河口湖の合宿で「メジャーキー(長調)の名曲バラード」の誕生を待っていた僕を
ある夜、YOSHIKIが「すぐに部屋に来て!」と呼びました。
もしや、と予感がして、急いでYOSHIKIの部屋に入ると、
「ねえ、曲できたから、聴いて」と、YOSHIKI。
(きっと、そうだ!)
咄嗟に、期待と不安を隠し、
「ああ、あのメジャーのバラード?」とさりげなく聞くと、
「そうそう。まだサビしかはっきり決まってないんだけど、聴いて欲しくて」
(とうとうこの日が来たか…)
僕の心は、激しく揺れました。
バラードは、メジャーキーのバラードと2人で決めていましたから、YOSHIKI
としては初めての試みになるはずです。
今まで聴いたことのない、YOSHIKIのメジャーバラード。
たくさんの名曲を聴き、共有して、しかも、そのどんな曲とも似てない、まったく
新しい名曲を生もう、と決めた。
そんな、普通のアーティストには不可能に近いことを、ちゃんと目標にして、合宿
に入った。
何日も待ったけど、いよいよその名曲のサビができた、というYOSHIKI。
この曲を聴けば、僕の考えが正しかったかどうか、決まるんだ・・・。
もし期待はずれの曲だったら、僕はどうするんだろう・・・。
本当に、僕が心の中で描いているXの未来はあるんだろうか・・・。
いや、もし期待通りの曲だったら、これからどれだけ凄いことが始まるんだろう・・・。
そういったことを、一瞬のうちに頭の中に浮かべ、でもそれとは裏腹にあくまで軽く
明るい雰囲気で、
「おー!聴かせて、聴かせて!!」
と答え、イスに座る。
「津田さん、いい? 弾くからね 」
合宿中の、シンプルな宿泊施設の一室。
調律も怪しい、アップライトピアノ。
まだ23才のミュージシャンが、気を使わない26才のディレクターにオリジナル曲を
聴かせるためだけの、ラフな演奏。
でも・・・。
YOSHIKIが弾き始めた演奏を聴いた瞬間、僕の心は、強い力で揺さぶられ、跳ね上がり
ました。