僕がライブの感想をメンバーに楽屋で伝えた後、最後に「あとは音楽だね」と、ひとこと残して楽屋を後にしたことで、最初の感想に喜んでいたメンバーは、僕が帰った後で相当荒れたらしい。
 
 実際に僕がそのことを知ったのは、それからしばらく経ってからなのだが。
 
 ちょうど丸沢さんの一言でメンバーがブチキレたすぐ後、ということもあって、津田という人間を信用しかけていたのに、結局あいつも深く理解せずに分かったような口を利く、ただのレコード会社の人間じゃないか…そんな気持ちにメンバーはなったのかも知れない。
 
 ところがメンバーが荒れた時、YOSHIKIだけは冷静に「あの人の言ったことにはきっと意味があると思う」と話したらしい。
 
 おそらくYOSHIKIがそういう見方をしたのは、僕と二人だけでゆっくり話したことがあるからなのだろう。
 
 僕にしても、それは同じだった。
 
 実はあの時「あとは音楽だね」というひとことを付け加えるかどうか、一瞬迷ったのだった。
 
 そのひとことがメンバーを喜ばすものではない、と充分わかっていたからだ。
 
 でも僕は敢えてそのひとことを伝えた。
 
 それは、僕のライブの感想が生半可な気持ちで伝えたものではない、という意思表示でもあった。
 
 ただメンバーを喜ばすために感想を伝えたのではない。
 
 英雄のようなかっこよさと、それによって会場がひとつになる凄さが、ソニーミュージックという大きなレコード会社の数多い制作スタッフ誰一人として理解することがない。
 
 でも僕にとってはその凄さが、Xが過去見たことのない、選ばれた圧倒的なバンドである証なんだ、という強い感動を、ちゃんと伝えたかったのだ。
 
 そして僕は、YOSHIKIと二人で話した時、メンバーが現状に全く満足していない、悔しさの塊のような状態なのだ、と強く伝えてくれたことが嬉しかったのだ。
 
 現状に満足していないなら、進化の可能性は限りない。
 
 だからこそ僕は、メンバーと共に未来を創っていける、と思っているのだ。
 
 だから現状で英雄のようなかっこよさ、会場がひとつになる興奮、その二つ以外の部分で、進化すべきところを僕なりにちゃんと伝えようと思ったのだ。
 
 その一つが、爆音だけでメロディーが聞こえてこない現状の音楽面だったわけだ。
 
 メンバーの気に障るであろうことを承知の上で、敢えてそれを伝えたのは、これから険しい道をメンバーと共にのりこえながら未来を創っていきたいんだ、という僕の意志を表す意味も含まれていたのだ。