チャンネル 動画 記事 (6) 投稿が新しい順 コメント数の多い順 投稿が古い順 コメント数の少ない順 キーワード タグ 【第153回 直木賞 候補作】『東京帝大叡古教授』門井 慶喜 コメ0 芥川賞・直木賞発表を楽しもう 114ヶ月前 第一話 図書館の死体 うとうととして目ざめると東京だった。長旅で体がこわばっている。私はばりばりと音を立てるようにして三等客車の固い椅子から身をひきはがし、車室を出て、新橋停車場(ステーション)のプラットホームに降り立った。ここから路面電車へ乗り継がなければならないことは、事前の調べでわかってい... 【第153回 直木賞 候補作】『東京帝大叡古教授』門井 慶喜 コメ0 芥川賞・直木賞発表を楽しもう 114ヶ月前 第一話 図書館の死体 うとうととして目ざめると東京だった。長旅で体がこわばっている。私はばりばりと音を立てるようにして三等客車の固い椅子から身をひきはがし、車室を出て、新橋停車場(ステーション)のプラットホームに降り立った。ここから路面電車へ乗り継がなければならないことは、事前の調べでわかってい... 【第153回 直木賞 候補作】『若冲』澤田 瞳子 コメ0 芥川賞・直木賞発表を楽しもう 114ヶ月前 鳴鶴 一 大きな角盆をよいしょ、と抱え、お志乃(しの)はつや光りする箱階段をふり仰いだ。 女子の足には少々高すぎる段を上がる都度、わざと足を踏み鳴らす。顔料(がんりょう)の入った絵皿が盆の中でかたこと動き、ここ数日家内に満ちている梅の香が、その時ばかりは膠(にかわ)の匂いに紛れて消えた。 階段を... 【第153回 直木賞 候補作】『若冲』澤田 瞳子 コメ0 芥川賞・直木賞発表を楽しもう 114ヶ月前 鳴鶴 一 大きな角盆をよいしょ、と抱え、お志乃(しの)はつや光りする箱階段をふり仰いだ。 女子の足には少々高すぎる段を上がる都度、わざと足を踏み鳴らす。顔料(がんりょう)の入った絵皿が盆の中でかたこと動き、ここ数日家内に満ちている梅の香が、その時ばかりは膠(にかわ)の匂いに紛れて消えた。 階段を... 【第153回 直木賞 候補作】『永い言い訳』西川 美和 コメ0 芥川賞・直木賞発表を楽しもう 114ヶ月前 ぼく 大学の時につきあった彼女は、絶頂に達する直前になると、もうやめて、と決まって言った。ぼくを鼓舞する意味の「もうやめて」ではない。ほんとにやめて、自分から身体を放してしまうのだった。 彼女はしかし、ぼくを拒絶しているつもりはないと言った。そばに寄り添い、ぼくのまだ薄かった胸に尖ったあごを乗せ... 【第153回 直木賞 候補作】『永い言い訳』西川 美和 コメ0 芥川賞・直木賞発表を楽しもう 114ヶ月前 ぼく 大学の時につきあった彼女は、絶頂に達する直前になると、もうやめて、と決まって言った。ぼくを鼓舞する意味の「もうやめて」ではない。ほんとにやめて、自分から身体を放してしまうのだった。 彼女はしかし、ぼくを拒絶しているつもりはないと言った。そばに寄り添い、ぼくのまだ薄かった胸に尖ったあごを乗せ... 【第153回 直木賞 候補作】『アンタッチャブル』馳 星周 コメ0 芥川賞・直木賞発表を楽しもう 114ヶ月前 1 ハムの連中の冷ややかな視線を背中に感じながら、宮澤武(みやざわたけし)は警察総合庁舎別館三階の廊下を早足で歩いた。 ハム――公安の連中に対する刑事警察の蔑称だ。公安の公の字を分解すればカタカナのハムになる。廊下をすれ違うハムの連中はだれもが没個性で、その辺を歩いているサラリーマンと見分けが... 【第153回 直木賞 候補作】『アンタッチャブル』馳 星周 コメ0 芥川賞・直木賞発表を楽しもう 114ヶ月前 1 ハムの連中の冷ややかな視線を背中に感じながら、宮澤武(みやざわたけし)は警察総合庁舎別館三階の廊下を早足で歩いた。 ハム――公安の連中に対する刑事警察の蔑称だ。公安の公の字を分解すればカタカナのハムになる。廊下をすれ違うハムの連中はだれもが没個性で、その辺を歩いているサラリーマンと見分けが... 【第153回 直木賞 受賞作】『流』東山 彰良 コメ0 芥川賞・直木賞発表を楽しもう 114ヶ月前 プロローグ その黒曜石の碑(ひ)は角が取れ、ところどころ剥(は)がれ落ち、刻まれた文字もまたかなり風化していたが、それでも肝心な部分は辛うじて読み取ることができた。一九四三年九月二十九日、匪賊葉尊麟は此の地にて無辜の民五十六名を惨殺せり。内訳は男三十一人、女二十五人。もっとも被害甚大だったのは沙... 【第153回 直木賞 受賞作】『流』東山 彰良 コメ0 芥川賞・直木賞発表を楽しもう 114ヶ月前 プロローグ その黒曜石の碑(ひ)は角が取れ、ところどころ剥(は)がれ落ち、刻まれた文字もまたかなり風化していたが、それでも肝心な部分は辛うじて読み取ることができた。一九四三年九月二十九日、匪賊葉尊麟は此の地にて無辜の民五十六名を惨殺せり。内訳は男三十一人、女二十五人。もっとも被害甚大だったのは沙... 【第153回 直木賞 候補作】『ナイルパーチの女子会』柚木 麻子 コメ0 芥川賞・直木賞発表を楽しもう 114ヶ月前 1 泳ぎたいな、と思った。 シャツ、スカート、下着を足元に脱ぎ捨て、素肌に水の柔らかさと光の屈折を感じて、音のない空間をどこまでも心の赴(おもむ)くままに進んでいきたい。水温が肌になじむにつれ、自分と世界の境界線が曖昧(あいまい)になり、体重も年齢も性別もその意味を失う。言葉を発しよう... 【第153回 直木賞 候補作】『ナイルパーチの女子会』柚木 麻子 コメ0 芥川賞・直木賞発表を楽しもう 114ヶ月前 1 泳ぎたいな、と思った。 シャツ、スカート、下着を足元に脱ぎ捨て、素肌に水の柔らかさと光の屈折を感じて、音のない空間をどこまでも心の赴(おもむ)くままに進んでいきたい。水温が肌になじむにつれ、自分と世界の境界線が曖昧(あいまい)になり、体重も年齢も性別もその意味を失う。言葉を発しよう...