水曜夜は冒険者――場所はお馴染み、東京は代々木、HobbyJapanの配信室より。
メインの物語は前回で語り終わり、今日はその後街はどうやって復興に向かうのかという物語。



 邪竜ロラガウスを倒し、ネヴァーウィンター森から死霊の力を退け――ジェイドたちが街に戻ると、そんなことはつゆ知らぬタンジェリンが待ち構えている。
 お兄ちゃん、どこに行っていたのよ、さあ、フェイワイルドに行きましょう。“リストアラー・オヴ・ジ・アース/大地を蘇らせるもの”を使わせてもらうようにお願いに行かなくちゃ。

 既に死霊の気配もなくなったネヴァーウィンター森に入り、妖精の渡瀬を抜けてフェイワイルドに入る。ジェイド一行もタンジェリン一行も揃って――いや、ミイラ男、マミーと化して包帯まみれのアデミオスだけはさすがに渡瀬のほとりにおいてくる――ニュー・シャランダーの領土に足を踏み入れる。
 緑濃く花咲き乱れているはずの土地。しかし目の前のニュー・シャランダーは荒れ果て、傷ついたフェイの兵士たちが数名、力なく視線を向けてくるばかり。闇のフェイたちの襲撃がひどく激化していたとのこと。将軍メリサラも戦死したという。

 さらに行くと、コアロンの戦司祭エムレイが破れて血に染まった司祭服をまとい、憔悴した様子で歩み出てくる。エイロヌイが進み出る。

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エイロヌイ:「戻ってまいりましたわ。アデミオスには然るべき罰を下しました。ネヴァーウィンター森の邪竜も今はもういません。それを告げに来ました。そしてもうひとつ――ここにいる、太陽神アモーネイターの聖騎士が、あなたに話があるとのことです」

 そう言ってタンジェリン――“リストアラー・オヴ・ジ・アース”を胸にしっかりと抱えている――を自分の前に押し出す。

タンジェリン:「あの……お願いがあります。ネヴァーウィンターのために、どうかこの宝物を使うことをお許しください!!」

 必死の声音に偽りはない。が、あまりの無茶な言い出しようにエムレイはじめ誰もが一瞬呆気に取られる。慌ててジェイドが妹の肩をつかむ。

ジェイド:「タンジェリン、順番が無茶苦茶だ――司祭殿、無礼をお許しください。ここに“リストアラー・オヴ・ジ・アース”を持ってきました。これはもともとエラドリンの宝物だったもの、しかしそれをシャランダーの都だった場所より人間が奪いとったと聞き及んでいます。そうして今までネヴァー城の地下宝物庫に眠っていました。これはいったんあなたがたにお返ししたい」

 そこまで一気に言い、そして視線を今度はタンジェリンに向ける。まずはこれだけのことは言うものだ。では、行って来い。

 タンジェリン、弾かれたように飛び出すと、必死になってネヴァーウィンターの惨状を訴える。が、エムレイはなかなか首を縦に振らない。見かねて仲間たちが口添えを始める。

デイロン:「協力するべきです。都市国家がひとつ滅んだものを復興させたいというのですから。それにこれを機にこれからはニュー・シャランダーとネヴァーウィンターが手を取り合って共に復興を成し遂げればいいではないですか」
ヘプタ:「だいたい見ればこの場所もずいぶんな状態じゃないですか。今こそこの宝物の使い時なんじゃないッスかねえ」
セイヴ:「街がすっかりきれいな状態ってなら宝物を大事にしまっとくのもいいだろう。だが、こんな時に宝物を惜しんで取っといたって、そりゃ宝の持ち腐れってもんじゃないか?」

 それを一通り聞いてもエムレイは眉を顰めたまま。

エムレイ:「貴君らは我らの文化をよくわかっていないのだ。コアロン神は美術の神でもある。美しいものを永続的に保管しておくということは、それだけでコアロン神の御心にかなうのだ。それを一時の街の復興のために使うなど……」

 あとは言わずに静かに首を横に振る。
 話は平行線ですね、とエイロヌイが言った。ひとまずこの話は置いて、このあたりの様子を見せていただきましょう。

 そうしてエムレイの前を離れてからタンジェリンの顔を両手で挟み、諭すように言う。

エイロヌイ:「交渉するのに相手の都合を聞かないのは下策というものですよ?」
タンジェリン:「……わかった。だったら、これ……」

 サンブレードを示すタンジェリン。これを差し出したら代わりにあの宝物を使わせてくれないかしら。

キムリル:「それは剣じゃないか。……魔剣かもしれないが……美術品としての価値なら王冠の方が高い。失われていた、ネヴァーウィンターの真の王冠の方が」
エイロヌイ:「待ちなさい。王冠は王権の象徴です。しかもエムレイはフェイの中でも人間に対して強硬な意見の持ち主だった。王冠を渡せばネヴァーウィンターの統治権を渡すからあの地をよみがえらせてくれと嘆願されたとしか取らないでしょう」

 ふむ、とジェイドが首を傾げ……それから急に踵を返して歩き出す。

ジェイド:「エムレイ!! もう一度話したい。ネヴァーウィンターの王として。ネヴァーウィンターの王城の地下宝物庫にはまだシャランダーの秘宝があるやもしれぬ。我らが持ってきたのは使用について嘆願したかったこの“リストアラー・オヴ・ジ・アース”だけなのだ。貴公らをネヴァー城の地下まで案内しよう。宝物庫に失われた秘宝があれば自由に持っていくがいい。そのかわり……この宝物だけは、ネヴァーウィンターに生きる命のために使わせてほしい」

