二〇二一年七月、名古屋場所。優勝回数四十四回を数える横綱・白鵬は、打ち出し後の薄暗い廊下で大関・照ノ富士と鉢合わせた。白星を並べ、優勝を争う両者は言葉を交わすこともなくすれ違うはずだった。
 しかし薄笑いを浮かべた大関が、横綱の耳元で何事か囁いた刹那、横綱の顔にはみるみる真っ赤な憤怒の形相が浮かんだのだった。 
週刊文春デジタル