結論未満
第5回「他人の傷」
三歳の頃である。
近所の公園へ遊びにいっていた僕が、顔面を血だらけにして家へ帰ってきたらしい。もちろん、その頃の記憶はない。のちに母から聞いた話である。
なぜ、そんなことになったのかは分からない。母も、血だらけで帰ってきた三歳児を前にして、ずいぶん心配したことだろう。顔面を血だらけにした三歳児など、そうそう家へ帰ってくるものではない。血だらけでは済まず、死んでいたらどうするつもりだったのか。当時の僕に尋ねてみたいが、本人はなにも答えてくれない。なにせ、いまの僕がその本人であり、なにも覚えていないのである。
三歳児を一人で公園へ遊びにいかせるというのも、ずいぶん時代を感じる話だ。だが、今回の焦点はそこではない。
母が昔を懐かしみながらその話をするたび、僕はまるで他人の幼少期を聞かされているように感じていた。かわいそうな子どもだとは思う。母はさぞ驚いただろうとも
執筆集
コラム『結論未満』第5回「他人の傷」
2026/09/24(木) 12:00