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水曜夜は冒険者――場所はおなじみ、東京は代々木、HobbyJapanの配信室より。
無事ネヴァーウィンターの王冠と王位を受け継いだジェイド、しかし現在街は賑やかなネクロポリス状態。これではネヴァーウィンターが立ち行かないと復興手段の獲得の旅に……。シリアス(?)だった本編の後日談として『殺戮のバルダーズ・ゲート』をのんびり遊ぼうという番外編。
初回はセイヴとミシュナのPLが欠席ですが、とりあえず彼らも同行しているということで新たな冒険の幕が開きます。
ホートナウ山の二度にわたる噴火で壊滅した後、ひっそりと復興しつつある街ネヴァーウィンター。いや、今は死者(大多数)と生者(誤差の範囲)が共存する活気あふれるネクロポリス、エヴァーウィンターといったほうがいいだろうか。
とにかくホートナウ山の二度目の噴火から半年。
ネヴァーウィンターはひとまず復興への道を遅々としながらも辿ろうとしてその端緒に着いたきりその先の進展があまりない状態だった。
土地があっても人がいなければ始まらぬ。
サン家の庭師、サム父子を棟梁に、アンデッドたちが日夜働き、ネヴァー城の地下をダンジョンに仕立て、ネヴァー城には踏み込んでも踏み込んでも探索しつくせぬ大ダンジョンがあるという噂を流し、観光都市ならぬダンジョン都市として街に冒険者たちを引き入れよう――今は溶岩に埋もれた街だが一攫千金を目指す冒険者が相手ならこの状態でもよかろうということで始めた復興事業なのだが、そもそも殿様商売だの武士の商法というならまだマシで、冒険者が都市国家経営者に鞍替えするのはなかなかむつかしいらしい。さっぱり人が集まらない。挙句
クーリエ:「王よ、先日、パラディンの集団が“アンデッド殺すべし、慈悲はない”と喚きながら大挙して押し寄せてきましたので、大裂溝に蹴りこんでおきました。ディス・イズ・エヴァーウィンター!!」
などという色々賑やかしいが復興にはあまりつながりそうもない報告やら陳情やらがあふれかえる始末。やはりネヴァー城のダンジョンは地下一階からデストラップがあるという噂を流したのは失敗だったか。冒険者とも名乗る連中が、とんだ腰抜けどもばかりだ。
――というわけで、方針を変更することにした。
まず、ネヴァー城のダンジョンの浅い部分はもっと攻略しやすく、かつ財宝も取り放題という噂を流す。噂を流すにももっと効率よくやらねばならない。
クーリエ:「そこでですね、我らが王よ。バルダーズ・ゲートに行くべきだとワタクシ思うのです。あそこにはなんと“新聞”というものがあり、それは機械仕掛けの書記によって同じ文章を書いた紙がが一度に何百枚何千枚と作られるというもので、その新聞とやらに噂を書いて各所に配れば噂の広まるのも早かろうと……。ですから王には是非バルダーズ・ゲートに赴き、その新聞なり機械仕掛けの書記なりを奪取してきていただきたいと」
ジェイド:「まぁ待て。いきなり奪取とは穏やかでない。だがその技術はなかなか使えそうだな……」
それにですね、と、クーリエ、今度はエリオンとエイロヌイの方を向く。
クーリエ:「あの街には博物館というものがあるのだそうですよ。そしてちょうどいま、特別企画として“幻の都シャランダーの秘宝展”が開催されるとか……」
エイロヌイ:「あら。そうしたらイリヤンブルーエンの宝も展示されるかもしれませんねえ」
エリオン:「それは見に行かねば!!」
となると、ヘプタはそういえばその街にはひょっとしたら100年ぐらい前にハーパーの支部が置かれていたかもしれないと言い出す。ハーパーの支部が置かれていたぐらいなら死鼠団の支部があってもおかしくないしサーイの手が伸びていてもおかしくない。とりあえずジェイドとエリオンとエイロヌイが行くなら全員で行ってもいいだろう。
ジェイド:「それに現在、ネヴァーウィンターの街で政務を執れるのは俺とクーリエで、やはりこれは生きた人間の街として復興するには問題がある気がする。街がそれなりに体裁を整えるには人材もいなければならん」
そういえばジェイドも今ではヴリロカ、見事にアンデッドである。それを聞いてミシュナが痛ましそうに顔を歪める――死霊術を知る彼女は、いずれジェイドをアンデッドから人間に戻せる術を見出したいとひそかに思っているのだが……
ともあれ、留守を任せるのにグールのクーリエでは多少体裁が悪いので、ネヴァーウィンター仮面(この人物もアンデッドだろうが、少なくとも仮面で正体が見えない方が体裁はよろしい)を執政官として玉座の脇に残し、ネヴァーウィンターの効率の良い復興手段を求めてジェイド一行は街を出発した。
途中、ウォーターディープに寄った。かつてのネヴァーウィンターの支配者、ネヴァレンバー卿の助力を得るためである。
