あの日に起こったことを忘れない。

あの日に失った大切な人を。家族を。友人を。

思い出もカセットも車も家も庭の木も犬も猫も

馬も牛も木も枝も鳥居も船も土手の景色も

一瞬で失ってしまったあの日を忘れない。

あの日からちっとも何も動いちゃいない。

あの日が色あせたことなんて一度だってないし

あの日にフリーズした記憶は全くあの日のままそのままで

あの日の時計は壊れたままで1秒も時を前へは刻まなくて

あの日あの日あの日あの日あの日あの日がそのまま。

人は生きなければいけないらしいので

前へ進むしか生きていくすべがないらしいので

奮い立たせるふりをして歩いて前を向いて進んで足を前へやって

やっとの思いで少しだけ進もうとは試みたりはするのだけれど。

それは一生懸命時には人に支えられ時には肩を借りて

時には情けに心を癒され時には人の心を頬張ったりもたれたり

寄りかかったり

でもしかしだけれどもやはり

失ったあの日からちっとも動いちゃいない心がここにあって

そんなに簡単に人は一旦失ったものを受け入れるなんてできなくて。

なぜなぜなぜとあの日への痛恨は今も尚大きくなる。

抱えきれなくて倒れそうになって眠れなくなる夜が続く。

あの日普通に過ぎていたはずの一瞬の静かな時間が

全てを変えてしまった。どうしてそんなことを。

なぜなぜなぜと悔しくてたまらなくての思いが溢れる。

つかなくていい嘘も誤魔化さなくて済んだことも

使わなくてよかったお金も蓄えも大切な宝物も

流さなくてよかった涙も

小さなキャンドルの向こう側にある未来へ

ほのかな火の周りに滲む希望の明日へ

人は強くて心豊かな生き物だから

人に優しく人を思い人を助け人は生きるものだから

もう誰も悲しまなくて

心を痛めてうずくまって泣き叫ぶ夜など

来なくていいような

心に火が灯る日が

来ますように

僕らは忘れない

あの日に起こったことを忘れない。

静かに胸に手を当てる

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