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『ネヴァーウィンターの失われし王冠』第三部第7回リプレイ:彼方なる闇海の策謀
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『ネヴァーウィンターの失われし王冠』第三部第7回リプレイ:彼方なる闇海の策謀

2014-06-18 13:59



     水曜夜は冒険者――場所はお馴染み、東京は代々木、HobbyJapanの配信室より。
     ついに真の王冠に触れ、その炎と氷の洗礼を浴びるジェイド。果たして王冠は彼を真の王と認めるのか、それとも相応しからぬものとして焼き尽くすのか――!!というところでカットアウトとなった前回。
     今回は(前回お休みだったジェイド代表PL柳田も含め)全員揃い、改めてその緊張の一瞬から物語再開です。



     王冠から迸る、青白い炎と氷の奔流がジェイドの身体を圧し包む。
     熱さとも冷たさともつかぬ激しい痛みに引き裂かれながら、ジェイドは声を上げるどころか、身じろぎひとつならず、ただ苦痛そのものとなってその場に立ち尽くしている。その耳に、重々しい声が確かに落ちる。

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    王冠:「不浄なるものよ、炎と氷にて滅ぶがよい!!」

     ジェイドの生命力が根源から燃え尽きてゆく。具体的には即座に重傷状態になり、しかもそれは回復力の消費によるhpの回復が不可能なものであるとDM岡田は宣言する。
     つまりヒーリングワードも何も一切無効。

     騒然とする仲間たちの間で、ジェイドはしかし冠を外そうとはしない。

    タンジェリン:「誰かお願い、あの冠を外して! お兄ちゃんが死んじゃう!!」
    エイロヌイ:「ジェイドを信じなさい。何があっても彼が消滅するようなことはありません」

     悲鳴を上げるタンジェリンにきっぱりとエイロヌイが言う――万が一死ぬようなことがあっても、彼はアンデッドとして新たなる生を享けるのですから、と、これは口の中だけでつぶやきながら。

    ミシュナ:「王冠が……王冠が“不浄”と言っているのはエヴァーナイトとの契約のことだわ!! 王冠と死霊術の力が反応している。それを何とかできれば……」

     ミシュナが叫んで手を伸ばす。が、伸ばした指先はあっさりと王冠の力に弾き飛ばされた。

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     具体的には〈魔法学〉で判定した結果の出目が1だったのでどうもならなかったのだ。

    ミシュナ:「ジェイド、その王冠を外して!! エヴァーナイトとの契約がある限り、王冠はあなたを認めない……!!」

     ほとんど泣くようにミシュナは叫ぶ。が、

    ヘプタ:「ダメっすよ、外しちゃ!!」
    セイヴ:「王冠を捨てるか、エヴァーナイトとの契約を反故にするか……お前が選ぶんだな」

     助けることもならぬとなれば、それぞれが自分の立場で言うべきことを言う。焦れたようにエリオンが一歩進み出る。口を開きかけ、そしてふと腰の剣に触れて言う。

    エリオン:「フェノルの剣よ、お前ならあの王冠の心に触れられるだろう。――説いてやってくれ、ジェイドは決して己のために死者と契約したわけではないのだと」

     応えるように剣が低く唸った。唸りはやがて剣が風を裂くときに奏でる楽の音へと変わってゆき――

    エリオン:「我が剣と王冠が共鳴している……!!」

     エリオンと共に――すなわちジェイドの思いもよらぬ運命とも共にあった魔剣の説得が功を奏したのか、ジェイドの耳に落ちた王冠の声は、先のものほど苛烈なものではなくなっている。

    王冠:「お前に問う。お前はなぜ我を求める。王となってネヴァーウィンターの街をどうしようとお前は考えている?」

     焼けつくような痛みの中で、ジェイドは唇を震わせる。それは……

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    王冠:「……よかろう」

     炎と冷気は王冠に吸い込まれてゆき、満身創痍のジェイドが現れる。そしてその頭上には、数多の宝石に飾られた王冠が燦然ときらめいていた。

    王冠:「お前の決意を信じよう」

     よかった、と呟いてタンジェリンが膝から崩れ落ちる。ヘプタがそっとそれを支えてやりながら言う――あんたの兄貴っすよ。信じるに足る男っすよ。

     その様子を見たネヴァーウィンター九勇士の霊体たちは、互いに喜びあい……そして徐々に薄れ始める。

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    九勇士の長:「真の王が認められたことにより、我らはこれより新たなる肉体を得て復活する。我らの肉体の再生が済むまで、傷を癒しながら待つがよい」

