水曜夜は冒険者――場所はお馴染み、東京は代々木、HobbyJapanの配信室より。
 ネヴァーウィンター、いや、エヴァーウィンターの王として復興の手段を求めお忍びの旅に出たジェイドたち一行の活躍を描く番外編、バルダーズ・ゲート紀行も今回が最終回。
 いよいよ決戦の味勝負……お忍びの旅に出た王がなんで料理対決をするはめになったのか、この期に及んでDM岡田は自分のシナリオ進行に初めて疑いを抱いたと言うが、とにかくD&Dの懐の深さを見せているには違いない。
 ともあれ剣を包丁に持ち換え、ネヴァーウィンターの明日を一杯のラーメンに賭けた勝負の行く末は……!?



 望み得る限り最高の食材を手に入れ、カリムシャン街からバルダーズ・ゲートへ戻ろうとする一行。相変わらずの人混みをかきわけて進む。

 と、そのとき。

 ――ヘプタ。これ以上、コアロン神の力を使ってはならぬ。

 具体的には「神性伝導を使ってはならぬ」と言ったのだが、とにかくその言葉がヘプタの耳に落ちた。見れば人混みの中から秘密組織ハーパーでヘプタの上司だった男がこちらを睨んでいるではないか。

 ――ハーパーの一員として地上に正義をもたらすべきおまえが、なにをしている。ラーメンを作ることが正義か。それはハーパーの道やコアロンの教えにかなうことなのか。

ヘプタ:「かなってるっすよ」

 即答するヘプタ。旨いものは正義っすよ。それにコアロン神は芸術の神として旨いものもお好きだったはずっす。

 答えながら、身の内に微かな熱を感じるヘプタ。これはまさか神の試練――しかしヘプタの表情はのほほんとしたまま変わらない。
 こういう男だからこそ、コアロン神も市井のチンピラであったヘプタに力を与えたのかもしれぬ。”上司”の姿はもう見えない。

 そうこうする内に、バルダーズ・ゲートへ入る門の前に出た。意気揚々と入ろうとすると衛兵に止められた。

衛兵:「待て、この街にはクジャクより大きな動物をつれて入ってはならぬ」

 生きた豚であるエヴァーミートは人を遙かに越える大きさなのだ。具体的には大型サイズだとか。どういう豚だ。

 それはともかく、またもやワン=ウェイの嫌がらせかと思ったが本当に街の規則でそうなっているらしい。規則では仕方ない。この場で捌いて肉にして持ち込むぶんにはかまわないと衛兵は言うが――エヴァーミートは捌きたてを焼くのが一番旨いのだ。困ったあげく、

エリオン:「これは動物ではない、我々の仲間だ!!」

 確かに一度豚にされたエリオンが言うなら説得力はあろうというものだが、それも衛兵には通じない。
 と、そのとき、声をかけてきたものがある。

呪い師:「あんた方はただ者ではないと見た。知っての通り私は人間を豚に変えることができる。と同様に豚を人間に変えることもできるのだ。力を貸そう」

 ちなみにこの呪い師、ものの姿を変えるのは人間を豚にすることと豚を人間にすることだけで、豚を子豚に変えることはできないらしい。
 一度は人間の姿になったのを見た豚を殺して料理することになるのはなかなかぞっとしないが、背に腹は変えられぬ。呪い師に同行してもらい、門を抜け、宿に着くまでエヴァーミートをヒトの姿にしておいてもらうことにした。

 魔法がかかった豚はエリオンと瓜二つの美青年の姿になり、ブゥブゥ鳴く代わりに「我が名はエリトン・シルヴァーミート」と言った。当面の問題は解決したが、主にエリオンの精神に重大なダメージがもたらされたのは言うまでもない。



 “三樽の古酒”亭の台所に、山のような食材が次々と運び込まれてくる。ジェイドの説得に応じてこっそりと食材を売ってくれた店主たちがいたのだという。それに船乗りたちが問屋に入る前の積み荷の中から選りすぐったものを届けてくれている。
 ネヴァーウィンター出身のおばちゃんたちの包丁の音が調子のいい音楽のように響く。ゲンコツマスの枯れ節を削ってスープを取り、エヴァーミート以外の具材を調理してゆく。準備は抜かりなく、最高の状態で最高の一杯を提供できるように。