バルダーズ・ゲートは海から少し川をさかのぼった場所にある港街、海路でゆくほうがずっと行きやすい。というわけで船の援助を乞うた。
アンデッドの王と懇意にしていること自体あまり表ざたにしたくない――が、ネヴァーウィンターの復興に手を貸すにはやぶさかでない卿は、口の堅い船員ばかりが乗った船を一隻都合してくれた。その名もキングフィッシャー号。カワセミの意である。
ネヴァーウィンター王とはいえ、今回の旅はお忍びである。豪華な船で行くわけにもいかない。
というわけで件の船はみたところみごとにおんぼろ。手の込んだ偽装をしてくれたものだと思ったら本当におんぼろだった。
具体的には重傷状態である。船にもhpがあり、0になると崩壊して沈没するのだ。
乗ってしまった以上文句も言えないので、それに乗り込んだ。貸し切りというわけでもないようで、船には塩漬けニシンが満載されていた。
船旅はしばらく掛かった。
出港してから数日、甲板でジェイドたち一行が寛いでいると、少し離れたところにえらく目立つ格好をした男がいる。種族はエルフ、髪を逆立て派手な服装、つまりチンピラが出自であるところのヘプタと同類もしくはその上役ぐらいに見える。で、そいつがジェイドたち一行に、正確にはエイロヌイに視線を止めた。
派手な男:「なんだ、この船にもいい女が乗ってるじゃないか」
つかつかと近づいてくる。その視線はエイロヌイというよりはさらに正確にいうとその胸元に注がれている。
派手な男:「申し遅れましたが私はバルダーズ・ゲートの貴族コラン……」
ヘプタ:「あのね、あの、そのひとはやめた方がいいっすよ……」
慌ててヘプタが(同じモヒカンの誼で)袖を引いて止めるが聞かばこそ。
エイロヌイ:「そうですか。わたくしはフェイワイルドの13貴族のシーロード、エイロヌイと申しますわ」
エイロヌイ、嫣然と微笑む。派手な男、コランはさすがに表情を変えた。貴族というのは嘘ではないらしい。ヘプタが「そうか、エイロヌイの苗字はシーロードだったのか」と寝言めいたことを呟いている脇で即座に片膝をつく。
コラン:「知らぬこととは申せ……失礼を」
エイロヌイ、さらに薄く笑んで手の甲をその前に差し出す。その手を恭しく取って口づけるコランに
エイロヌイ:「わたくしたちはバルダーズ・ゲートは初めてですの。どうか案内を、コランどの」
そうして次々と仲間を紹介してゆく。
エイロヌイ:「こちらはとある街の王様で名前はジェイ……ああ、今はお忍びなのでJDと呼んでさしあげて。こちらはイリヤンブルーエン随一の伝説の剣の使い手エリオン。こちらは……ヘプタ」
ヘプタ:「コアロン神官っすよ!!」
そう言って財布に刻まれたコアロンの聖印を突きつけヘプタが主張を始めると、コランはさすがに礼儀正しく笑い「何か事情がおありなのですね」と言った。おかげでさらに色々と難しいセイヴやミシュナについては名前を紹介するだけで済んだ。
コランは再度、自分はバルダーズ・ゲートの貴族で商いもしており、この船の積み荷はほぼ自分のものなのだと説明した。そして今度はジェイドたち一行のバルダーズ・ゲート訪問のわけを問う。
ジェイド:「色々あるのだが……まずは人材を求めている。ヒトをクリーチャー種別で差別することなく、事務能力に長け……」
コラン:「それはまたずいぶん心の広い人物をお求めですな。……難しいやもしれませんが、まぁ、バルダーズ・ゲートは人の多い街です、そんな人物の1人や2人は居りましょう」
ジェイド:「ほかに新規の技術も学びたいと思ってきた。たとえば新聞というもの……」
コラン:「ああ、“バルダーの声”ですな。昔は政治的な使命感に燃えて発行されていましたが、今では浮世のしがらみでほぼゴシップ紙。それでも毎日発行されていますよ」
エリオン:「それに博物館の展示も観たいと思ってきた。なんでも珍しい企画展があるとか……」
コラン:「博物館、ですか。あのあたりは私はあまりよく知らないのですが、まァご案内いたしましょう。あそこは発明の神ガンドのからくりがたくさんある。中でも自慢はエレベーターというもので、これはなんと居ながらにして、階段の一段も上り下りせずとも、何度でも複数の階層を行き来できるというものなのです!!」
そういったものをネヴァー城のダンジョンに仕込めば、これまた呼び物となるやもしれぬ、と、色めき立つ一行。
まだ見ぬバルダーズ・ゲートがずいぶん楽しみになったところで、急に船尾が騒がしくなった。冒険者の常として船員が呼び立てる方に走れば、その指さす彼方、数百フィート向こうから何やら黒くうねうねとしたもの。ジェイドが一瞬立ちすくむ。つまりあれは触手もつ何かだ。いや、それどころか見覚えがある。戦ったことがある。あいつは――ネヴァーウィンターの下水にいた怪物ではないか。この感覚からして同じ個体だ。海に逃げ出していたのか!!
