定期号[2013年3月12日号/通巻No.73]
今号の執筆担当:渡部真
あれから2度目の3月11日。
僕は、2年前に50〜60人が避難していた高台に登り、そこで14時46分を迎えた。
同じ時刻、僕をのぞいて11人が同じ高台にいた。そこで3人から話を聞いたが、「2年前の当日も高台にいた」という人は一人しか出会えなかった。ボランティア4人組を除けば、残りは4人。この方々が2年前にどこで過ごしていたかは聞けていない。
そこは、大手メディアで何度も取り上げられた高台で、この間に同地を訪れて町を見下ろした人もたくさんいたはずの「有名スポット」だ。
それが僕の見た2013年3月11日14時46分だった。
その後、この高台に避難して助かった女性が営む居酒屋に立ち寄った。同行記者が「どこで“その時”を迎えたのですが?」と尋ねたところ、「仕事で車移動しているときに、追悼のラジオ番組と、防災無線のサイレンが流れるなかで迎えた」と。
この女性の店は自前のビルだったが、津波被害が大きく、震災から数カ月後に2キロほど内陸側に場所を借りて、居酒屋を再開した。近所の工場で働く人などが、ランチや夜の一杯に利用している。
一昨年の7月から何度か伺っているが、お店にいくといつも「お帰りなさい」と出迎えてくれる暖かい店だ。昨日は、帰りにお土産まで持たせてくれた。
それぞれが、それぞれの場所で、それぞれの気持ちで3月11日14時46分を迎えたはずで、当然ながら、僕が見たそれは、何十万、日本全国では何千万という「その時」のホンの一部だ。微力なもので、そんな一部しか見ることができないし、伝える事ができないけども、とにかく「来年の311まで、やれるだけやろう」と思いながら、2年間、取材を続けてきた。
そうやって311を迎えても、結局は、何の区切りにもならないし、3月12日になったからといって、何かが変わるわけでもない。
たぶん、東日本大震災で当事者となっている多くの人達も、何も変わらない3月12日を迎えているだろう。
この数日、メディアからは、大量の「震災関連情報」が流れたと思う。もちろん、一つの重要な日付である事は間違いないけど、でも、実際にその情報の渦中にいる多くの人たちにとっては、割りと淡々とした生活のなかに311があるんだと思う。
そしてそれは、情報の受け手にとっても同じ事で、だからこそ、3月12日以降、大量の「震災関連情報」から開放されて、みんな淡々とした日常が戻っていくんだろう。
それは、ある意味では「風化」だけども、ある意味では「日常化」だ。
だから、その淡々とした日常の中に、いかに東日本大震災のことを感じとってもらうか。否、大切な情報は他にもいっぱいあるので、東日本大震災だけを伝えれば言い訳じゃないけども、それでも、これまでたくさんの人達の貴重な話を聞かせてもらった僕が……まぁ、極めていい加減な人間なんで、偉そうなことは言えないんだけど……そんな僕が、ちっとは使命感をもってやっていかなくちゃいけないのかなぁと、改めた感じた311だった。
そして、また、来年の311まで、やれるだけやろうと思ってる。
[キャプション]2013年3月11日14時46分
岩手県釜石市、釜石漁港や市街地を見渡す高台より
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週刊アサヒ芸能
「定点観測で見る被災地の2年後」
料金:390円
発行:徳間書店
http://www.asagei.com/
本日発売の『週刊アサヒ芸能』にて、「定点観測で見る被災地の2年後」という写真記事の中で、渡部がこれまで撮影した被災地の写真が掲載されています。震災から数カ月以内の被災地と、2年後である現在の被災地を写真で見比べられる企画です。思ったよりも写真の扱いが小さいのですが、ぜひお手にとってみてください。気仙沼、陸前高田、南相馬、相馬、気仙沼、石巻などが渡部の写真です。釜石市の震災後の写真は、渋井さんの写真です。
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渡部真 わたべ・まこと
1967年、東京都生まれ。広告制作会社を経て、フリーランス編集者・ライターとなる。下町文化、映画、教育問題など、幅広い分野で取材を続け、編集中心に、執 筆、撮影、デザインとプリプレス全般において様々な活動を展開。東日本大震災以降、東北各地で取材活動を続けている。震災関連では、「3.11絆のメッセージ」(東京書店)、「風化する光と影」(マイウェイ出版)、「さよなら原発〜路上からの革命」(週刊金曜日・増刊号)を編集・執筆。
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