 あともうひと味加え、ひと煮立ちさせるまでになったスープ、様々な具材、そしてワン=ウェイから届いた麺が行政堂に運び込まれる。そしてもちろんエヴァーミートも。

 行政堂の大ホールにはキッチンスタジアムが設けられ、ワン=ウェイがすでに到着して待ちかまえている。

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ワン=ウェイ:「ほう、定刻通りの到着ですか。勝負を放棄したかと思いましたよ」

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 にやりと笑うワン=ウェイを、ジェイドの――ヴリロカの紅い瞳がぎろりと睨み据える。具体的には〈威圧〉判定を仕掛け、相当に高い目を叩き出す。

ジェイド:「つまらない手を使ってくれたな」
ワン=ウェイ:「……!! こいつ、ただの冒険者ではなかったのか? ……いや、しかし料理の腕でこの私が劣るはずがない……!!」

 たじたじとなりながらワン=ウェイ、気力を奮い立たせてジェイドを睨み返す。

 観客席には上層地区の主立った住民たち。そして審査員席には7名の貴族が並ぶ。中の一人が立ち上がり、口を開く。

 ――我が名はイステヴァル……

 どこかで――具体的には、番外編に入ってから導入されたオープニング動画で聞いたような台詞とそっくりな口上を述べ、「君らのラーメンを作れ」と重々しく結ぶ。
 イステヴァル卿。太陽神ラサンダーの聖騎士にして、ソードコーストの重鎮の一人である。かつては冒険者として活躍した男だ。

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 ほかに審査員の座につくのは、トーリン・シルヴァーシールド公爵、アブデル・エイドリアン公爵、そしてディラード・ポーティア大公爵。そしてコランも審査員席にいるところを見ると、彼もそれなりの大貴族ということなのか。

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 だが、あとの2人は全く意外な人物だった。なんとダガルト・ネヴァレンバー卿(どうやら商談あってバルダーズ・ゲートに来ていたらしい)、それにミートパイ屋のジャーヴィーではないか!!

 ネヴァレンバー卿まではわからなくもない。だがなぜジャーヴィーが。いったいこのミートパイ屋は何者なのだ。

 だが、そのような謎にかまけている暇はない。調理開始の合図とともに戦闘が展開される。

 そう、戦闘だ。
 まず、スープの仕上げをせねばならぬ。ゲンコツマスから取ったクリスタルスープの味をハルアーの塩で調え、灰汁を取りつつもうひと煮立ち。これには毎ラウンド、鍋に隣接して1回の標準アクションを消費し、かつ目標値8の【敏捷力】判定に成功せねばならない。能力値判定については出目が1でも問題のないセイヴがスープを担当する。

 それからこの場でエヴァーミートを肉にして調理しなければならない。それには[火]に対する抵抗10を持つエヴァーミートのhpを0にすることが要求される。

 いざ調理を、と、キッチンに散った一同の目の前で、麺が突如黒雲のような姿に膨れ上がった。

ワン=ウェイ:「これこそ我々が開発した暗黒麺。しかも選び抜いた精鋭の麺です。調理するにはこれを叩き伏せねばならぬが、そうしたときに最もすばらしい歯ごたえと味が約束されるのです!!」

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 高笑いするワン=ウェイ。しまった謀られたか。いや、ワン=ウェイ側のキッチンでも同様に暗黒麺が膨れ上がっている。ワン=ウェイの料理に賭ける執念はこれほどの――まさに命がけのものだったのか。いや、この暗黒麺こそが、ワン=ウェイの執念そのものかとさえ思われる。

 ――ワン=ウェイの暗黒麺に対抗できるのは光明麺。暗黒麺から光明麺を生み出すには、暗黒麺に一定以上の光の力をたたき込むことや!!

