■編集長の荻上チキです。今号も、お読みいただき、ありがとうございます!最初に、嬉しい告知をいくつか。今年はいくつかのメディアをスタートさせると何度か告知しましたが、ようやくお知らせすることができるようになりました。
■7月1日、青山ブックセンターにて、<「復興アリーナ」ローンチ・シンポジウム>を開催いたします。「復興アリーナ」とは、ウェブロンザ協賛で、シノドスがお届けする、復興と防災についての知恵と情報を発信するためのウェブサイト。 6 月末よりサイト公開すべく、現在、鋭意準備中。支援者たちへのインタビューや、原発関連の地元ペーパーの電子化など、一年が経過した今だからこそ、メディアができる事を実行していきます。イベントページは下記になります。どうぞご参加下さい。
http://www.aoyamabc.co.jp/event/synodos-webronza/
■6月28日には、リブロ池袋店にて、シノドスに何度もご起稿していただいている、エコノミストの片岡剛士氏、経済学者の田中秀臣氏による対談イベントが行われます。シノドス関係者も多数訪れる予定。こちらもぜひ、ふるってご参加下さいませ。
http://www.libro.jp/news/archive/002623.php
■また、現在、リブロ池袋店には、シノドスの執筆陣がオススメ書籍を選ぶ「シノドスフェア」を開催中。お立ち寄りいただければ幸いです。
https://twitter.com/libro_jp/status/212033288255184896
■それから今月18日には、大野更紗さんの『困ってるひと』発売一周年記念を兼ね、障がいに関する情報を共有するためのメルマガを、大野更紗&荻上チキ共同編集の体制でスタートする予定です。スタート時には、改めてツイッターやシノドスジャーナルなどで告知いたしますので、どうぞご注目下さい。
■そして7月には、シノドスの新しい本、『日本の難題をかたづけよう』が光文社新書より発売予定。荻上チキ編、安田洋祐氏、菅原琢氏、井出草平氏、大野更紗氏、古屋将太氏、梅本優香里氏といった若手論客が、現状分析と問題解決のための思考法を提示する一冊。お楽しみに!
http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refBook=978-4-334-03693-5&Sza_id=MM
■他にも、新しい試みをいくつも用意しておりますので、ご期待ください。さて、それでは今号の内容紹介をば。
■まずは、デンマークのサムソ島にて「サムソ・エネルギー・アカデミー代表」を務めている、ソーレン・ハーマセン氏の講演記録です。サムソ島は、いかにして「 100% 再生可能エネルギーの地域」となったのか、日本はそこから何を学ぶことができるのか。原発事故以降、避けて通ることのできないエネルギー問題を、中長期的に思考する必読の記事です。監修は、シノドスお馴染みの古屋将太氏。
■続いて、『「フクシマ」論』でおなじみの社会学者・開沼博氏による、新宿歌舞伎町の「キャッチ」論。エスノグラフィーからの社会理論化を得意とする開沼氏は、現在は福島の取材で注目されていますが、元はアングラ世界を含む様々な取材活動を行い、近代日本の様相を複眼的に描こうと心見る書き手。彼の幅広い試みの行く先は?要・注目です!
■大野更紗氏による「孤立死」論では、安易な「役所叩き」が具体的な解決に繋がるわけではないと警告されています。「孤立死」の際の役所バッシングと、「不正受給叩きを名目にした生活保護叩き」が同時期に起こることを見るに、社会保障の削減路線を自明とする流れのなかで、当事者には「苦しいことを見せるな」、行政には「資金は削るが業務は増やせ」というオーダーが暗黙的に寄せられてる感も。いまあらためて、社会保障の姿をみつめなおします。
■そして、社会学者・橋本努氏による連載第二回。ポスト近代と叫ばれた、欲望と消費をあえて肯定してみせる時代から、ロスト近代ともいうべき「失速の時代」に突入した時、新たなモードが発生していることをドライブ感あふれる筆致で記述していきます。この変化は、必然的な転換か、過渡的な順応なのか。そういえば橋本氏、なぜか、松田聖子さんと結婚した相手というウワサがツイッターで駆け巡っていましたね(笑)。
■ライターの粥川準二氏は、シノドス初登場!原発事故以降、改めて「科学技術」について考えるための必読書をナビゲートしながら、現在、私たちはどのような問いかけに応えなくてはならないのかを整理してくれるコラムです。気になった本があれば、ちょっと早いですが夏休みのお供として予約しておくのはいかがですか?
■今号の synodos journal reprinted は、政治学者・吉田徹氏による「オランド政権の左派性とは」。フランスで誕生した新政権の政治性、および同政権誕生の背景について、わかりやすく解説した人気の記事です。
■次号は vol.103 、 7 月 1 日配信予定です。お楽しみに!
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★今号のトピックス
1.「100%自然エネルギーを実現した「サムソ島」」
ソーレン・ハーマンセン
(訳/宮澤晶、監修/環境エネルギー政策研究所 古屋将太)
2.「ポスト成長期の盛り場―歌舞伎町キャッチのエスノグラフィー」
………………………開沼博
3.あなたの隣の〈孤立死〉……弱者120%社会『悪いのはお役所』か?
