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『ネヴァーウィンターの失われし王冠』番外編・バルダーズ・ゲート紀行第3回リプレイ:城外市場と豚の呪い
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『ネヴァーウィンターの失われし王冠』番外編・バルダーズ・ゲート紀行第3回リプレイ:城外市場と豚の呪い

2014-08-06 15:52



     水曜夜は冒険者――場所はおなじみ、東京は代々木、HobbyJapanの配信室より。
     たちの悪い地上げ屋兼ラーメン屋から売られた喧嘩をうっかり買ってしまった“三樽の古酒”亭のイボガエル三兄弟、そして買った喧嘩の肩代わりを成り行き上しないわけにはいかなくなったジェイドたち一行。

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     喧嘩といっても料理屋と宿屋のそれはなんと味勝負。しかも相手はラーメン屋だというので何故かラーメン勝負。
     ラーメンも蕎麦もうどんもあるというD&Dの懐の深さを見せつつ――とはいえ、現実的に言えば料理には材料とレシピが要るわけで、2日後の味勝負のために動き出したジェイドたちの今回の冒険は……



     “三樽の古酒”亭で一晩泊めてもらい、翌朝。
     厨房のおばちゃんたちが顔色を変えて宿に駆け込んでくる。どうやら普段取引している店には既にあのラーメン屋、ワン=ウェイの手が回っているようで、食材を一切売ってもらえないのだとか。
     もちろんこれは容易に想像のつく事態、というわけで時を移さず材料確保のために行動を起こすジェイドたち。
     具体的には4つの技能判定を要求される。
     足で稼ぐ。つまり街じゅうを駆けずりまわって食材を売ってくれる店を探し出す〈運動〉。
     うまいこといいくるめて食材を売らせたり情報を聞き出したりする〈交渉〉。
     街の噂から情報を引き出す〈事情通〉。
     そして……脅して売らせる〈威圧〉。

     まず、おばちゃんたちにこの街で話の聞けそうな相手はいないかと聞く。ただやみくもに走り回っても仕方がない。
     すると、街はずれのラマジスの塔に住む若い魔法使いが旨いものには目がなく、魔法の仕事で稼いだ金のあらかたを美食につぎ込んでいるということ、それから街の噂を聞き出すなら公衆浴場だということがわかった。

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     魔法使いから話を聞き出すのにはフェイの人々がよかろうということで、エリオンとエイロヌイが塔へ向かう。具体的にはエイロヌイは〈交渉〉技能が高く、エリオンは高い〈魔法学〉の値を〈交渉〉に振り替えられる呪文、サジェスチョンを持っていたためなのだが。



    エリオン:「頼もう!!」
    ???:「なんやもう、やかましぃわ。表に書いとんの見えへんのかい」
    エリオン&エイロヌイ:「!?」

     見れば塔の入り口のところに「衣服等の魔法防水加工は現在ご予約のみとなっています」との貼り紙。DM岡田の言うには、霧の街バルダーズ・ゲートでは、常に高い湿気のせいですぐに服が湿気ったりかびたりするため、防水防黴加工はそれなりに需要があるとのこと。
     そうして出てきた赤毛の魔法使い――若くて威厳という言葉からはほど遠く、そしてどうやら食事中だったらしく片手にスプーン、片手にカレー皿を持っている。

    エリオン:「いや、我々は魔法の依頼に来たのではない。料理の件で伺いたいことがあってまかり越した……しかしその料理は素晴らしいですな。こうしていてさえ漂ってくるスパイスの香り、それだけでも噂にたがわぬ、いや、それ以上のあなたの食通ぶりが伺える」

     エリオンがそう言ったとたん「なんや、話のわかる奴やないか」と、魔法使いは相好を崩す。
     わけを話すと魔法使い、「おお、それじゃこれ、あんたらのことか?」と、“新聞”を1部出してくる。そこには冒険者たちが“朱色の食卓”亭のワン=ウェイとことを構え、2日後に料理対決で決着をつけることになった一件が面白おかしく書きたてられている。