総帆展帆、と船長が叫ぶ。とにかく逃げきれ!!
あんな奴、1、2発ぶちかましてやりゃいいんですよ、とバリスタに取り付く船員を船長は叱り飛ばす。馬鹿野郎、たかだか1発や2発の銛であの化け物がどうにかなるものか。海の深みに引きずり込まれてお終いだ。とにかく逃げるぞ。
そして船長、ジェイドたちの方を向く。あんたたちも協力してくれ。
追ってくる相手はシー・クラーケン。おそらく因縁の敵であるジェイドたち一行を狙って深海から浮上してきたものであろう。具体的には移動速度10。
対して逃げるキングフィッシャー号は、具体的には移動速度6。
つまりこのままでは追いつかれる。逃げ切れるかどうかはジェイドたち一行がいかに適切な行動をとれるかにかかっている。
技能チャレンジが宣言されだ。
主要技能は船を漕ぐ〈運動〉、〈持久力〉、そして潮目と風向きを読む〈自然〉。その他の技能についてはそれが有効活用可能な理由を説明してDMを納得させられれば使用可能。逃げ切るには3回失敗する前に6回の成功が必要。
ジェイドは凄まじい勢いでオールに取り付き、漕ぎに漕いだ。〈運動〉判定に成功。
ヘプタは疲れた船員を治療してまわった。〈治療〉判定に成功。
エリオンはマストのてっぺんに上り、的確に見張りの役を務めた。〈軽業〉判定に成功。
だがこれまでずっと砂漠にいたエイロヌイが潮風を読むのに失敗した。
このままではまずい。
ジェイドはさらに凄まじい勢いで船を漕いだ。
エイロヌイは今度こそ潮目を正確に読んだ。
そしてエリオンはイリヤンブルーエンに伝わる古歌を思い出し、その中に歌われる古代の英雄が海魔に襲われたときにどうしのいだかを告げようとしたのだが、森の都イリヤンブルーエンの英雄が海で戦ったという叙事詩はどうもなさそうだった。〈歴史〉判定に失敗。
もう失敗は許されない。使えそうな技能のないヘプタは〈交渉〉判定で20の出目を出し、休ませてくれといいはるのに成功した。成功回数も失敗回数も積算されない。
そしてジェイドが〈持久力〉判定で成功し、民を率いる王としてのくじけぬ力を見せ切った。船はなんとかクラーケンを引き離し、そうして目の前にはバルダーズ・ゲートの街がもう見えている。
が。
街の前に立つ塔の見張りはこのありさまを見て入港禁止を宣言する。あたりまえだ。クラーケン付きの船を街に近づけるわけにはいかない。
が、止まればクラーケンに追いつかれる。幸いキングフィッシャー号は川もさかのぼれるように喫水が浅い。バルダーズ・ゲート脇の川をさかのぼって行けば図体の大きいクラーケンは進めなくなって引き返すやもしれぬ。
港をよそ目に勢いを殺さず川を遡る船。街の入り口でバルダーズ・ゲートの誇る投石機構、トレビュシェットが起動する。入港は禁じたが援護射撃はしてくれるようだ。
コラン:「ここはなんとかして奴を水面におびき寄せたい。奴が水の下にいてはトレビュシェットも効力が半減だ」
とはいえ、クラーケンはそもそもが彼方の領域の魔物、積み荷のニシンをばらまいたところでそれを餌とは認識しない。となれば誰かが囮になって奴をおびき寄せるしかない。ここで適任は……
一瞬考え、ジェイドは声を上げる。
ジェイド:「ヘプタ、行ってくれ。いざとなれば空間を捻じ曲げて戻ってくる魔法を使えるのだから」
というわけで、ヘプタの身体にロープを結び付け船の外に垂らす。効果は覿面、クラーケンはみるみる水面に浮きあがってきた。
そして即座に触手を振り上げ、ヘプタを殴りつける。一度ならず二度、そしてそのまま水中に引きずり込む。それだけではない――10本の触手があればそうする間に船に絡みつくことも可能。ただしこれは操舵手の腕が一枚上手、見事に船は絡みつく触手をすり抜ける。
