森の奥、瀕死の若者グスタフの、最期の願いを聞き入れ、その親が城主をつとめる「フォンロイター城」を訪れた一行。
夜、窓のない部屋の中で、その死んだはずのグスタフの警告が、皆の耳に響く。
姿を現したグスタフ、そこに実体はない。
幽霊、その恐怖にバルデマーとグレッチェンは瞬間、我を忘れ取り乱してしまった。
そのとき同時に、部屋の鍵が開く。
気を取り直し、皆は、城主夫妻の末娘アンヤの部屋を探すことにした。
アンヤは会食の間、こちらに何かを伝えようとしていた。
彼女ならば、と一縷の希望を抱き、皆はアンヤの部屋を訪ねる。
「父は、あなたがたを、死霊術の実験に使おうとしているのです。早く、ここから逃げてください」
震える声で話すアンヤ。
森には、城主オンドゥリンの実験結果である怪物たちがうごめいている。
生きてここから出るためには、慎重に策を講じなければならないだろう。
ヨハンは、邪なものは城ごと焼き落とせばいいだろうと息巻くが、それが果たして有効なのかさえも定かではない。
情報収集のため、ヴィルヘルミーナの部屋を訪ねる男たち。
ウルディサンに色目を使っていた彼女からならば、有益な情報を引き出せるかもしれないという、賭けのような試みである。
調子はずれな童謡が聞こえる部屋、機嫌の好さそうなエレナが、天蓋つきのベッドに座っている。
設備の整った豪奢な部屋には、艶めかしいナイトシャツに身を包んだヴィルヘルミーナがいた。
彼女は、あくまでも口調は穏やかに、しかし脅すような言葉を連ね、ウルディサンに魅惑的な視線を向ける。
そして、逃げる方法を教える代わりにと、一つの条件を差しだした。
「アンヤを殺して」
迷う一行、そこへ近づく幼子のエレナ。グルンディの裾を引き、彼女は人懐っこく笑った。
「抜け道に案内してあげる。それからね、ママを信じちゃだめだよ」
誰を信じたらよいのか、誰が正常で狂っているのか、誰が嘘を吐き真実を知っているのか……一行は悩む。
そのとき、意を決したバルデマーが、口を開いた。
「エレナに案内してもらおう。アンヤを殺す必要もなくなる」
合流した一行はアンヤも連れて、軽やかに廊下を駆けるエレナのあとを追った。
息一つ乱さず進んでいくエレナは、地下へ地下へと、皆を導いていく。
地下通路の先、鉄の扉を抜けた一行が目にしたものは、この世のものとはとても思えぬ、恐ろしい異形の怪物たちだった。
オンドゥリンの実験の結果であろうか、複数の生物同士を不自然に継ぎ合わされ、歪んだ魔物たちが、檻に入れられている。
血と腐臭と薬品の臭いが、部屋を満たしていた。
この場にそぐわぬ無邪気な笑い声とともに、エレナが、謎のレバーを引いた。
同時に、幾人もの人間を継いで塊にしたような生命体が、皆へ襲いかかってきた。
あまりの醜悪さに混乱し、ウルディサンが我を忘れて逃げだそうとする。
動く肉塊に対して、アンデッドとの戦いに慣れたハーフリングであるウドーが、迷いなくスリングで石を投じる。
あとの者たちも続いて武器を叩きこみ、激しい戦いが始まった。
バルデマーと、正気を取り戻したウルディサンは、ほかの怪物をも解き放とうとするエレナを、なんとかして押し止めた。
肉塊は倒したが、エレナは、皆の隙をついて逃げ出してしまう。
これは追うより逃げるほうがよいだろうと、皆は先へ進むことを決めた。
一行はアンヤを連れ、とにかく先へ進み、地下水路を渡って、やっと地上へ出た。
そこは、森の外の沼地。
振り返って仰いだ森の上空には、翼を広げた異形の化物が旋回している。
月もない夜、皆はランタンの明かりを頼りに、少しでも早くその場を離れようと進む。
夜明けとともに、一行はやっと、街道へたどり着いた。
追っ手はない。
生きて、脱出することができたのだ……。