    魔法使い:「これなァ、是非とも審査員で参加したいと思うぐらいなんだが、勝負の場には貴族しか入れてもらえんらしいからなァ」
    エリオン:「我々は是非ともこの勝負に勝ちたい。そこで食通としてのあなたの噂を聞きつけ、知識を分けていただきに来たのだ。もし我々が勝利したなら協力者であるあなたには、試食ぶんは必ず差し上げよう」

    あとはうまく乗せて“カラ=トゥアの辛いだけの料理に勝る”レシピと食材についての情報を聞き出そうとする――と。

     ――ワン=ウェイなぁ。だが、あいつの作る麺は本物だぞ。あいつは旨い麺を求めて麺地巡礼を重ねるうちに、暗黒麺に落ちてしまってな……それに対抗しうるのは光明麺のみ、と言われとる。

     そうして光明麺のスープベースになりうるものとして魔法使いが示したものは三種。
     まず、エルフの国で育てた豚、エヴァーミート。味は濃いが脂身は少なく、さっぱりとして旨みの濃いスープが取れる。
     次に、魔法が暴走したハルアーに産する“ハルアーの塩”。もともと上質の塩であったところに魔法暴走の影響を受け、不思議にぴりりと舌を刺す味、しかもそれが病みつきになるのだとか。人呼んで別名、マジックソルト。
     最後にアイスウィンドデイルのゲンコツマスを使った、通称“クリスタルスープ”。

     ――この三種類のどれかならワン=ウェイの麺にも勝てるだろう。
     〈交渉〉、成功である。



     一方、セイヴは街中を駆けずり回って食材の調達ができそうな店を探した――が、わかったのは「街中では調達できない」ということだけである。ありとあらゆるギルドにワン=ウェイの手が既に回ってしまっている。

     どうしたものか思案していると、松明持ちのサイガー兄妹(彼らにも情報集めを頼んでいたのだ)が、港は街の商店とはちょっと別枠になっているから、港に行ってみるといいと言う。そうしてみれば言葉の通り、顔見知りの船員が声をかけてくる。

     ――今度、味勝負するって言うじゃないか! 頑張ってくれよ。新聞にはトレビュシェットの活躍しか書いてなかったが、あんたがたが仲間を犠牲にしてまでこの船を守ってくれたのは、俺たち皆が知ってる。協力するぜ。
     何、食材が止められてる? じゃあ、こっちで手をまわして、街の問屋に入る前の荷物からあんたがたが使う分を売ってやるよ。珍しいものはないが、たいていの品なら都合できる。
     足で繋いだ絆、〈運動〉成功!



     そうしてジェイド。これは具体的には〈威圧〉判定ということになるのだが、あまりヤクザめいて脅しても後がよろしくなさそうだ。というわけでジェイド、比較的話の分かりそうな店の親父をつかまえ、

     ――店を構えようというものが、片側に味方してものを売る相手を選ぶとはな。それは商道に反するのではないか?

     なるべく逆恨みされにくいように言葉を選んだうえで、刺すような眼光で睨み付ける。
    〈威圧〉の判定はぎりぎり成功。
    親父は困ったような顔をジェイドに向け、

    ――まぁ、あんたの言うことは道理なんだが……ここだけの話、この勝負、ベリンヌ女公爵が関わってるらしくてな

    そう、口の中だけでぼそぼそと言った。ベリンヌ女公爵はバルダーズ・ゲートを統治する4人の公爵の1人である。だから勝手なこともできないんだ、ということだろう。それでは仕方がない。



     それぞれにそれぞれが調査を終え、やってきたのは公衆浴場である。
     街の噂を聞くならここ、というのでそのあたりに耳ざとそうなヘプタを先に行かせ、ここで全員集合という段取り。
     やたらと肌を露出したがる――まあ、エイロヌイは本質として植物なので肌が出せる場所ではできるだけ肌を出して光合成をしたいらしいのだが、エリオンが片肌脱いでいるのに何の実質的な意味があるのか――フェイの2人をなだめながら入っていくと、タトゥーやらピアスやら賑やかしげな集団が

    チンピラ1:「ヤベェもん買うならカリムシャン街だ」
    チンピラ2:「特にヤベェもん買うなら夕方から街に入って夜市に行くんだな」
    チンピラ3:「だがあそこマジヤバいぞ」
    ヘプタ:「わかったっす、ひとりじゃ動かないようにするっす」
    チンピラ4:「ひとりはもちろんヤバい、たくさんだとそれもヤバい」
    ヘプタ:「うわあ、それマジヤバいっすね」
    チンピラ5:「ヤベェよ。マジヤベェ」

     ……とりあえず必要な情報は手に入ったらしい。
     〈情報収集〉、成功!



