〜 今回 取り上げる曲 「VANISHING LOVE」「Silent Jealousy」〜
(…YOSHIKIの速いビート特有のグルーヴが発揮される。ごく僅かなのだが、1小節間で、音の強弱とテンポが、弧を描くように変化しているのだ。…)
(お気づきだろうか。このリズムの取り方は、Xの音楽、つまりYOSHIKIの速いビートをそのまま表しているのだ。どういうことか…。)
この連載で音楽合宿に話が及んだ時、当時の僕がXの音楽にどれだけ惹かれていて、それをどのように評価していたのか、その辺りをリアルに伝えるため、「Vanishing Vision」で初めて彼らの音楽を聴いた時に僕が受けた衝撃と感動を、音楽的な分析も踏まえてお伝えする、というスタイルで、2回書いてきた。
そして、同時にXの音楽の魅力とその知られざる音楽的な凄さを「Vanishing Vision」の曲を取り上げながら解説してきたのだが、今回からは、取り上げる曲をさらに広げ、Xの全ての作品の中から、そのテーマごとに適宜選び、その魅力を解説していくスタイルで進めたいと思う。
それでは前回からの続きで、YOSHIKIのドラム及びその独特なビートの魅力について書いてみたい。
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「VANISHING LOVE」
この曲のように、テンポが170BPMを超える速い曲は、いわばXの音楽の顔だ。
X 、BLUE BLOOD 、Silent Jealousy 、Standing Sex、Stab Me in the Back、Art of life…
メンバー内で「速い曲」と呼ばれるこれらの曲の大きな魅力の中心は、間違いなくYOSHIKIのハイスパートドラムにある。
しかし、YOSHIKIのドラムは、ただ速いだけではない。
そのビート自体がひとつの音楽として成立するほど、情感の溢れたグループの塊そのものだ。
僕はアルバム「BLUE BLOOD」と「Jealousy」そして「ART OF LIFE」 全ての作品において、Co Producerという立場でYOSHIKIのドラムをレコーディングした。
そのテイクがOKかどうか、納得のいかないフレーズはどこなのか、そして、彼が望むベストプレイは何なのか…。
そういったやり取りをしながら、レコーディング作業中、スタジオの大きなスピーカーで大音量のドラムを聴き、いつも僕はそのビートに魅了されていた。
作業が一段落したあと、他の楽器の音を全て消して、ドラムの音だけを聴きながら感動する喜びは、Co Producerである僕の、ささやかだけど宝物のような特権だった。
そんな僕が、最初にその魅力と出会ったのは、1988年「VANISHING LOVE」を聴いた時だった。
Xの音楽が僕にはスラッシュメタルに聴こえなかった、という説明は前回した通りだが、その速いドラムプレイもまた、僕にはメタルのドラムとは違って聴こえた。
その理由を理解したくて何度も聴くうちに、僕はあることに気づいた。
そしてそれはやがて、僕だけの大切なプロデュース方針につながり、結果「未来のX」へとつながっていくことになった。
それでは、当時の僕が気づいたある発見について説明してみよう。