 エムレイは目を見張り、それから静かに言う。

エムレイ:「いいのか。我々が宝物庫の中のものをすべて要求したならなんとする、王よ」
ジェイド:「それがあなた方の誇りなのか」

 問い返されたエムレイの顔がゆっくりと笑みを形作った。

 ――よかろう。この宝物の使用を許そう。だが、条件がある。



 あとは本当にのちの日の話である。

 “リストアラー・オヴ・ジ・アース”の使用と引き換えに、王妹タンジェリンはフェイワイルドの秋の都ミスレンダインに行き、そこでフェイの流儀を学ぶことになった。大事な宝物を使わせるとなれば今後はフェイと人が手を取り合わずばなるまい。その橋渡しが要る。王妹殿下にはその橋渡しとなるため、ミスレンダインで20年間の修行を。何、物質界ではその間に2年しか経過しない。

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 タンジェリンとこれまで同行していたデイロン、キムリル、そしてマミーと化したアデミオス(これは誤魔化すなりわけを話すなり今後なんとかするとして)もそれに同行することとなった。ジェイドとの連絡には、エリオンがこれまでデイロンとの連絡に使っていた水鏡の魔法を譲ることになった。

 エイロヌイはネヴァー城の地下で受けた呪いを解くため、しばらく砂漠で日光浴三昧の日々を送り、すっかり飽きて戻ってきた。
 飽きた、というエイロヌイを迎えたのは新たな冒険に出ようとする一行である。

ジェイド:「タンジェリンがフェイワイルドから戻るまで2年。その間にネヴァーウィンターに人を呼ぶ。土地だけでは街は復興しない、土地の命は人なのだ。そのために我々はネヴァー城の地下をいくらでも姿の変わるダンジョンとして宣伝し、冒険者たちを街に呼ぶことにした。これからそれを触れ回る旅に出る。まずはバルダーズ・ゲートに向かう」

 ――今後ネヴァーウィンターは“いくらでも姿を変えるダンジョンが存在し、生きたアンデッドが人と共存する”街として知られていくことになるだろう。

 ダンジョンの管理はイリシッドのもとから救出されていた庭師サム親子が務めるという。ジャーヴィーのパイ屋はいずれ冒険者の宿に育つだろう。

街の周辺でも少しずつ何かが動き始める。
ウォーターディープに帰ったネヴァレンバー卿は、セイバイン将軍との約束を守り、ミンターンの海賊たちを傭兵として雇い入れ始めた。
ホートナウ山にはドワーフたちが集まり始め、ジョードマーの遺志を継ぎゴーントルグリムの再建を始めた。
 そして……サーイでは、ザス・タム学園に新たな若い女教師が着任したという。その名もシェリー・ホワイトグレイヴ。リッチと化し、半ば発狂した彼女は、時折夢見心地に「ミシュナ、あなたを殺すのはこのわたし」と呟くのだという。

 デイル暦1479年。
 この年ネヴァーウィンターに訪れた冒険者は、希望をもたらしたとも絶望をもたらしたとも言われている。
 が、二度の噴火によってすっかり灰燼に帰したネヴァーウィンターの焼け跡に、残されたものは確かに希望であったのだと、後の世の人々は語っている。

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――ネヴァーウィンターの失われし王冠・第三部・完――



ジェイドの決断

第1回
問い:エラドリンたちはニュー・シャランダーに留まるべきか、引き払うべきか。
答え:俺が秘宝を取り戻してくる。だからしばらくこの地に留まっていてほしい。

第2回:
選択肢なし

第3回:
問い:ネヴァーウィンター全滅の原因を問うネヴァレンバー卿になんと答える?
答え:俺のせいだ。俺にはこの惨劇を止める機会があったが止めきれなかった。

第4回:
選択肢なし

第5回:
問い:傭兵団ブレガン・ドゥエイアゼを率いるドラウ、ジャーラックスルを案内人として雇うか?
答え:不安は残るが先には進まねばならぬ。それに放っておいて敵対勢力と組まれてはもっとまずいことになる。雇い入れる。

第6回:
問い:ネヴァーウィンター九勇士の試練を受ける権利をタンジェリンに譲るか?
答え:俺が責任を取る。ここは俺に任せろ。

第7回その1:
問い:ネヴァーウィンターをどうするつもりだと問う王冠に対し、何と答える?
答え:何十年、何百年かけても自分がこのネヴァーウィンターの復興を成し遂げる。

第7回その2:
問い:タンジェリンの剣がジェイドの心臓に迫る。その時……?
答え:逃げはしない。そのままタンジェリンの剣に貫かれる。

第8回:
問い:タンジェリンに真の元凶らしきブラックドラゴンの存在を告げるか?
答え:告げない。何も告げずに竜を倒しに森に往く。

第9回:
問い:ネヴァー城の地下宝物庫でみつけたかつてのイリヤンブルーエンの秘宝、“リストアラー・オヴ・ジ・アース”をどうする?
答え:タンジェリンに預け、シャランダーにいったん返却した上で使用の許可を得るべく交渉する。

第10回その1:
問い:ヴリロカと化して感情を失いつつあるはずのジェイド。その目の前に触手持つモンスターが。ジェイドはどう感じた?
答え:この恐怖は……まだ人間である証なのか……

第10回その2:
問い:ヴァリンドラの支配に絡め取られようとするジェイド。これまで方便とはいえ闇の力を使ってきた代償に、ジェイドの精神は死霊術との親和性を得てしまっている。この支配を振り払えるか?
結果:セーヴ成功。ひょっとしたら触手モンスターに感じた恐怖がジェイドを人間としてのありように繋ぎとめたのやもしれない。