1988年夏。
 河口湖の合宿で「メジャーキー(長調)の名曲バラード」の誕生を待っていた僕を
ある夜、YOSHIKIが「すぐに部屋に来て!」と呼びました。
 
 もしや、と予感がして、急いでYOSHIKIの部屋に入ると、
 「ねえ、曲できたから、聴いて」
と、YOSHIKI。

 (きっと、そうだ!)
 咄嗟に、期待と不安を隠し、
 「ああ、あのメジャーのバラード?」とさりげなく聞くと、
 
 「そうそう。まだサビしかはっきり決まってないんだけど、聴いて欲しくて」
 
 (とうとうこの日が来たか…)
 僕の心は、激しく揺れました。
 バラードは、メジャーキーのバラードと2人で決めていましたから、YOSHIKI
としては初めての試みになるはずです。
 
 今まで聴いたことのない、YOSHIKIのメジャーバラード。

 たくさんの名曲を聴き、共有して、しかも、そのどんな曲とも似てない、まったく
新しい名曲を生もう、と決めた。
 そんな、普通のアーティストには不可能に近いことを、ちゃんと目標にして、合宿
に入った。

 何日も待ったけど、いよいよその名曲のサビができた、というYOSHIKI。
 この曲を聴けば、僕の考えが正しかったかどうか、決まるんだ・・・。


 もし期待はずれの曲だったら、僕はどうするんだろう・・・。

 本当に、僕が心の中で描いているXの未来はあるんだろうか・・・。

 いや、もし期待通りの曲だったら、これからどれだけ凄いことが始まるんだろう・・・。
 
 そういったことを、一瞬のうちに頭の中に浮かべ、でもそれとは裏腹にあくまで軽く
明るい雰囲気で、

「おー!聴かせて、聴かせて!!」

と答え、イスに座る。

 「津田さん、いい? 
弾くからね 」

 合宿中の、シンプルな宿泊施設の一室。
 調律も怪しい、アップライトピアノ。
 まだ23才のミュージシャンが、気を使わない26才のディレクターにオリジナル曲を
聴かせるためだけの、ラフな演奏。
 でも・・・。
  

 YOSHIKIが弾き始めた演奏を聴いた瞬間、僕の心は、強い力で揺さぶられ、跳ね上がり
ました。