フォンロイター城のおぞましい罠より逃れた一行。
ともに脱出した、城主の末娘アンヤを伴って、皆は森の街道を再び歩き始めた。
貴族の娘ではあるが、城の外へ出たことのなかったアンヤへ、ウドーは世渡りのすべを教え込む。
物腰丁寧な彼女に対しては、頑固なドワーフのグルンディも、思わず表情を緩めるのだった。
筋骨たくましいヨハンは、歩き慣れない彼女を運びながらも、シグマ―の教えを説いてやっていた。
夕暮れ時、野営場所を探していた皆の前に、神殿の跡らしき廃墟が見えた。
屋根があり、雨風をしのぐに適した場所であると思われた。
だが、何かが住みついていないとも限らない。
念のため、バルデマーとウドーとヨハンの三人が、偵察をすることになった。
深い緑色の石で組まれた神殿、その床はきれいに掃き清められていた。
つまり、誰かがいる、ということだ。
偵察を続ける三人へ、声をかけた者があった。
現れたのは、水色の僧衣をまとい、金色の髪を揺らす見目麗しい少年である。
彼は、慈悲の女神シャリアに仕えているらしく、修業のため、ここに一人で暮らしているらしい。
寄付された食料品や酒を持て余してしまっているので、ぜひ客として腹に収めてほしい。
少年からの、魅力的な誘いを断る理由はない。
三人は、残る四人を招き寄せ、皆でその慈悲を受けることに決めた。
「6名! あ、いえ……7名でしたか」
少年は妙な反応を見せたものの、快く皆を迎え入れた。
彼は、旅の一行へふるまうための料理を、たっぷりと作り始めた。
遠い異国の料理も並ぶとあって、ウドーの料理人としての目が光りはじめる。
たっぷりのビールに、グルンディも満足げな声を上げた。
酒宴の中で皆は、少年やアンヤに請われるまま、これまでに巻き込まれてきた冒険のことを語った。
そしてバルデマーの知られざる過去――幼少の頃に母親が魔女として火あぶりに処され、故郷を出奔したこと――もまた、語られるのであった。
語るうちに皆は、これから先のことへも、想いを馳せはじめる。
今までの稼業をより向上させ、これから先、生き抜くための道を見つけねば……。
思い巡らせているうちに、ふと皆の頭が、霞がかかったようにぼんやりし始める。
はっと我に返ったのはヨハンとウドー、グレッチェン。
酒宴は幻と消え、目の前にあったのは、緑色の粘液を滴らせる、奇妙な柱だった。
その粘液を、残るグルンディとバルデマーとアンヤが貪るように舐めている。
少年の姿はない。
おぞましい混沌、快楽を是とする邪神スラーネッシュの力、その名残に囚われていたのだと、ヨハンは気づく。
皆は混沌の粘液をなんとか胃から吐き戻し、虚しい空腹感を抱えたまま、その場を離れて夜を明かすのだった。