………………………大野更紗
4.「ロスト近代とは何か(2)」
………………………橋本努
5. 3.11から科学技術を考える
………………………粥川準二
6. synodos journal reprinted
オランド政権の左派性とは
………………………吉田徹
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chapter 1
ソーレン・ハーマンセン
「100%自然エネルギーを実現した「サムソ島」」
(訳/宮澤晶、監修/環境エネルギー政策研究所 古屋将太)
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世界各地で取り組みが進む自然エネルギー。デンマーク・サムソ島は10年かけて100%自然エネルギーを実現した。人口4,000人の小さな島が成し遂げた大きな実績は、プロジェクトの実現プロセスで中心的な役割を担ったサムソ・エネルギー・アカデミー代表のソーレン・ハーマンセン氏の活躍による部分が大きい。2012年3月8日、日本科学未来館でおこなわれた「コミュニティ・パワー会議」でのハーマンセン氏の基調講演から自然エネルギーの「ビジョンと実現」の最前線にせまる。
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◇若者は世界を変える力を持っている
私が暮らしているデンマークの島は「エネルギー・アイランド」と呼ばれています。今日はそのエネルギー・アイランドについてお話したいと思います。先日、日本でも『風の島へようこそ』(福音館書店)という絵本が発売されました。この本は、私達の島、デンマークのサムソ島が、100%自然エネルギーを実現するまでのプロセスを描いた絵本です。このようなプロジェクトが絵本になったということは、私達の「物語」に魅力があることを証明したといえます。いい物語なので絵本にして売り出そうという人が現れました。他の人も読みたがるだろうと思ったからです。実用的なこと、すなわち普通の小さな島の地域が、世界中に認められるエネルギー・プロジェクトになったという話が、絵本になり、しかも日本語にも翻訳されたということは、とても誇りに思いますし、興味深いことだと思います。
私の名前はソーレン・ハーマンセンです。典型的なデンマーク人の名前です。とても古い農民の名前です。私はサムソ島の農業地域の出身で、私の父は農民ですし、祖父も農民でした。私には農家の伝統があります。私自身、今は農民ではありません。多くの農村地域がそうであるように、若い人々が農業をしなくなり、都市に出て行ってしまい、地域の文化が変わってしまいます。若者は地域から去るだけでなく、地域から学ぶこともなくなってしまいました。
私はもともと、エネルギー開発と地域の持続可能性に強い興味を持っていました。私はこの地域の出身なので、島の開発に興味を持っていました。なぜなら島は小さな世界ですし、人々の繋がりが強い地域で、私達は地域全体の代表でした。私がこれからする話は、地域がどのようにして未来への責任を果たすかという話です。
私は、祝島やその他の日本の地域を訪れましたが、多くの地域で共通の問題を抱えており、それはサムソ島とも共通する問題でした。若者は成長すると島から出て行って大学へ行き、休暇以外では戻ってきません。それは地域の人々にとって悲しいことです。地域の中には若者が必要です。新しいことをはじめたり、反抗したり、革命を起こして世界を変える人が必要なのです。これらが若者の強みです。若者は世界をよりよく変える力を持っています。もし若者にたよれないなら、政府に助けを求める必要があります。
サムソ島は1998年に行われた政府のコンペティションに参加し、デンマークのエネルギー・アイランドとなりました。この物語は次のような意欲的な構想を示すことから始まりました。10年間で普通の化石燃料を消費する地域を、100%再生可能エネルギーの地域に転換する――。たった10年間で、です。
私達に与えられた条件は、すでに実証された技術を用いることでした。風力、太陽エネルギー、バイオマスなどです。最先端科学や水素や波力は使いませんでした。石油、石炭、ガス以外の普通の伝統的エネルギー源だけです。私達は政府が打ち出した政策(固定価格買取制)を利用しました。政府は私達が地域で利用できる枠組みを提供し、私達はそれを用いて地域で最善のものを利用しました。その枠組みがなければ費用がかかり過ぎ、また煩雑すぎたでしょう。私達には計画を実現するため、政府の政策が必要でした。
◇ローカルに考え、ローカルに行動しよう
サムソ島はヨーロッパの中心です。さらには、宇宙の中心であると私は考えています。こう申し上げるポイントは、私達は自分達のいる場所や、日常の生活、行動に責任を持っているということです。
よくある政治的な議論で、「我々は中国の行動を変えさせなければならない、アメリカの行動を変えさせなければならない、それができなければ、気候変動やその影響に対する全世界的な政策が必要である」といったものがあります。それらは正しいし、グローバルな視点で交渉しなければなりませんが、もっと興味深いことは、私達一人一人が日常生活で何ができるかということです。そこから本当の変革が始まるのです。
地域ベースで互いに助け合って正しいことができれば、確実に目標に近づけることでしょう。私達にはこのような地域での取り組みの可能性を追求することが必要ですし、このことを話し合うことが必要だと強く思います。政治家は地域にはあまりは興味を持っていません。地域にはあまり有権者が多くありませんし事業も少ないです。私達ではなく大きな企業と親しくしがちです。
そこで、私達は「グローバルに考え、ローカルに行動しよう(Think Globally, Act Locally)」という言葉を言い替えて「ローカルに考え、ローカルに行動しよう(Think Locally, Act Locally)」と提唱しました。
グローバルに考え始めるとモノゴトが複雑になり過ぎます。グローバルなコンテクストの中では果たすべき役割を理解することが、とても難しくなります。とても多くの人々がいるため、自分が責任を果たす対象が多くなり過ぎるためです。ローカルに考えることは、自分自身に注目し、自分がどこにいて何ができるかに注目できるようになります。
このように考え方を変えることにより、開発の次のステップに何が必要かが見えやすくなります。私に何ができ、あなたには何ができるかを、話し合いやすくなり、互いに助け合って地域プロジェクトを進められます。