     ……具体的には「大休憩でも取りながら待つがよい」と言ったのだが、

    デイロン:「違う、これで終わりじゃない。危険だ。僕にはわかる、巨大な邪悪が近づいてくるんだ!!」

     この霊廟を守る戦いに傷つき、アデミオスの膝にぐったりとよりかかっていたデイロンが急に身を起こして叫んだ。

    九勇士の長:「安心するがいい。ここは強力な防御の魔法に守られた霊廟、何が起ころうとも安全は保障する――」

     そう言って笑う長をエリオンはちらりと一瞥すると、デイロンの傍に身を寄せた。亡霊たちはそう言うが、デイロンの予言は絶対なのだ。

    エリオン:「危険とは……いったい何が?」
    デイロン:「歌が聞こえる……この世のものじゃないみたいな歌声が」

     耳を澄ましても、もちろん何も聞こえない。が、

    エリオン:「デイロンが言っている。巨大な邪悪が――危険が迫っていると」
    エイロヌイ:「ならば、アデミオスの処断は後回しですわね」

     思いもかけぬ返事であった。
     アデミオス、そしてキムリルの顔にも緊張が走る。デイロンが叫ぶ。

    デイロン:「お願い、アデミオスさんを殺さないで!!」

     エリオンは静かにため息をついた。

    エリオン:「アデミオス、お前はまだ我が弟をアスモデウスの贄として捧げるつもりでいるのか?」

     アデミオスは苦しげに顔を背け、言う。

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    アデミオス:「時が来れば……そうするつもりだった」
    エイロヌイ:「……“だった”……ということは、今は違うとでも? けれど、アスモデウスは契約違反を決して認めぬ神と聞きますよ?」
    アデミオス:「……時が来れば」

     もう一度アデミオスは同じ言葉を繰り返した。それが“いかなる時”を意味するのか……

    アデミオス:「それまでは短い間かもしれぬが、デイロンさまにお仕えしたい」
    エイロヌイ:「もう、フェイワイルドで貴方に対する処断は下されています。けれど、私が手を下さなくても、いずれアスモデウスが貴方を罰するでしょうね。そうね……私の剣によらず貴方は罰される……」

     生真面目な顔でエイロヌイは告げた。アデミオスの顔が歪む。

    セイヴ:「だからさ、この姉ちゃんはあんたを見逃すって言ってるんだよ。行間を読んでやんなよ」

     半死者が苦笑い交じりに言う。アデミオスは深く息をつき、そしてデイロンの前に跪いた。

    アデミオス:「フェイワイルドからもアスモデウスからも……どちらにせよ、そう遠くない将来に裁かれる身。しかし今はあなたにお仕えさせてください」
    エリオン:「デイロン、」

     答えられずにいるデイロンに向かい、エリオンも口を開く。

    エリオン:「私も言わねばならぬことがある。アデミオスに決してお前を害させるようなことはしない。だが、それ以外のことについては……お前は好きに生きるといい」
    デイロン:「兄さん?」
    エリオン:「私はずっと、お前は私なしでは生きてゆけぬといい、お前の世話をやいてきた。だが、私こそお前の世話を焼くことに……お前に頼られることに、自らの存在意義を見出していたのやもしれぬ。
     お前が私なしで生きてゆけぬのではなく、私こそがお前を必要としていたのだ。だがお前はこの城の地下深くで、私なしで戦ってきている……私が間違っていたのだ。お前は自由に生きるがいい」

     そう言いながらエリオンは、そっとデイロンの手を取る。
     その様を見ていたアデミオスは、自分の荷物の中を探り、何やら黒い塊を取り出した。

    アデミオス:「私がこの世にいなくなった後に、デイロン様の目をつとめる者が必要でしょう。これを差し上げます」

     黒い塊はもぞもぞと動き、小さく鳴いた。その背で触手がゆらりと揺れた――ディスプレイサー・ビーストの子どもである。だが、ぱっと見には触手の生えた子猫といったふう。

    アデミオス:「獰猛なけだものとして知られる存在ですが、幼いころから清い心のひとが大事に育てるなら、善き獣として成長するといわれています」
    エリオン:「アデミオスさん……」
    アデミオス:「下水に咲く花もある、ということですよ」

