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水曜夜は冒険者――場所はおなじみ、東京は代々木、HobbyJapanの配信室より。
無事バルダーズ・ゲートに到着、霧の街に降り立つジェイドたち一行。ちなみに今回はミシュナPL若月がお休み――というか、今シーズンはどうやら都合がつかないとのこと。
エヴァーウィンターに呼び返されてネヴァーウィンター仮面の中の人をやっているという案もあったのですが、今回もミシュナはみんなの後ろにいます。発言がないのはあまりの展開に呆れ果てているせいです。ええ、そんな話です。
船が入港してから下船許可が出るまで、しばらく掛かった。入国許可やら積み荷の手続きやらいろいろあるらしい。文化の進んだ都市はわりと面倒なのだ。
ますます濃くなる霧の中、少年の声が「号外、号外」と叫びながらどうやら何かを売り歩いている。あれが“新聞”だ、とコランが言うので、下船早々さっそく一部買ってみた。
なんと、先ほどのシー・クラーケンとの戦いが既に記事になって、絵入りででかでかと紙面いっぱいに書かれている。
ちなみにジェイドたち一行はチンピラ風の男を囮として海に放り込むという思いきった手段に出たものの苦戦、囮となった男は死に、クラーケンを倒したのは“バルダランの海塔”に詰める傭兵“燃える拳”団のトレビュシェットということになっていた。手続きのために先に下船した船員に取材したものらしい。
――冒険者たちも大変だなぁ
――だが、あのトレビュシェット、いざというときは役に立つのか。あんな大物の維持は税金の無駄遣いだと言われていたが……今回はあれがなければ港はクラーケンに襲われていたということだろう?
事実との齟齬よりなにより、号外を手に交わされる街の人々の会話が気になる一行。
つまりこの新聞の技術さえ手に入れれば、こうして世論を操作することも可能なのか。しかも今の戦いがもうこうして紙面になるというすばらしい速報性。これはますます今のネヴァーウィンターにはなくてはならぬ。
興奮する一行に、そんなに新聞の技術について知りたいならガンドの神殿に行くといい、とコランが言う。
だが神殿は壁に隔てられた街の上層地区にあり、上層地区はぽっと出の冒険者が入れる場所ではないとも言う。いや、ジェイドはネヴァーウィンター王、エイロヌイはフェイワイルド十三貴族の家の者、そしてエリオンも名家の出なので由緒正しい血を引くものは多いのだが――それを下方修正して余りある者もおり、そもそもジェイドはお忍びでの旅なのだ。というわけで、コランが先に上層地区に入り、その後寄越すという使いを待つことになった。
コラン:「ああ、それで使いが来るまで店では決してもめごとは起こさないでくれよ……何しろ俺はこの街の公安にはどうも睨まれていてな」
なんとも危なっかしい貴族様ではある。
ともあれ、この店ならいい具合に時間が潰せるだろうという店を何件か挙げ、そしてコランは立ち去って行った。
さて、どこに行こう。
なかなか変わった料理を出す流行の店、しゃれてはいるがちと店の看板だのメニューだのがあまり品のよくない方に艶っぽい店、そして踏み込むにはよぼどの覚悟が必要という店――何しろ酒がこぼれたと言っては喧嘩をし、肉の焼き加減が気に食わないと言っては喧嘩をし、餃子が来ないと言っては喧嘩をするらしい。ちなみに餃子とは極東の国カラ=トゥア風の料理で最近えらく人気だとか。
