今年もいよいよ暮れて、新しい年が始まっていくね。
 この時期になると、奥さんのスミちゃんとのある思い出が、ときどきふと心に甦ってくることがある。
 それはぼくが浅草の劇場で売れない芸人をしていたときのこと。
 浅草のアパートの三畳間に暮らしていたぼくに、スミちゃんはずいぶんと目をかけてくれてね。初めて部屋に来たときも、
「何にもないのね」
 と、テレビなんかを置いていってくれたものだった。
 それで、ある年の大晦日にも突然、彼女が野菜などの食材を両手に持ってやってきたの。 
週刊文春デジタル