇才が生み出したミステリーは、細部まで何度も観たくなる新たな名作です。
『グランド・ブダペスト・ホテル』
監督・脚本:ウェス・アンダーソン
キャスト:レイフ・ファインズ、トニー・レヴォロリ、F・マーレイ・エイブラハム、マチュー・アマルリック、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、ジェフ・ゴールドブラム、ハーヴェイ・カイテル、ジュード・ロウ、ビル・マーレイ、エドワード・ノートン、シアーシャ・ローナン、ジェイソン・シュワルツマン、レア・セドゥ、ティルダ・スウィントン(マダムD)、トム・ウィルキンソン、オーウェン・ウィルソンほか
2014年6月6日(金)、TOHOシネマズ シャンテ、シネマカリテほか全国ロードショー
©2013 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved. 『グランド・ブダペスト・ホテル』[20世紀フォックス映画]