……揉め事を起こしてはならぬのなら穏便な店に行くべきだ。
そういうことになった。ヘプタが深く頷き、「我々には上品な場所が似合うっす」と言った。
というわけで、霧の深い街路を辿る。異国の街、しかも夕暮れ。何に出会うか知れたものではない。
具体的にはDMが街中のランダム遭遇表を広げた。出目は告げる――“積荷”を満載した下肥回収業者の車に出会う、と。
襲ってくるものではないがこれから食事に向かおうと言うときに、なまじっかな敵よりも恐ろしい。
セイヴはネズミに姿を変えて逃げ出し、エリオンはすかさず魔法でいい香りのするハンカチを出して鼻をおさえた。手段のない他の人々はひたすら道の端に寄り、壁に張り付いて荷車の通過を待った。荷車が通り過ぎた後も臭気はねっとりとまとわりついてきた。
わりとみじめだった。
――しかし、人目につかず街を脱出せねばならないときの手段は見つかったではないか
誰かが言うと
エリオン:「その時は死を選ぶ」
イリヤンブルーエンの貴公子は即答した。
もう少し行くと、今度は仕事を探している明かり持ちの兄妹に出会った。ボロを着て兄の方は裸足、妹は足に合わないすりきれたサンダルを履いている。
兄妹:「明かりは要りませんか、道案内は要りませんか……」
その姿が自分とタンジェリンにだぶり、思わずジェイドは2人を呼び止める。ヘプタが「そういう子たちはそういうふうに生きてくもんです、変な同情は要りませんよ」と言いかけ、全員から嫌な顔をされた。
セイヴ:「おっちゃんたちはなぁ、臭くない道を通って“ごちそうチョウザメ”亭に行きたいんだ。お前ら、道案内できるか?」
明かり持ちの兄妹、兄はサイガー、妹はエレイシアスと名乗った。ずいぶん仰々しい名前だ。おそらくは没落した名家の子供なのだろう。2人の道案内で一行はいい感じに繁盛している店に到着した。
何を頼んでいいのかわからないので、一番旨い特別料理を頼んだら、皿の上にぶつ切りになった触手がうごめくのが出てきた。なんでも「ウォーターディープからついさっき届いた馬鹿でかいイカ」の料理らしかった。
ジェイドの顔色が明らかに悪くなった。エリオンはさっさと海藻サラダを頼み、ふっくらと炊き上げられたひじきをせっせと口に運んでいた。
食事をしていると店の亭主がやってきて同じテーブルに着く。なんでも、冒険者にはそれぞれの故郷の名物料理を尋ねることにしていると言うのだ。
ここは具体的には〈事情通〉判定でそれなりの結果が出れば面白い料理について話せるというわけ。
ヘプタはネヴァーウィンターの下町の料理について語り、ジェイドはウォーターディープの上層階級が食べている料理について語った。
エリオンはまず身を清める儀式から始めるエラドリンの伝統のコース料理について語り、エイロヌイは良い水と良い土と良い空気に囲まれて眺める曙光について語った。
亭主は大いに喜び、食後の甘味をご馳走してくれた。こうやって遠国の人から話を聞き集め、いろいろと新メニューの開発に勤しんでいるのだという。今まで聞いた中で一番おもしろかったのはどこの国の話だというと、カラ=トゥアの連中の話が一番おもしろかったという。
なにしろ2本足のものは両親以外、四つ足のものは机以外食う連中で、皇帝が一言「ドラゴンが食いたい」と言えばたちまち料理人による遠征隊が結成され、そしてドラゴン料理が供されないことはあり得ないという具合。