船さえ無事ならなんとでもなる。なぐられ溺れさせられてふらふらになりながら、ヘプタは魔法でクラーケンの触手をすり抜け、必死に船めがけて泳いでゆく。あと少し、だがあと少しで届かない。危ない。
ジェイド:「これ以上はさせんぞ!!」
ジェイドは触手の恐怖にかすかに震え、幻惑状態のまま船縁まで進んだ。そして気力を振り絞り、具体的にはアクション・ポイントを使ってクラーケンを睨み付ける。
ジェイド:「俺が相手だ」
“グラウアリング・スレット”の技である。眼光に射すくめられたクラーケンはジェイド以外を攻撃すればその身体が震え腕は鈍るという塩梅。
そうしておいてジェイドは己の心に救う恐怖を追い払う。俺はもう子どもではない。過去の恐怖の幻におびえる必要はないのだ。
エリオンが甲板から魔法を放ったが外れ、エイロヌイの目晦ましの閃光も波間に一瞬しずんだクラーケンには無効――このままでは危うい、と、眦を決した、具体的にはアクション・ポイントを使用したエイロヌイのレイディアント・デリリウムが、こんどは浮上したクラーケンの眼球の真芯を射ぬく。さらにトレビシェットから打ち出された弾が見事に触手の1本の付け根を砕く。
焦って暴れるクラーケンの触手が空中でばたつく間に、ヘプタはなんとか甲板によじ登った。さぁ、反撃だ。
ヘプタ、クラーケンに対して“マーク・オヴ・ヴィクトリー”を宣言する。クラーケンの頭部にコアロンの焼印が押し付けられ、海産物の焼ける香ばしいにおいが周囲に充満する。そうして武器を振るう全員の腕にはコアロンの祝福が与えられ、具体的にはこの遭遇の終了まで、クラーケンに対する攻撃ロールには+2のボーナスが加算されるのだ。
だがクラーケンも反撃する。ジェイドの身体がクラーケンの腕に捉えられる。このままではジェイドが引きずり込まれる――いや、そうはならない。トレビュシェットが唸り、クラーケンの片目がぐしゃりと潰れた。
しかし、苦し紛れに振り回したクラーケンの腕がとうとう船を捉えてしまう。船体が大きく軋む。
エリオン:「させるか、聴け、我が魔剣の鎮魂歌を!!」
エリオンが叫んだかと思うと、甲板から突然その姿が消えた。次の瞬間にはクラーケンの頭の上に出現している。
――魔剣? フェノルの剣は消えたのでは?
――ええ。フェノルの剣はロラガウスの血から生まれた7匹の大蛇のうち、太陽と月の力持つものをより合わせて鍛えたもので、3本目の魔剣でした。今、彼が持っているのは、4本目の魔剣です。
新たなる魔剣は見事に海魔の頭部を切り裂く。剣が巻き起こした風はそのままクラーケンを船へと押しやる。さあ、ここなら甲板の剣士の剣も届く。
エイロヌイが斬りつける。トレビシェットが三度唸る。三度目の弾はクラーケンの残る片目をも潰した。盲目となったクラーケンは形勢不利とさとったか、船から腕を解き、河口へ、そして海へと消えていった。
――半ば近くはあのトレビシェットの功績だぞ。
――まずはあの射手を人材として登用すべきではないか。
そう囁きあう一行の傍に、コランが目を輝かせて走り寄ってきた。
コラン:「なんという素晴らしい腕前!! 街についたら是非とも私に歓待させてくれ!!」
危険を撃退した船は、ゆっくりと港に入ってゆく。
いつの間にか霧が出てきていた。霧は見る間に濃くなり、気づけばもう数フィート先は霞んでいる。これはいつものことだ、慣れることだよ、とコランは笑う。
こうして新たな街の新たな冒険は幕を開けたのだ。
ジェイドの決断
1回目:
問い:クラーケンをおびき寄せるためのおとりには誰がいい?
答え:魔法で戻ってこられるし、ヘプタが適任だろう。
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