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 ラマジスの塔の美食家魔術師、ロローカンの声がジェイドたちの脳裏に響く。具体的には暗黒麺のhpを0にすること、またその際に[光輝]ダメージを50点以上与えること。ちなみに暗黒麺のデータはブラック・プディングのものらしい。それ食って大丈夫なのか。
 あと、ワン=ウェイの言葉通り、この暗黒麺は精鋭クリーチャーなのでアクション・ポイントを持っているとか。

 ダイスが転がる。イニシアチブが決定される。戦いの火蓋が、いや、火豚が切って落とされる。
 そう、最初に行動したのはエヴァーミート。それもヘプタめがけて火を吹いたのだ。画面に表示される豚――どころではない、ダイアボアのイラスト。

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 下部にエヴァーミートって書いてあるからこれがエヴァーミートなのだ。なんだそりゃあという悲鳴じみた抗議の声に、ジェイド代表PL兼サブDM柳田は答える。

 ――だってD&Dで豚っていったらこんなのに決まってますよ!!

 続いて動いたのはなんと暗黒麺。エイロヌイめがけて雪崩落ち、絡みつく。麺に生命力を吸収されるエイロヌイ――だが、それによっておそらく麺には森の木々の爽やかさが味わいとして加わったはずだ。が、

ヘプタ:「そこまでっす!!」

 ヘプタの手から光の剣が奔る。
 光に切り裂かれた暗黒麺の傍に、もうひとつ小さな麺――替え玉だ!!
 切れば切るほど麺は替え玉となって増えてゆく。そしてたかが麺といえども油断はならぬ。絡みつく熱い麺はそれなりのダメージを与えるのだ!!

 こうしてはいられない。
 セイヴは鍋の脇で気合いを込めて、具体的には灰汁ションポイントを消費して灰汁を掬うや否や、左右の手に剣から持ち替えた包丁で麺を切り刻む。

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 エリオンの手から電撃が放たれる。替え玉のいくつかが消し飛ぶ。エヴァーミートと暗黒麺も巻き込まれて揺らぐ。ジェイドが走る。食材の皿を勢いよく蹴飛ばすと、宙に舞い上がった皿からホタテや干しエビがクリスタルスープの中に降り注ぐ。だが本命はエヴァーミートだ。火を吹く豚の肉を剣が大きく抉る。気合いとともにさらにもう一撃。

 妖精郷の光を具現する樫の木の乙女は暗黒麺と正対する。
 その胸元からまばゆい光がほとばしり、暗黒麺を包み込む――とみるや、禍々しいまでに黒々としていた暗黒麺がみるみるうちに透き通り、自らの内より光を放ちはじめたではないか!!
 光の力を討ちこまれた暗黒麺は光明麺へと姿を変えたのだ。あとはこれを叩き伏せ、食べられる状態にすればいい。麺に関しては仕事の半ばは成った。

 セイヴが灰汁を掬う。エリオンは豚に再び切りかかる。剣が唸り、豚の胸を切り裂く。魔剣はさらに光を放ち、妖精郷の光もてエヴァーミートを祝福する――おお、その一撃で、地響きを立て、豚は地面に倒れたではないか!!
 だが、エリオンの目には、崩れ落ちる豚の姿に自分が光に灼かれ倒れる幻影が一瞬重なって映った――が、手を休めるわけにはゆかぬ。命あるものは己であれ豚であれ必ず死すのだ。である以上、それぞれの運命は全うさせねばならぬ。すなわち、豚は叉焼に。かくしてエリオンは己の面影を宿した豚の料理に取り掛かるのである。

 残るはのたうつ麺のみ。
 ジェイドは渾身の力を込め、さらには魔法の篭手の力まで借りて麺を切り裂く。替え玉が増殖する。大きく揺らぐが麺はまだのたうつのをやめず、それどころかエリオンとエイロヌイを包み込んでしまう。
 このままでは危ない。ヘプタがエリオンを救い出す――コアロン神の力を直接その身に伝導し、作り出した時空の歪みにエリオンを巻き込んで飛び込む“ステップ・トゥギャザー”の技だ。今朝がた、上司から「それはしてはならぬ」と言われた行為である。件の上司はいつの間にか観客席にいる。その目が光った気がする――が、構うものか!!

