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絶版(間近?)本「進化する地政学」を更に解説する。|THE STANDARD JOURNAL 2
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絶版(間近?)本「進化する地政学」を更に解説する。|THE STANDARD JOURNAL 2

2016-06-11 18:26



    おくやま
     です。

    このところイギリス出張など、身辺のことで忙しく
    久しぶりの更新となりますが、みなさんはいかがお過ごしでしょうか。

    折しも尖閣接続水域への
    中国海軍の軍艦が侵入したこともあって
    日本では大ニュースになっておりますが、
    西側のメディアでは注目度は低く、
    当然ですが国ごとのメディアの注目点の違い
    というものをあらためて感じる今日この頃です。

    さて、今回触れたいのは、
    先日の放送でもわたしが紹介した
    『進化する地政学』の内容についての
    説明の補足です。


    ▼THE STANDARD JOURNAL - Youtube
    絶版本「進化する地政学」を、訳者が徹底解説


    この番組の中ではあまり触れることができなかったのですが、
    わたしの専門である古典地政学の知識は、
    この本を翻訳した時に得られた知識が
    かなり大きな土台となっております。

    とりわけその中で面白かったのは、番組でも強調したように、
    エヴェレット・ドールマンという人の書いた
    「宇宙時代の地政戦略」という論文。

    実際のところ、わたしは「この論文を訳したいがために
    この『進化する地政学』の全部を訳出しました」
    と言い切ってしまっても過言ではないほど、この内容は面白いのです。

    どう面白いのかというと、単なる宇宙物理学という
    ロマンのある題材を扱っているだけでなく、

    「既存の古典地政学を応用したら
    どのように見えるのか」

    という、
    極めて実験的な分析を行っているからです。

    「宇宙地政学?そんなのありえるんですか?」

    と感じる方もいらっしゃると思いますし、
    実際に「そんなのはナンセンスだ!」と述べてえいた
    (心の狭い)日本の学者の方もいらっしゃいます(苦笑

    ところがわたしがこの論文を優れていて
    興味深いと感じているポイントは、
    大きくいえば以下の3点に集約されてくると思います。

    まず第1に、この論文が優れているのは、
    古典地政学の視点の大きさというものが味わえる点です。

    その証拠に、この論文のテーマは
    「宇宙」という巨大なスケールの戦略論を扱ったものでありながら、
    そのヒントはすでに20世紀初頭に出てきた
    古典地政学の議論がそのまま使えるという
    前提で話をしているからです。

    「その前提からしてそもそも無理があるんじゃないの?」

    という意見はごもっともだと思うのですが、これを逆にいえば、
    宇宙空間に活用できる戦略論が地政学の議論の中にしかなかった、
    という意味にもなります。

    どういうことかというと、
    これだけスケールの大きな戦略論には、
    地球規模で戦略論を語る
    古典地政学のアイディアくらいしか使えなかった、
    ということなのです。

    そもそも古典地政学の理論は、
    20世紀初頭の当時の「列強」と呼ばれた国々が
    世界中で植民地争いをしていた時代に出てきたもので、
    この時代背景の中で様々な論者たちが

    「いまや閉鎖的になった地球の土地争いでは、
    スケールの大きな大戦略が必要だ!」

    と考えたことがきっかけとなっております。

    そしてこの論文を書いたドールマンは、
    宇宙規模の大戦略を考えるには、
    地球規模のマッキンダーやマハンの大戦略のアイディアが使える!
    と思ったわけです。

    つまり、そもそもマハンやマッキンダーの考え方が、
    大きく戦略を考える際のヒントになったということです。

    それほど古典地政学は「大きく考えていた」ということなのです。

    この論文が優れている第2の点は、
    古典地政学が実際に「使われている」ということ。

    みなさんもご存知のように、「地政学」という言葉は
    ようやく、最近では日本でも頻繁に使われるようになっております。

    ところがそのアイディアを、このドールマン論文ほど本気で応用して、
    しかも実際の事象に当てはめてみた例は皆無です。

    その一例は、たとえば領域を大きく4つにわけるというもの。

    マッキンダーの場合は、世界を大きく3つから4つの
    地理的領域にわけて戦略を考えろ、
    とアドバイスしたわけですが、
    ドールマンはなんとこれを太陽系と月、
    そして地球との間の空間にわけて考えるべきだとしております。

    もちろん扱っている対象は
    地球と宇宙なので当然違うわけですが、
    「地理を戦略的に考える」という点では
    地球規模のものもかなり参考になる、
    という議論を行っております。

    そしてこの論文が優れている第3の点は、
    まったく新しい「宇宙」という領域に
    伝統的な古典地政学のアイディアを当てはめることにより、
    かえってそれが古典地政学の
    アイディアのエッセンスを浮かび上がらせている、という点です。

    何度もいいますが、ドールマンの論文が扱っているのは、
    あくまでも宇宙空間における地理の戦略的なアプローチ。

    ところがそれにマハンやマッキンダーのアイディアを
    当てはめていくことにより、
    逆に彼らのアイディアの中にある
    「使える概念」というものが
    浮かび上がってくるのです。

    その一例が人工衛星を飛ばす話なのですが、
    それらの打ち上げ場所には地理的な制約があり、
    しかもそれらが通る場所は決まっているので
    「チョークポイント」となりやすい、
    といった話が出てきます。

    これから逆に明確になるのは、
    古典地政学における「チョークポイント」というものの重要性であったり、
    それに付随する「通り道」の重要性などです。

    つまり、われわれは宇宙空間の人工衛星の話を聞いているのに、
    ドールマンの説明のおかげで、
    反対に古典地政学のアイディアのエッセンス
    というものが見えてくる、ということなのです。

    そうなると

    「古典地政学は領土争いを重視したものだ」

    という一般的な解釈も正確ではなく、むしろ

    「誰がどのルートをコントロールするのか」

    という話のほうが大事であることがわかります。

    これがわかると、例えば
    現在の南シナ海や東シナ海の尖閣周辺では、
    実は「通り道のコントロール」のほうが重要である、
    ということも見えてくるわけです。

    そしてなぜアメリカが「航行の自由」
    というものにこだわるのかも明確になります。

    残念ながら絶版になってしまった『進化する地政学』ですが、
    このドールマン論文一本だけでも、
    古典地政学のエッセンスを学ぶ上では不可欠だと感じております。

    興味のある方は在庫だけですのでお早めにぜひ。

    ▼絶版本販売コーナー

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    (おくやま)

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