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ヒーローズプレイスメント公式ノベル「あなたの、こころへ」  4/4
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ヒーローズプレイスメント公式ノベル「あなたの、こころへ」  4/4

2014-09-29 14:15

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    4、また逢う約束

      農家についたころには、真夜中になっていた。

     入り口には明かりがつけられ、心配そうにその前を行ったり来たりしている人影があった。

     

    「おじさーん!」

    「おお、うきちゃん!」

     

     燃ばバイクを止めると、うきはひらりと飛び降りた。

    「無事だったかー。よかったばい」

     男性がうきの両手を握る。泣き出さんばかりだ。

    「大丈夫。ちゃんと話をつけてきたから。もうここには手出しせんようになった」

    「よかったー! だけんど、どんな魔法を使ったんだい?」

     

     燃が横から答えた。

     

    「何事も気遣いが大事、ってとこかしら」

     

     うきと燃は顔を見合わせた。それから、二人同時にプッと吹き出し、笑い出した。

     

    ★ ☆ ★

     

    「……あはは、今日はいろいろあったけど、楽しかったわ」

    「ふふ、わたしもです。燃さんとも知り合えたし。また、来てくれますか?」

    「もちろん……あ、そうだ」

     

     燃は胸元から小さな紙袋を取り出した。店に忘れられた、燃が研究所から盗み出したと言っていたものだ。

     

    「これ、あげるわ。もとはその辺にあるものだけどね」

     うきが包みをひらくと、小さな細長いものがいくつも入っていた。

     

    「何かの、種……?」

     

    「そう。コスモスの種。宇城市の花よ。あなたのお店の周りが、花でいっぱいになったら素敵だと思わない?」

     

     土蔵の白壁に映える、色とりどりのコスモス。

     風が吹くたびにゆらゆらとゆれて、雨上がりにはきらきらと雫が光る。

     まだ見たことのない光景だが、ありありと想像することができた。

     

    「ええ、とても……とても素敵」

     

    「何もかも人工物じゃ面白くないじゃない? 盗んだのはささやかな私の反抗。でも、植えるところがないのよねぇ。だから、うきちゃんのところで咲かせて」

    「はいっ! ありがとうございます」

     燃はうきにウインクして、詠うように言った。鹿児島おはら節の一節だ。

     

    「花は霧島、煙草は国分。だけど、コスモスに白玉だって風流だよねぇ」

     

     うきはこくんとうなずいた。

    「次にお店に来て下さるときは、花いっぱいにしておきます」

    「それは楽しみねぇ。じゃあ、次来る時までの約束」

    「ええ。約束」

     

     ゆびきりげんまん。小さな、それでいて忘れちゃいけない決まり事。

     

     絡めた小指を離し、二人は笑いあった。

     

    「それじゃ、またね」

    「ええ。気を付けて」

     

     燃はバイクにまたがった。エンジンが吹き上がる。

     うきが見送る中、燃は颯爽と走り去った。後には一陣の風が残されただけだった。

     

     

     

    5、ほんの少し違ういつもの日

     

     翌日。

    「おはようございます、女将さん」

    「おはよう、うき。昨日はずいぶん大変だったみたいだけど、大丈夫?」

     暖簾を出しながら、うきは答えた。

    「はい。もう全然平気です。お店開けますね。わたし、お掃除してきます」

     

     ほうきを持って、うきは外に出た。今日も快晴。

     しゃっ、しゃっ……。規則正しくほうきを動かす。

     

    「おはよう、うきちゃん。今日も精が出るね」

    「おはようございます、今日もいい天気ですね」

     地面を掃く手を止めて、うきは丁寧にお辞儀をした。

    「今日は寄らせてもらうわ。昨日の用事で疲れたから、のんびりさせて。『うぐいすや』の白玉ぜんざいは日本一、だけんねぇ」

    「わあ、うれしい。お客さんがそう言ってくれると、頑張ってこうって思いますばい」

     暖簾を上げて、客を店内に案内する。

    「女将さん、白玉一丁。お疲れみたいだから、ちょっと甘めに」

    「あいよー」

     

     いつもの通り、鉄瓶に炭火で沸かした茶を出し、うきは外に出た。

     懐から、小さな紙包みを取り出す。中身を手のひらに開けて、土蔵の壁際にぱらぱらと巻いた。

     じょうろに水を汲み、優しく撒く。

     

     コスモスの花が咲くころには、また燃が来てくれる。

     いっぱいになった花を見ながら、また二人で椅子に座って、ぜんざいを食べよう。

     

     うきは空を見上げた。遠く雲仙の山を霞めて、入道雲が見えた。

     

     夏は、すぐそこまで来ていた。

     

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