 セイヴが灰汁を掬う。救い出されたエリオンは大きく剣を振りかぶり、麺に切りかかるが――ああ、しかし剣を振りおろそうとした瞬間、倒れ伏す豚の、あるいは自らの姿が脳裏を過ぎって手元を狂わせる。しまった、と思った瞬間。

 ジェイドが剣を素早く持ち替え、剣の平で麺を大きく叩き飛ばした。その一撃で麺は動きを止め、そのまま鍋のほうへ飛んでいく。

ジェイド:「茹でろ」

 王の一声。戦いは終わったのだ。後は澄み切ったスープを仕上げ、ラーメンを盛り付けるだけである。



 時を同じくして、ワン=ウェイの暗黒麺も仕上がった。
 それは燃えるように赤い汁に黒い麺が見え隠れする、九大地獄を、あるいはシャドウフェルを思わせる一膳である。供された審査員たちはその見てくれに一瞬ひるむが、箸――を使う習慣はないのでフォークをつけるや否や異口同音に「辛い、旨い、これは止まらぬ!!」と叫びながら夢中になって食べ始めた。

 ――なんだこの、舌ではなく頭に、脳髄に直接訴えかける辛さは!!
 ――ウスティラゴーを煮込んだ出汁でスープを取っているのだな。だから直接脳に旨さが伝わるのだ!

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 ――味はすれども腹はなかなかくちくならぬ、この不思議な食感はなんだ?
 ――おお、これは非実体麺!! 麺を良く見ろ、暗黒麺の中にフェルテイントが混ざっているではないか!!

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 彼方の領域からもたらされた食材さえも躊躇わず使ったそのラーメンは、鮮烈な辛さを脳の髄に叩きこむ。取り憑かれたように食べ終えた審査員たちの目は既にどこか虚ろだ――この状態の彼らに味がわかるのか?

 だが。
 ジェイドたちの丼が審査員たちの前に運ばれる。それは……

ジェイド:「右奥に麺、手前にスープ、そして左奥に豊かな具材を配したこの盛り付け、これはすなわちバルダーズ・ゲートを取り巻く丘と川、そして雑多な文化のるつぼたるバルダーズ・ゲートそのものをあらわしたものです!」

 おお、とどよめく声。うつろだった審査員たちの目に光が戻る。そして……

 ――確かに盛り付けは見事。だが、味はどうかな……
 ――なんと、この鮮烈な味!! これは……この“川”は、チオンター川ではない。見えるぞ、アイスウインドデイルの寒風吹きすさぶ氷原、透き通った湖、そしてそこに躍る大魚の姿が!!
 ――そしてこの麺は……おお、なんだ、この口から溢れる光は!!

 審査員たちの脳裡にアストラル海の情景がありありと映し出される。そして、そこで繰り広げられる光と闇の終わることなき戦いが。光と闇が、神々とプライモーディアルが戦い続ける――暗黒麺から生まれた光明麺の中には、光と闇がせめぎ合っているのだ。

 ――これこそ……麺地創造!! そしてその行き着く先は……
 ――おお、この情景は妖精たちの神々の園、アルヴァンドールではないか。神々と死せる英雄たちの終わりなき宴の席に連なっているかのごとき心地……
 ――なんというラーメンだ……。一杯の丼の中にフェイルーンの歴史がすべて体現されている!!

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 審査員たちのざわめきを余所に、エイロヌイは小丼にラーメンを盛り付けて会場の入り口に走る。目ざとい乙女は見つけていたのだ。あの明かり持ちのサイガー兄妹がどうやってかこのスタジアムの入り口までたどり着いて衛兵と押し問答しているのを。
 衛兵にひとつ頷いて兄妹を会場の隅に引き入れてやり、小丼のラーメンを振舞う。ジェイドたちの麺の味を何とか表現しようと貴族たちが言葉を探す中、単純にして真理なる無邪気な声が会場中に響き渡った。

 ――旨い、旨いよこれ!!