     寂しげにアデミオスは笑った。そういえばネヴァーウィンターの地下水道でジェイドたち一行が初めてアデミオスと出会ったとき、彼は「下水美人という花を探している」と出まかせをいったのだった――偽りから花が咲いたのやもしれなかった。



     兄弟の和解と罪人への猶予で少し場が明るんだ、ちょうどその時。
     不気味な不協和音が――今度は全員の耳に、届いた。不安そうな面持ちで顔を見合わせる一同の中、エイロヌイが表情を引き締め、立ち上がる。

    エイロヌイ:「用心なさい。彼方の領域の魔物――地下の海の王、アボレスが来ます」
    タンジェリン:「私……あの音楽、聞いたことがある」

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     タンジェリンが泣きそうな声で言う。

    タンジェリン:「前に私たちが連れて行かれた地下の湖で……」
    ジェイド:「それは……いったい何が起きたんだ?」
    タンジェリン:「ドラウたちが私たちを地下の湖に連れてった。そこにいたのはマインドフレイヤー、それに不気味な魚。歌が聞こえてた……あの歌が。そしたら私はだんだん私じゃなくなって……「我らには目的がある、その目的を達成したら支配を解いてやる」、そう、あいつらは言っていた……そして気が付いたら私、ネヴァーウィンターの女王になっていた。お兄ちゃんがあいつらを倒してくれたんだよね、だから私、正気に戻って……」
    ジェイド:「あいつら? 俺が倒したのはマインドフレイヤーだけだが……」

     そう言いかけたジェイドの顔色が変わる。まさか――陰謀の黒幕はイリシッドの祖脳ではなくアボレスだったのというのか? タンジェリンは……まだその支配の影響下にある? 思わず妹の肩に手をかけたジェイドを、焦点の合わない目でタンジェリンは見つめ返す。

    タンジェリン:「ありがとう、大丈夫、お兄ちゃん、私、大丈夫……」

     そう歌うように言うタンジェリンの両手にはサンブレードが握りしめられ、その切っ先はジェイドの心臓を過たず狙っている。勢いをつけるように、ほんのわずかに、タンジェリンは切っ先を引き、そして……!!

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     ジェイドは動かなかった。その唇が微かに笑った――ように見えた。
     アボレスの歌声に気を取られていた一行が振り向いた時には、サンブレードで刺し貫かれたジェイドがゆっくりとくずおれ……同時にタンジェリンの手が剣の柄から離れるところ。ダメージを決めるサイコロは、ぴったりジェイドのhpをゼロ、いや、マイナス重傷値にした。復活の能わぬ完全死である。

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     ネヴァーウィンターの王を殺すこと、それこそがアボレスたちの目的だったのか……!!

    エイロヌイ:「……危ない!!」

     この後起こるはずのことを最初に思い出したのはエイロヌイ。
     咄嗟にサンブレードをジェイドの身体から引き抜く。死んだジェイドはアンデッドと化すはず――アンデッドの身に光の剣は必殺の凶器となるのだから。

     傷口から血の代わりに禍々しい瘴気があふれ、ジェイドを包み込む。蛇のように身体を取り巻く黒い靄の中で、光を失ったはずのジェイドの瞳が――人ならぬものの色を宿して力を取り戻す。
     血の気の失せた皮膚はいよいよ白くなってゆく。はるかエヴァーナイトで、クーリエが呵々大笑している。王が、今こそ我らの真の王が現れたぞ!!

