皆様こんにちは、ニコ生D&D解説担当の塚田です。フォーゴトン・レルム世界の設定を解説するシリーズの第6回となる今回は、今シーズンのPC(プレイヤー・キャラクター)たちが信仰している神々について説明します。
本コラムの第9回(フォーゴトン・レルム解説シリーズの第1回)でも説明したとおり、フォーゴトン・レルム世界で生きるすべての知的生物は、自分の“守護神格”を選んでいます(死んだ後に自分の魂がどうなってもいいなら選ばなくてもかまいませんが)。これはゲーム上の数値などにはほとんど影響しませんが、キャラクターの個性を演出したり、ロールプレイのとっかかりにしたりする上ではとても便利なので、フォーゴトン・レルム世界に限らずD&Dを遊ぶ際にはなるべく信仰対象を決めておくことをお勧めします。
なお、以下の記述はD&D第4版の『フォーゴトン・レルム・キャンペーン・ガイド』並びに『フォーゴトン・レルム・プレイヤーズ・ガイド』に基づいています。より詳しく知りたい方はそれらのルールブックをご覧ください。
エルフの神コアロン(善)
エリオンとヘプタが信仰しているコアロンは、D&Dの複数の世界設定にエルフ族の祖神として登場する神格です。それぞれの世界に存在するコアロンが同一人物であるかどうかについては意見が分かれるところであり、コアロンに関する記述は『プレイヤーズ・ハンドブック』などの基本ルールブックとフォーゴトン・レルム系サプリメントで異なっている点もありますが、ここでは後者の記述を中心に説明します。
コアロンはエルフ族の守り神であり、エルフの神々の集団(パンテオン)である“セルダライン”(エルフ語で“森の仲間たち”を意味する)のリーダーです。特に他の神を選ぶ理由がない限り、エルフやエラドリンのほとんどはコアロンを守護神格に選ぶことになるでしょう。妖精郷の他の住人たち(悪属性を除く)やハーフエルフにも、コアロンを崇めている者が少なくないと思われます。
コアロンは美と魔法の神であり、またエルフ族を守るための戦いにおいては剣と弓を取って軍を率いる立場です。コアロンを篤く信仰するキャラクターを作るなら、芸術、魔法、剣術、弓術のいずれかを専門にすると“それらしく”なります。逆に、これらの分野を探究するキャラクターであれば、種族を問わずコアロンを崇めていてもおかしくありません。
コアロン本人の性格にもエルフその他の妖精に似た“自由な”側面があります。D&D世界の神話においては、コアロンがさまざまな女性に手を出したり、他者をからかったりといった、トリックスターに近い役割を担っていることが珍しくありません。コアロン本人をゲームに登場させる際には、大物の雰囲気を漂わせつつもどことなく茶目っ気やユーモアを添えるのがよいでしょう。
コアロンは信徒に以下のような行動を求めています。
◆汝の種族の伝統と遺産を守れ。
◆美と魔法の偉大なる模範を生み出せ。
◆油断なく悪の大群を見張れ。
死者の神ケレンヴォー(無属性)
セイヴの守護神格である(そしてある意味で“生みの親”でもある)ケレンヴォーは、死者の魂を管理し裁きを与える、いわば“閻魔様”のような神格です。それぞれの魂にふさわしい死後の運命を割り当てるという公正中立が求められる立場であるため、“この世界”の物事に干渉することはほとんどありません。セイヴをレヴナントとして蘇らせたのはよほどの理由があってのことと思われます。
死者の神という性格上、ケレンヴォーは広く認知され崇められてはいますが、守護神格に選ぶ人は限られています――墓地の管理人や葬祭業者、そして死を冒涜するアンデッド(およびアンデッドを作る死霊術士)を狩る者など。ケレンヴォーを選ぶプレイヤー・キャラクターもアンデッド・ハンターであることが多いでしょう。
ケレンヴォーは俗世と縁の薄い神に見えますが、実は元人間であり、神位に昇ってから数百年しか経っていない“若い”神です。したがって彼の心には人間くさい部分が今も残っている可能性があり、また人間時代の知り合いが今も生きていてもおかしくありません。ケレンヴォーをゲームに登場させる際には、堅物であろうとしつつも隠し切れない感傷や思い出を匂わせるのがお勧めです。
ケレンヴォーは信徒に以下のような行動を求めています。
◆死を恐れるな。死は生に続く自然の一部なのだから。
◆遺族に慰めを与えよ。
◆アンデッドを破壊せよ。死霊術の実践を阻め。
自然の神シルヴァナス(無属性)
シルヴァナスは大自然そのものの神です。自然が人間に恵みを与えることもあれば凶暴な牙をむくこともあるのと同じく、シルヴァナスは人間の予測も制御も通じない荒ぶる自然を象徴する存在と言えます。シルヴァナスにとってすべての生命は等価値であり、守るべき存在ですが、裏を返せば人間(およびその他の知的種族)だけを贔屓する理由はないということでもあります。