賑やかしい話が一段落したところで、店に入ってきた飾り気のない精悍な男性。亭主も客も特に何も反応するふうはないが――見ればわかる。この男は只者ではない。
男は一行の机にやってきて、いきなり「君たちがクラーケンを退けた冒険者だね」と言ってにこりと笑った。新聞が書いたそらごとに惑わされぬだけの判断力の持ち主らしい。だが次のセリフは「亡くなったお仲間のことは残念だが……」
ヘプタ:「生きてるっすよ!!」
――おお、あの化け物に水に引き込まれながら生きているとは、大した腕前だ、素晴らしい。
男はそういってまた愉快そうに笑い、「逗留を楽しんでくれたまえ。冒険者はこの街によいものをもたらしてくれる」と言った。名乗らぬまま男は店を出ていったが、不思議と嫌な気はしない。むしろ大変な大人物に会った気がした。
後から亭主にきけば、件の男の名はアブデル・エイドリアン公爵、この街を創立した冒険者の1人で、街の名に冠されたバルダランその人の次に街に貢献した人物であるという。
セイヴ:「なぁボウズ、お前もああいうのになればいいんだよ」
セイヴがジェイドに耳打ちし、ジェイドは微かに笑って頷いた。
しばらくするうちに、またジェイドたちのテーブルの脇に立つものがある。今度は女騎士だ。コランの使いで、名はレンタ・ムーア少尉、と名乗った。
ついて来いというので、明かり持ちのサイガー兄妹(店に入れてやり、テーブルの隅で一緒に食事をさせてやっていた)には明日の晩も明かり持ちを頼むと言って別れ、店を出た。
街の上層地区と下層地区は壁で隔てられている。バルダー門の通用口を通って上層地区に入ると、そこは今までとは別世界の整然とした街並み。もちろん下肥の臭いなどするはずもない。
ヘプタ:「……これ、サクシュしてるっすね」
レンタ:「何を言う、失礼な」
ヘプタ:「聞きましたか、あれがセンミンシソウって奴っすよ」
レンタ:「なんでコラン様はいつもいつもこのような下品な連中ばかり……」
セイヴ:「面白いからだろうよ、あんたらと違ってな」
軽口めきながら大小の棘を含んだ言葉を交わしながら、到着したのは“三樽の古酒”亭。名前は酒場風だが、商人宿だ。
入ると顔中いぼだらけの男が3人やってきてこの店の亭主であると名乗り――どうやら3兄弟でこの宿を経営しているらしい――一行を丁寧に迎え入れた。レンタがつっけんどんな口調で言うには、コランは一行にしばらくこの宿に泊まれと言っているとのこと。
セイヴ:「それだけのこと、そんなにがみがみ言わなくてもいいだろうに」
亭主:「しッ、黙っておあげなさい。あの方はいろいろあって、先日、大尉だったのが少尉に降格されたのでご機嫌がおよろしくないのですよ」
憤然と店を出ていくレンタを見送り、さて、店の中を見回す。広い店で客も入っているが、比較的静かな雰囲気だ。酔って騒ぐなど思いもよらぬ、品のいい泊り客ばかりなのだろう。
さらに厨房のあたりに目をやると、下働きの女性たちの顔立ちや訛りに何か懐かしいものがある。注文を取りに来たのを呼び止めて話を聞くと、彼女らはみなネヴァーウィンター出身で、27年前のホートナウ山の噴火のときにここまで避難してきて住み着いたのだそうだ。
女性たちはジェイドたち一行がネヴァーウィンター出身と知ると懐かしそうに寄ってきた。あの街は今どうなってるの――なんでも胡散臭い領主が外からやってきたって話だけど――あら、また火山が噴火したって話も――みんな元気かしら――え、王様が帰ってきたんだって?