     人としての生を終えたジェイドは、“貴種”ヴリロカとして“甦った”のだ。
     死者の中での生粋の貴族として。

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     ジェイドは身を起こす。最初は奇跡を喜ぶように――しかしタンジェリンの傍に落ちたサンブレードの輝きを見て思わず飛び退り、そうして初めて自分の変化に気付く。もはや非自然の存在と化した自身に。

    エイロヌイ:「……あれは、ジェイドなのかしら」

     エイロヌイがほとんど場違いなまでの唐突さで首を傾げる。

    エイロヌイ:「そうね、あれがジェイドなら……」

     つかつかとデイロンに歩み寄り、その膝にじゃれ付いていたディスプレイサー・ビーストの子どもを抱き上げ、ジェイドであるはずのヴリロカに突き付ける。子猫のような身体から延びた触手がゆらりと揺れる。ヴリロカとなったジェイドは顔を顰める。

    ジェイド:「……やめろ。それを見ると辛いのだ。ただ明るかった頃の思い出と忌まわしい記憶が、同時に私を苛む……」

     顔立ちも、口調さえ変わったジェイドが、細い触手に怯えるかのように後ずさる。エイロヌイは頷く。

    エイロヌイ:「ジェイドだわ」
    セイヴ:「……あんたも俺と同じになっちまったな、ボウズ」

     セイヴが一瞬苦笑いを浮かべ、それから真面目な顔になって言った。

    セイヴ:「ジェイド、ところであんたはこの先どうするんだ。あんたは確かにこの王冠に対してネヴァーウィンターの復興を誓ったが……」
    ジェイド:「確かに誓った。そして我が誓いにおそらくは十分なだけの時間を手に入れた」

     応えながらジェイドは王冠を拾い上げる。半死者の手が触れても、それを一度は王と認めたからか、王冠は炎や氷を発することもなく静かに輝き続けている。
     そう、確かにヴリロカと化したジェイドは時間を手に入れた。ヒトは生きてせいぜい100年にも満たぬ寿命。しかしヴリロカの寿命は300年ほど。

    セイヴ:「そうか。妹に殺されてもその気持ちは変わらないんだな」

     確かめるように、それともどこか嬉しそうに、セイヴが言ったちょうどその瞬間。

     霊廟の床に亀裂が入った。
     ジェイドとタンジェリンを引き裂くかのように。
     亀裂は広がり、そして気が付くと天井も壁も崩れかけている。馬鹿な、完璧な防御魔法に守られているはずのこの霊廟が、と、ネヴァーウィンター九勇士が慌てふためくが、実際に崩れゆくものを目の当たりにしては信じる以外ない――“完璧な防御”は打ち砕かれたのだ。

     床の亀裂から、数え切れぬほどのおぞましい形の“モノ”が這い上がってくる。
     呪文荒廃の力を享けた荒廃クリーチャーどもだ。

     エイロヌイの腕の中から凄まじい叫び声を挙げてディスプレイサー・ビーストが飛び出し、そのまま亀裂を飛び越えてデイロンのもとにかけていく。ジェイドたち一行とタンジェリン一行は完全に亀裂の向こうとこちらで分断されてしまっている。

     そうして、騒然とする一行の目の前で、亀裂の奥の奥から異様な巨大魚が、触手を蠢かせ粘液をぬらつかせながら這い登ってくるのだった。

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     ジェイドの決断

     第1回
     問い:エラドリンたちはニュー・シャランダーに留まるべきか、引き払うべきか。
     答え:俺が秘宝を取り戻してくる。だからしばらくこの地に留まっていてほしい。

     第2回:
     選択肢なし

     第3回:
     問い:ネヴァーウィンター全滅の原因を問うネヴァレンバー卿になんと答える?
     答え:俺のせいだ。俺にはこの惨劇を止める機会があったが止めきれなかった。

     第4回:
     選択肢なし

     第5回:
     問い:傭兵団ブレガン・ドゥエイアゼを率いるドラウ、ジャーラックスルを案内人として雇うか?
     答え:不安は残るが先には進まねばならぬ。それに放っておいて敵対勢力と組まれてはもっとまずいことになる。雇い入れる。

     第6回:
     問い:ネヴァーウィンター九勇士の試練を受ける権利をタンジェリンに譲るか?
     答え:俺が責任を取る。ここは俺に任せろ。

     第7回その1:
     問い:ネヴァーウィンターをどうするつもりだと問う王冠に対し、何と答える?
     答え:何十年、何百年かけても自分がこのネヴァーウィンターの復興を成し遂げる。

     第7回その2:
     問い:タンジェリンの剣がジェイドの心臓に迫る。その時……?
     答え:逃げはしない。そのままタンジェリンの剣に貫かれる。
     


    著:滝野原南生
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