 審査員席の貴族たちは満足げにスープを最後の一滴まで飲みほし、「神話級の食事であった」と満ち足りた声で告げた。

ワン=ウェイ:「馬鹿な!! 貴様らのような俄か料理人が作った麺が旨いはずがない……」

 いきり立ってジェイドたちのラーメンを口にしたワン=ウェイ。一口でその顔色が変わる。

ワン=ウェイ:「闇と光……アルヴァンドール……こんな麺があったのか……。私は暗黒麺に満足して、これを知ろうともしなかった。私の負けだ……」

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 がっくりと膝をつき、はらはらと涙を流すワン=ウェイ。このことにちなみ、後に光明麺は改心麺すなわちアトーン麺トとも呼ばれるようになるのだが、それはまた後の日の話。

イステヴァル卿:「どちらが勝ちかは言うまでもない。旨かったぞ、冒険者諸君。だが、これだけの麺を作る君たちはただの冒険者とも思えない。いったい君たちは何者なのだ?」

 にこやかに問いかけるイステヴァル卿。だが、その問いに答えることは重大な意味を持つ。北方の地が死者の徘徊する暗黒の場所となっているという噂は既にこの地にも届いているだろう。そこの王であると言っていいものか……

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 しかし逡巡は一瞬。ジェイドは顔を挙げる。

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ジェイド:「我は名無しの王。かつてネヴァーウィンターと呼ばれ、今はエヴァーウィンターと呼ばれる街の王だ!!」

 ジェイドがフードを取ると、その頭には燦然と輝くネヴァーウィンターの王冠。会場が恐れと驚きを含んだどよめきに包まれる。

イステヴァル卿:「なんと……死者の王か!! だが、ネヴァーウィンターの王冠に灼かれることもなくそこにいるということは……真の王なのか」
ジェイド:「光と闇は共にあるということだ。私がアンデッドであるということと、私がネヴァーウィンター、いや、エヴァーウィンターを正しき場所にしようとしていることは矛盾しない。それはたった今あなた方が食べたこの一膳の丼の中にも表現されていたことではないか」

 イステヴァル卿は微かに頷く。君の言葉には道理がある。

ディラード卿:「それは理解した。では、そのエヴァーウィンターの王がなぜこの街に来た? まさかラーメン勝負をしに来たわけではあるまい」

 問われてジェイドたちは来訪のわけをかいつまんで話す。街に人を呼び寄せたいこと、そのためには“新聞”の技術を学ぶことが不可欠であり、それを学びに――そして作るための器械を買いつけに来たということ。

 それは我らに闇の街と取引をせよということかと難色を示す貴族たち。だが、

ジェイド:「私の人となり、私がどのような経緯で街を滅ぼし、そして復興させつつあるかはここにいるネヴァレンバー卿が語ってくれるだろう」
ネヴァレンバー卿:「……よかろう。私はこの男を知っている。家族のためなら命を捨てることさえ厭わないまっすぐな男だ。厭わなかった結果こんな姿になっているが……信頼していい」

 貴族たちが再びざわめく。

セイヴ:「まぁ、世の中にはいろいろあるからな。だから死者と生者が共存できるように頑張るのがうちの王さまの役目だし、それを補佐するのが俺たちの役目ってことだ。そういう連中もいるってことで納得してもらえないかな」
ジェイド:「世界は変わりつつあるのだ。我々が死者であるというだけで断罪するのであれば……それは正しいことではない」
エイロヌイ:「エヴァーウィンターにいるゾンビやグールやスケルトンたちは、自我を持ち、言葉を話し、笑い、そして人を愉快な気分にするのが大好きな人たちです。もしお疑いになるのなら、いつでもエヴァーウィンターにいらして下さいな。歓迎いたします。無理にとは申しませんが」

 アブデル・エイドリアン卿が愉快そうに笑いだした。笑いながらイステヴァル卿の肩をたたく。

 ――時代は変わってしまったのだな。我々が若ければ自分たちで確かめるべく乗り込みたいところだがそうもいかぬ。ここは信頼できる若い冒険者を送り込み、確かめさせるべきだ。おい、そうしようじゃないか。

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ディラード卿:「いいでしょう、では、商売の話をしましょう」



 こうして物語は和やかに終わった。
 ジェイドたちは発明博物館に案内され、博物館の地下にぎっしり並んだ“機械仕掛けの書記”を見せられた。それは1人の書記が書きつけたものを全く同じように書きつける人形のからくりで、“書記”1体につき1枚の複写が作れるというもの。
 たいした仕組みではあるが、占拠空間に対してできる複写の数の効率の悪さに、1体の人形に多数の腕を取りつければいいではないかと思わず言うと、博物館の学芸員の目がきらりと光った。