シルヴァナスを守護神格とするのは主にドルイド、レンジャー、隠者、荒野に住む人々です。彼らは文明と自然の均衡を保つために働くことが多く、時として人間社会の敵に回ることもあります(過激な自然保護活動家に近いかもしれません)。とはいえ、フォーゴトン・レルムは中世に毛が生えた程度の世界であるため、自然が人間を害する場合の方がずっと多く、したがってシルヴァナス信徒も文明社会の味方になる可能性の方が高いでしょう。
シルヴァナスは自然のあらゆる側面をつかさどっていますが、シルヴァナスと聞いて人々がまず思い浮かべるのは樹木であり、“森の父”という別名もあります(オーク樹の精霊ハマドライアドであるエイロヌイがシルヴァナスを選んだのも、これが理由の1つでしょう)。シルヴァナスをゲームに登場させる際には、樹齢数万年の超巨大な樹の精をイメージするのがわかりやすいと思います。めったに人間の味方をしない神であるからこそ、シルヴァナスが直接語りかけてくるだけで、世界そのものが危機に瀕しているという事の重大さを演出できるでしょう。
シルヴァナスは信徒に以下のような行動を求めています。
◆生と死、誕生と腐敗の均衡を守れ。
◆自然の猛々しさそのものを尊重せよ。この世の自然の美そのものを崇めよ。
◆未開の土地への文明の侵入を防げ。
知識の神オグマ(無属性)
オグマはあらゆる知識、アイデア、伝承をつかさどる神です。知識の神というとあまり活動的でないイメージが伴いがちですが、オグマの信徒は新たな知識を探し集めて保存するために世界中を飛び回っています。冒険者たちの依頼主になることもあれば、危険な魔導書を保護しようとする過程でそれを破壊しようとするPCたちの敵役になる可能性もあるなど、演じられる役の多い便利な存在です。
オグマの信徒には、ウィザード、バード、語り部、賢者、図書館の司書など、知識の探究者全般が含まれています。ミシュナがオグマを選んでいるのも、学究肌の魔法使いとしてはごく普通の選択と言えるでしょう。知識の蒐集そのものがオグマ信仰の実践に繋がっているため、見かけ上はあまり信心深く見えない人物が多いと思われます。その一方で、「貴様が燃やした本1冊ごとに、貴様の指を1本ずつへし折ってやる」と叫ぶ書物愛好家など、ちょっと変わった性格の人物もいるかもしれません。
オグマにとってすべての知識は価値あるものであり、保存すべきものですが、得られた知識をどのように使うかはオグマの知るところではありません(これを無責任だと考える人や神もいます――オグマ自身も、あらゆる知識を万民に知らしめよとは言っていないのですが)。また、有害な結果を産む可能性を理由に知識の発展を妨げるのはオグマの最も嫌うところです。オグマをゲームに登場させる際には、知識は頼りになるがはた迷惑な部分もある、少々やっかいな性格の持ち主として演出すると面白いかもしれません。
オグマは信徒に以下のような行動を求めています。
◆新しい考えを奨励せよ。それが何を生み出すものであろうとも。
◆知識が失われる前に、知識を集めて保存せよ。
◆あらゆる者が知識の利益を得られるよう、可能な限り広く知識を伝えよ。
幸運の女神タイモーラ(善)
視聴者アンケートの結果を元に主人公キャラクターが選んだタイモーラは、D&D4版のフォーゴトン・レルム設定本には少しの記述しかないものの、幸運の女神という設定から冒険者に人気の高い神格です。リスクを冒して成功をつかもうと努力する者には“幸運の女王”が微笑みかけるといわれており、また姉妹でもある不幸の女神ベシャバとは激しい敵対関係にあります。
タイモーラの信徒の多くは自分の腕と運に頼る者たち――――冒険者、ギャンブラー、盗賊、旅のハーフリングなどです。タイモーラの司祭たちは失敗を恐れず夢に挑戦しようと呼びかけ、夢敗れて傷ついた者に癒しを与えることを使命と心得ています。一山当てた信徒が気前よく喜捨をするため、タイモーラの教会はあちこちに大きなものが建っていますが、教団としての組織構造は緩やかで、それぞれの信徒は好き勝手に活動しているようです。
タイモーラの教義は以下のようなものです。
◆大胆であれ。リスクを恐れぬ勇敢で積極的な行動は熟慮を重ねた計画に勝る――9割の確率で。
◆運命に身を任せ、自分の幸運を信じよ。
◆汝の主人は汝のみ。汝の行動は汝が選択せよ。その結果の責任もすべて汝にある。
◆自分の夢を追う者はタイモーラの恩寵を授かる。目的を持たぬ者はベシャバの無慈悲な気まぐれに身を委ねることになる。
以上、プレイヤー・キャラクターたちに関わり深い神々の説明をお送りしました。「このキャラがこういう判断をするのは、あの神様を信仰しているからかも」のように推測できれば、セッション動画をよりいっそう楽しめるかと思います。それでは、次回以降の配信をお楽しみに!
『水曜夜は冒険者!:マスタリングのうらがわ』
著:塚田与志也
監修:柳田真坂樹