     というわけで、必要なものも、入手先もわかった。では、何を作るかだ。スープのベースが一番の基本だろう。それでその他の材料も変わってくる。

    セイヴ:「……なんか、全部使えるんじゃないか? クリスタルスープに塩を効かせて、エヴァーミートは具として載せる……」
    エイロヌイ:「それは一案、でも、やはりメインのスープはきちんと決めないと。ジェイド、どうしますか?」

     というわけで、考え込むジェイド。コメントではそれぞれにラーメンの好みが流れているが……

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    ジェイド:「そうだな……“朱色の食堂”亭のこってりした暗黒麺に対抗するには……」

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     ……というわけで、ベースはクリスタルレイクのゲンコツマスでスープをとるが、セイヴの主張した通り、すべての珍しい材料を使い、つまりスープをハルアーの塩で味付けし、メインのトッピングとしてエヴァーミートの叉焼を使うことになった。

     となればあとは夕方を待ってカリムシャン街で買い物をするのみ。
     ちなみに出発の時間まで、エイロヌイは街を散策し、会う人ごとにカラ=トゥアの料理人たちに食材の流通を止められてしまっていると言い、一方、ジェイドは“三樽の古酒”亭に腰を据えて妙なやつが来たらたたき出してやるとばかり用心棒を務めていたのだった。



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     かくして夕方。一行、街の門で武器を受け取ってカリムシャン街に向かう。
     街の外に一歩出ればそこはスラム街であったり、革なめしや染色業、屠殺場などどうしても悪臭を発する職人たちの作業場があったりする。その乱雑さはバルダーズ・ゲートの下層地区でさえここに比べればまだ整備されていると思わせる有様。

     押し寄せる物乞いをかき分けながらカリムシャン街へ向かう。
     閉門の直前に滑り込んだ街は……砂漠の民の暮らしぶりをそのまま移築してきたよう。彼らの国では魔神と精霊がいつ果てるともしれぬ戦いを続けており、とても住めなくなってここへ避難してきたのだ。普通の街であれば商人たちは共通語で話しかけてくるものだが、ここでは耳に届くのは異国の言葉ばかり。エイロヌイが共通語を離せるものはいないかと大声をあげ、通訳を雇う。さて、あとは買い物だ……エヴァーミートにハルアーの塩、ゲンコツマスの枯れ節、しかも腹でなく背側のいいところを1本……

     が。

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     街の広場で虎に芸をさせている猛獣使いがどうも気になる。こちらを見る目つきが尋常でない。気づかないふりをしながら身構えていると……

     いきなりその虎の鎖が外れ、そうして件のけだものはジェイドたち一行の前にぬっと進み出てきた。しかもどう見ても殺気立っている。猛獣使いはというと「ああ、たいへんだ、虎が虎が」といかにもわざとらしく慌てているが……

    エイロヌイ:「これはいい、つまり事故なのですね。事故であれば正当防衛、何があっても損害賠償には問われませんものね」

     言いながらエイロヌイ、すらりとレイピアを引き抜いている。他の面々も待っていたかのように身構え……
     6秒後には虎は血まみれになっている。具体的には1ラウンドで重傷状態になったのである。

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    調教師:「ああ、すみませんすみません、しばしお待ちを……」

     いかにも慌てたふうで駆け寄ってきた調教師だが、しかし彼の口から出たのは虎をなだめる言葉ではなく怪しげな呪文。

    調教師:「貴様らは豚を探しているそうだな。なら豚を与えてやろう」

     調教師の指先からほとばしった光がエリオンを打ち据え、次の瞬間そこにはとても美形の豚がいた。
     キャライメージを攻撃する、掟破りの技である。エリオンのプレイヤー、瀬尾は瀕死。