学芸員:「それは素晴らしいアイデアだ!! おーい、腕のたくさんある生き物の資料を片っ端から集めてこい!!」

 これで心象がだいぶ良くなったらしい。話はとんとん拍子に進み、それなりの数の“書記”を――買い付けるとエラい金額になるので借りる算段が進み始めた。おそらくバルダーズ・ゲートから派遣される冒険者たちには“新聞記者”たちも着いてきて、エヴァーウィンターに“バルダーの声”の支部を作ることになるのだろう。

 また、博物館で開催中の「シャランダー大秘宝展」には、確かにシャランダーの秘宝が数多く展示されていた。エリオンは早速イリヤンブルーエンの使節としてその返還を申し入れ、当然のように「君たちが放棄した街からこれらの品々を発掘したのは人間である」と言って断られ、それから交渉に入った。

エリオン:「確かに我々にはこのような新奇なからくりの技術はない。だが魔法の技術はからくりをはるかに上回るものを持っている。それに、古きから学んでこそ新しいものを生み出すこともできるのではないか。我らは魔法を提供しよう、だからあなたがたはこれを機にエラドリンと交流を深め、これらの品々もいずれは買い戻せるように話を進めてもらえないだろうか」
館長:「古きを知り、新しきを生む……そうです、そのためにこそ私はこの展覧会を企画したのです!!」

 発明博物館の館長を始め学芸員たちはみな、発明の神ガンドの司祭であり、彼らの興味を引いたということは今後の順調な交渉を保証したことに等しい。

 すなわち、すべては上手く行ったのだ。あとは国元に帰るのみ。だが。

サイガー:「にいちゃんたち、凄い人たちだったんだね……帰っちゃうの?」

 ここまでの華やかな活躍を目の当たりにした明かり持ちの兄妹が、名残惜しげにジェイドたちを見ている。聞けば身寄りは他にない、二人きりで生きてきて、この先も生きていくことになるのだという。ならば……

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セイヴ:「なあに、こいつは王さまだって言ってるが、やってることはボウズ、おまえと変わらないんだぜ? 妹が大事で大事でしょうがない。だからおまえだってがんばりゃ、すごいことぐらいできるようになるさ!」

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 ジェイドは微かに、しかし曇りなく笑う。

ジェイド:「俺は……この先、死者と生者の王として冒険を続けていくのだろう。その時に正しい道を選び続けるためにも……この子たちには一緒に来てもらおう。俺はもう間違えない。この子たちの目を見て話せる道を選び続ければいいのだから」

 こうして冒険者たちはバルダーズ・ゲートを後にした。
 ジェイドたちが去った街ではさらなる事件が勃発することになるのだが、それは『殺戮のバルダーズ・ゲート』本編の物語。ジェイドたちの冒険についてはひとまず筆を置くとしよう。
 だが、もちろん彼らの冒険はこの先も続いてゆくのだが。

――ネヴァーウィンターの失われし王冠・番外編・完



ジェイドの選択

ジェイドの決断

1回目:
問い:クラーケンをおびき寄せるためのおとりには誰がいい?
答え:魔法で戻ってこられるし、ヘプタが適任だろう。

2回目:
問い:コランからの使いを待つ間、どの店に行っている?
答え:やっぱり旨いもの食べたいし、“ごちそうチョウザメ”亭へ。

3回目:
問い:暗黒麺に対抗すべき光明麺のスープの味は何がいい?
答え:魚介ベースで。とりあえず暗黒麺がこってりしているならこちらはあっさりと、それに港町バルダーズ・ゲートでは舌に馴染んだ魚介ベースの評価が高くなるはず。

第4回その1
問い:バルダーズ・ゲートの貴族たちの前で自らの出自を明かすか?
答え:誤魔化しても仕方ない。ここは名乗る。

第4回その2
問い:明かり持ちの兄弟をエヴァーウィンターに連れていく?
答え:これも何かの縁、そして二度と間違いを犯さないためにも、彼らを連れて行こう。