■ 戦争は現場で起きてるんじゃない? 書類の上で動いているんだ!
「大砲とスタンプ」の主人公は士官学校を出たばかりの女性中尉。初めて現場に配属されるところから話がスタートします。戦争マンガ、というと小林源文的なハードな世界観で、読むのも覚悟がいりそうな印象がありますが、「大砲とスタンプ」が描く戦争は、「紙の戦争」。すなわち補給等を回す兵站軍の戦争です。
現場で撃ち合うのも戦争ですが、その弾丸を必要な地点に必要な量揃えなければ弾は撃てません。兵士が100人いれば毎日100人分の食事を用意しなければなりませんし、軍服も100着必要です。戦争の維持は国の総力戦だと言われるのは、文字通り戦争が全ての産業を大きく動かし続ける必要があるからです。
陸軍や海軍でも主計局、つまり国の財務省に相当する役割はエリートのポジションのひとつです(マンガの中ではエリートというよりはドロップアウト組も混在して、愉快な面々、という感じになっており、難しいことを考えずにマンガを楽しめます)。
主人公の女の子が冒頭に「書類で戦争ができるか!」と怒鳴られますが、「書類で戦争をやっているんです!」という台詞を返します。まさにその通りなのです。
■ 架空の世界観、架空の武器が毎話登場するのがおもしろい
速水螺旋人さんのイラストはコミカルな絵柄であるため、戦争の悲惨さをあぶり出すというよりは、戦争を通じて人と人の人間絵巻を描いたり、ユニークな武器の登場を素直に楽しめるマンガとなっています。ロシアとトルコを想定したとおぼしき、架空の世界観に、第2次世界大戦前あたりのテクノロジーをアレンジした架空の戦車等の武器が登場します。
毎話ごとに架空武器が登場することになっており、その紹介に1ページをどんと使っています。しかし、ストーリーの本質にはまったく影響しないのがまたおもしろく、ついつい設定を読んでしまいます。
ナウシカやラピュタを見るとき、波瀾万丈のストーリーもさることながら空中戦艦のデザインに目が奪われたりします。「大砲とスタンプ」も、似たような楽しみ方で読むことができます(速水螺旋人さんは、現実の武器を紹介するイラストエッセイなども何冊も出している作家のひとりで、確かな知識をベースに架空武器を創造している感じがおもしろい)。
■ 2巻でぐっと広がった設定が3巻以降どうなるか楽しみ
2012年12月に発売された2巻で、ぐっと世界観が広がりました。主人公を取り巻く人間関係も膨らみ、戦況も変化が見られつつあります。順調に連載が続いて世界観が広がっていくのが楽しみな一冊です。
楽しく読める架空戦記物として、ぜひ「大砲とスタンプ」を手に取ってみてください。
「靴ずれ戦線」など、ほかの作品もオススメです。