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    調教師:「それを連れていくといい」

     答えず神の雷を呼び下ろすエイロヌイ。虎は瞬時にその場に倒れ、調教師も轟雷をまともに喰らってふらつく。

    セイヴ:「冗談じゃねえ、貴様はエリオンを豚にした、万死に値するッ」

     ――戦闘はもう数秒も続かなかった。
    足元にへたりこむ――具体的にはhpを0にしたうえで“とどめを刺さない”宣言をしたのだ――調教師に向かって、ヘプタがのんきな調子で言う。ちなみに虎も昏倒させただけでとどめを刺してはいない。

    ヘプタ:「よかったっすね、エリオンさんが殴りかかってくる前に叩きのめしてもらえて」
    エイロヌイ:「なぜあなたを生かしておいたのかわかりますか? あなたの生命と私たちへの奉仕をこれから天秤にかけるためです」

     さすがにこの流れでは恐れ入る以外ない。

    調教師:「あんたがたを脅しつけてくれと……カラ=トゥア人から金を貰ったんだ。だが、あの虎をけしかけられて怯えもせず立ち向かってくるとは……こんなヤバい連中が相手だとわかってれば……」
    ヘプタ:「あー、虎ね。いや、これまで戦ってきたなかではずいぶん大人しいほうっすね」

     のほほんと言うヘプタと、こともなげに頷く他の面々。確かに竜だの深海のクラーケンだのに比べれば虎などずいぶん大人しい。
     というわけで到底かなわないと思い知った調教師は、後はエイロヌイが要求するままにカリムシャン街のバザーの案内人を務め、ゲンコツマスの枯れ節とハルアーの塩は難なく手に入った。
     エヴァーミートは、肉ではなく生きた豚一頭を丸ごと買った。この豚は何でも火をつけても燃えることがなく、具体的には[火]に対する耐性10を有し、通常の手段では料理ができないのだとか――
     だがそれに対する手段はもうすでに一行の手にある。具体的にはエリオンは[火]かつ[電撃]の、ジェイドは[火]かつ[冷気]の攻撃手段を持っている。何とかなるだろう。

     というわけで、調教師には案内の礼をいい、ついでに

    ジェイド:「君たちは国に帰れずここにいるのだろう? ……もし気が向いたら、北方に来ないか。ネヴァーウィンターという街がある。安楽な場所ではないが、活躍すべき新天地を求めるならいくらでも答えるだろう街が」

     勧誘までしてみるが、

    調教師:「……ネヴァーウィンター? あんたいったい何者なんだ?」
    ジェイド:「……!! た、旅のちりめん問屋だッ」

     そういえばジェイドはお忍びでの旅の途中だったのである。



     かくして食材を入手し、宿に戻ってみると、ワン=ウェイから麺が届いていた。この麺だけはカラ=トゥアの技術でないと作ることができないのだ。
     街の店に材料を売らせなくするまでは単なるいやがらせ、しかし麺なしで麺料理を作れというほどには、料理人としての誇りを失ってはいなかったらしい。届いた麺はちゃんとしたものであった。

     この麺と、手に入れた食材を使い――麺と魔法、炎と油を操って、いよいよ決戦の台所は明日に迫っている!!

     ちなみにこの後、PLたちのおやつというか夜食というかに供されたのは担々麺と餃子であったことは特に記しておく。

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    ジェイドの決断

    1回目:
    問い:クラーケンをおびき寄せるためのおとりには誰がいい?
    答え:魔法で戻ってこられるし、ヘプタが適任だろう。

    2回目:
    問い:コランからの使いを待つ間、どの店に行っている?
    答え:やっぱり旨いもの食べたいし、“ごちそうチョウザメ”亭へ。

    3回目:
    問い:暗黒麺に対抗すべき光明麺のスープの味は何がいい?
    答え:魚介ベースで。とりあえず暗黒麺がこってりしているならこちらはあっさりと、それに港町バルダーズ・ゲートでは舌に馴染んだ魚介ベースの評価が高くなるはず。
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