いたたまれずジェイドは店の外に逃げ出しそうになる。そりゃあそうだろう。二度目の噴火の引き金を引いたのも“正統な王様”も自分なのだ。
――でもねえ、あたしたちここに雇われて運がよかったわァ
――そうよ、イボガエルさんたちも親切だし
――あのひとたち、困ってる人を見ると誰でも雇っちゃうの。だからお店の経営はいつもピィピィ
――でもみんなあの人たちのこともこのお店も好きよねえ。火事になったって常連さんたちの寄付でこのお店、立ち直っちゃうんだからさ。それも3回も。
おしゃべりは尽きることがなく、彼女らの会話を聞いているだけでだいたいの状況はわかってしまう。もういくつか質問をして、と思ったちょうどそのとき。
異国風の身なりに異国風の四角い箱をぶら下げた男たちが数名、どやどやと店の中に踏み込んできた。
男1:「さぁさぁ、どうぞ。“朱色の食卓”亭のワン=ウェイ様からの奢りですよ~」
男2:「どうぞどうぞ遠慮なく」
そういって箱を開けると中には赤い汁を張った丼、汁の中には何やら麺が沈んでいる。宿の人々の呆然とした顔にはお構いなしに客のテーブルに丼を並べていく男たち、試しに食べてみると
ヘプタ:「うーまーいーぞーーーーー!!」
辛いが旨い。口の中を爽やかな風が吹き抜けていくようだ。
ワン=ウェイ:「お気に召したようですな。東洋カラ=トゥア風のマーラー麺、今までは街の端にてご提供しておりましたが、このたびこの広場にて営業を始めることとなりました。みなさまどうぞごひいきに」
いつの間にかこれまた見慣れぬ風体の筋骨たくましい男が店の中に入ってきて口上を述べ立てる。男の隣にはこれまた東洋風ただしカラ=トゥアとはちょっと雰囲気が違う、具体的にはサムライ風の男が用心棒よろしく控えている。
ワン=ウェイ:「お客様もうちの料理がお気に召された様子、さ、そろそろ店をゆずるご準備はよろしいかな」
イボガエル三兄弟ににやりと笑いかけるワン=ウェイ。三兄弟は歯噛みをしているが、嬉しそうに麺をすする客の様子に歯噛みをしながらも言葉もない。
セイヴ:「おい、ちょっと待てよ」
せっせと麺をすすりこんでいたセイヴが箸を手にしたまま顔を上げ、唐突に言った。
セイヴ:「これより旨いもん作ればいいんじゃねぇか? ……うん、たしかにこいつは旨いよ。けどな、俺ァもっと旨いもんはこれまでいくらも食ってる。たとえばジャーヴィーのパイなんかな。生きてるやつも死んでるやつも喜んで食うって大したシロモノだ」
店のおばちゃんたち:「そうよそうよ、今まで散々お世話になったんだもの、ここでネヴァーウィンター魂ってやつを見せてやるわ!!」
ワン=ウェイ:「……ほぅ、面白い。じゃあ、料理対決であなた方が勝てばこの店はあきらめる。こちらが勝てば、その時は……」
イボガエル三兄弟:「ああ、きれいさっぱり店はゆずってやるさ!!」
売り言葉に買い言葉。たちまちそういうことになる。勝負の日取りは2日後、バルダーズ・ゲート上層地区の行政堂にて。
ワン=ウェイ:「その日は我々が街のお偉方に献上麺を届けることになっていたのですよ。より旨いものが食べられるとなればきっと皆々様もお喜びのはず、まぁ楽しみにしていますよ……」
言い捨てて店を出ていくワン=ウェイ一行。あとにはがっくりと膝をつくイボガエル三兄弟。ああ、勝ち目もないのに言っちまった……
ねえ、あんたがたなんとかしておくれよ、と店のおばちゃんたちがすがるような目をジェイドに向ける。
こうなったら後には引けない。何しろ復興の過程で“よい噂”が一番欲しい今、おばちゃんたちを敵に回したら――それも噂話の実力はさっきのやりとりで保証付のものが40人からいるではないか!!――どのような惨状になるか知れたものではない。
それに、行政堂での勝負に勝てばそれは“新聞”で喧伝してもらえるだろうし、さらに言えば街のお偉方の歓心を得たなら“新聞”の技術を教えてもらえるかもしれないではないか!!
というわけでなし崩しに決まった味勝負、何をどうすればいいかはこれからの考え。
この一膳にネヴァーウィンターの未来がかかるのだ!!
ジェイドの決断
1回目:
問い:クラーケンをおびき寄せるためのおとりには誰がいい?
答え:魔法で戻ってこられるし、ヘプタが適任だろう。
2回目:
問い:コランからの使いを待つ間、どの店に行っている?
答え:やっぱり旨いもの食べたいし、“ごちそうチョウザメ”亭へ。
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