■編集長の荻上チキです。前号でメルマガが100号を超え、多くの方からお祝いのコメントをいただきました。ありがとうございます。今年は、新しいメディアを複数立ち上げる予定。他のメディアでは取り上げられないような、か細い理性の声を、丹念に編み続けていきたいと思います。

■というわけで今号は、100号突破を記念して、まずはシノドス主催陣の芹沢一也、飯田泰之、荻上チキの座談会をお届けします。そもそもシノドスはなぜ作られたのか、何を目指しているのか、今の言論状況をどう見ているのか。酒を嗜みながらの話のため、後半になるにつれどんどんザックリしていきますが、メンバーの「本音」が伝わる内容になっているかと思います。ご一読ください。

■安藤至大氏と僕との対談では、若者の雇用について語り合っています。長期不況の影響などがもたらした、現在の職不足・マッチングミスと、将来的な人手不足に対応するためには、二段階のギアを適切にチェンジする必要があるわけですが、メディア上では労働問題に対する俗説が後を絶たない状況にあります。データが語る、真の問題点とはどこにあるのか、徹底的に吟味しました。

■続いて、大田俊寛氏へのインタビューです。シノドスジャーナルに一部転載した記事も大きな話題となっていましたが、若手宗教学者として、オウム以降の宗教学の課題や、現代の死生観をあざやかに整理してくれる氏の考察は、新しい知性のうねりを体感させる刺激に満ちたものになっています。

■大澤聡氏の連載は、いよいよ今回で最終回です。かつての論壇が、いかなる仕方でその場を構築してきたのか、そのためにどのような方法論が編み出されてきたのかを振り返る議論は、いま、新しい「目次」を作りたい&読みたいというニーズについて考える上で、とても示唆に富む内容です。

■片岡剛士氏の経済ニュース解説、今号もGDP速報値やユーロ問題など盛りだくさん。『円のゆくえを問いなおす』(ちくま新書)の発売を記念して、6/28にリブロ池袋で田中秀臣さんとトークイベントも決定!

■今号のsynodos journal reprinted は、ネット選挙運動解禁を呼びかける"One Voice
Campaign"ウェブサイト上にて、荻上が答えたインタビュー記事です。「次の選挙」までに、ネット選挙運動解禁はなるか?

■次号はvol.102、6月15日配信予定です。お楽しみに!

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★今号のトピックス

1. 座談会/芹沢一也×飯田泰之×荻上チキ
「シノドス」の今と、これから

2. 対談/安藤至大×荻上チキ
若者の雇用はどうなる?――マスコミ報道のウソと本当

3. インタビュー/大田俊寛(聞き手/芹沢一也)
オウム真理教とアカデミズム(後編)

4. 雑誌編集論のアルケオロジー(6)
………………………大澤聡

5.経済ニュースの基礎知識TOP5
――2012年5月のニュース読解
………………………片岡剛士

6. synodos journal reprinted
ネット選挙運動解禁は、「肝心な時期に、政治家に問いただす権利」の拡充
………………………荻上チキ

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chapter 1
座談会/芹沢一也×飯田泰之×荻上チキ
「シノドス」の今と、これから

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今、この社会には現実を知る力が必要だ
応用できる「知の中間領域」はいかにして可能か
芹沢一也、飯田泰之、編集長・荻上チキが語る未来のシノドス
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写真1:芹沢一也
http://on.fb.me/LoWcBc

◇シノドスって何で必要なんだろう?

荻上:αシノドスも百号をこえました。それを記念してというわけでもありませんが、三人で話すことが活字になることは意外となかったので、そもそも、どうしてシノドスをはじめようと思ったのか、というところから話してみたいかな、と思います。

芹沢:『狂気と犯罪』(講談社+α新書)という新書を出して、一定の評価を受けたのですが、しかしながらそれでは食べていけないとわかりました。「社会的な評価を受けても、食べていけない業界があるんだ」と、素朴に驚いたのがシノドスをはじめようと思った最初のきっかけです。

他方で、その頃から時事的な問題についてメディアで発言するようになったのですが、例えば新聞に意見を出しても、その隣では真逆の内容の意見が掲載されていたりする。「どの論者を使うか」「どの意見を載せるか」はメディア側の専権事項で、当たり前だけど書き手はまったく受け身なんですよね。しかも、ぼくには、メディアの評価基準はかなり怪しく見えました。

このふたつのことって、考えてみたら同じ事柄の裏表で、要するに書き手に「権力」がないということなんですよ。そこで、書き手、発信する人間が力をもてるようなルールをつくろうとシノドスをはじめました。これがうまくいけば必然的に、メディアでも論者が入れ替わりますから、メディアの怪しい評価基準も正されるだろうと。

シノドスをはじめるにあたって、ひとつかなり注意して避けようとしたことがあります。いわゆる論壇というのは、象徴的な「父殺し」が行なわれてきた場所なんですね。そうすることで言論のポジションを確保する。まず批判から入る、そのようなやり方は踏襲したくありませんでした。

荻上:誰か年長論客を論破して、その席を奪うというような感じね。自分がもっと強い父になれるという感じの発想。それはないですよね。

芹沢:そう。なのでシノドスは、誰を非難することもなく、勝手に新しいルール、新しいシステムをつくるようなスタイルをとっています。そこに共感してくれた人たちを誘うという感じですね。

最初の課題はブランディングでした。まずは「シノドスって何? 」という状態から、「シノドスでなら発言してもいい」という風にならなくてはいけない。意識したのはアパレルの旗艦店です。売れなくても、ブランドのメッセージを強く伝えられるような、そんな場づくりです。幸せなことに、たくさんの論客たちがシノドスのセミナーで話してくれたおかげで、一年もかからずにシノドスのブランドをうまく立ち上げることができました。

荻上:僕が参加するきっかけは、『ウェブ炎上』(ちくま新書)を出した直後に、ちくま編集部経由で、芹沢さんから連絡が来たんです。具体的には忘れましたが、ウェブ展開したいみたいな話でしたよね? 

芹沢:そう。シノドスの次の課題は、多くの人たちに向けて発言していくことと、それからマネタイズでした。そこでウェブ展開していこうと考え、協力してくれる方がいないか、探しはじめました。その中で手にした『ウェブ炎上』という本がドンピシャだったんです。ウェブについての議論というのは、「ウェブは最高」か「最低」かしかなくて、荻上さんのようにあくまで社会の中のひとつのツールとして、ニュートラルに考察したものって見当たらなかったんです。