前回に引き続き、僕の心の中にあった『ライナーノーツに込めた秘かな想い』を綴っていきたいと思う。 

 2. 「Jealousy」のライナーノーツに込めた想い

 
 《ライナーノーツ原文》

YOSHIKI
ロサンゼルスのノース•ハリウッドにアパートを貸りて、僕達は初めての海外レコーディングをスタートしようとしていた。'90年12月3日。ロサンゼルスに来て10日目の朝、ヨシキは倒れた。生まれて初めて「死にたい」と思ったほどの激痛に首と肩を襲われ、彼はドラムを叩けなくなった。年が明けて'91年5月14日。ヨシキは最後のドラムを録り終えた。その日、本番で彼が叩いた 『Say Anything』はわずか2回。精神統一をした後、叩き出した、最初のテイクを聴きながら、僕はこの半年間で起きた事を思い出していた。正直なところ、僕は初めて、レコーディング中に涙を流した。それ位に素晴らしいプレイだったし、それ位に重い半年間だった。通常のドラム•レコーディングで行われる、激しい僕とヨシキのやりとりもなく、静かに僕はOKを出した。
一時はドラムを諦めかけた彼が、このアルバムを完成させたエネルギー。彼を支えた4人のメンバーと周りの全ての人達のエネルギー。このアルバムにはその全てが刻まれている。(1)
TAIJI
タイジが、ロス•レコーディングというチャンスを生かして、本場のグループや音楽に対する姿勢といったものを大変な勢いで吸収しているのは、よくわかっていた。紛れもなく、それはアーティストとして偉大な“成長”だから、僕は嬉しい。彼がいつ、どこで、どうやって吸収しているのかは、誰も知らないのだが。
「ねぇ、そのノリ違うね。」「もう一回、録り直そうか。」「8時間練習すると、何でも弾けちゃうんだね。」「ただのアドリブだよ。」そんなさりげない言葉に彼の“成長 ” は感じられた。(2)
常識とルールの対極で、妥協を許さず音楽を求める。タイジのオリジナルは、完成するまでに長い道のりを必要とした。'89年夏に原型を生んだ『Voiceless Screaming』は、一時、10分以上に及ぶ組曲にまで発展し、1年をかけて最終的にこの形となった。そして「ねぇ、やっぱり、ちょっと変えたいんだけど...」はミックス•ダウンの前日まで続けられたのである!
TOSHI
ヨシキが倒れている間、他のメンバーはリハーサルとアレンジを続けていた。いよいよヨシキ復帰となった時、トシが言い渡されたのが、のどの医者による“1ヶ月の発声厳禁”というショッキングなものだった。『Voiceless Screaming』と『Desperate Angel』の詩はそんな背景で生まれた。
のどの肉体的なリハビリテーションと同時に、歌の表現力を彼なりに研究した不断の努力の成果が、今回のアルバムには色濃く現れている。
(3)
お馴染みのトシに加え、ヒデ、タイジによって引き出された新しいトシも、『Miscast』『Voiceless Screaming』『Desperate Angel』で体験して欲しい。
HIDE
ヒデにとって、アメリカ•レコーディングの意味は、むしろ本人が気づいていないところにあった。「自由」と「責任」である。
(4)
BLUE BLOODの『Celebration』と『X clamation #1』で表現されたヒデの「自由」には、まだ「責任」が伴っていなかった。それに対して今回、『Miscast』の詞、『Joker』のメロディー、そして『Love Replica』のコンセプトと実験、3曲に関わるS•Eなどには「自由」の裏にある「責任」が同時に光っている。ヒデにとってはその“瞬間”が大事だから、創るのに時間はかからない。その代わり、その瞬間にどれだけ純粋なヒデにとっての「自由」が、曲の全てに込められているか、が勝負なのだ。3曲を聴いて、その時々の違う“ヒデ”に耳を傾けてもらうのも、一つの良い聴き方かもしれない。そして、今回の作品は(本人は気づいていなくとも)責任の裏づけがあるから、その分「深い」のである。安心して子供のように「自由」を楽しんでいるヒデを感じとって欲しい。
PATA
速い曲を弾く時のパタは、名人芸を披露する職人の趣きがある。ギターテクニシャンに腕を揉ませて、本人は眼をつぶっている。椅子はパタ専用の椅子である。ギターの音は、出来上がっている。無論、「うーん、かなりいいんだけど、気にくわないな」を何度もくり返した結果である。やがてスピーカーからほとばしる「暴れるヨシキ」と向かい合う時がくる。手は、最高で1分 7~800回のUP&DOWNを繰り返すのだが、顔は微動だにしない。その瞬間、仏に近いパタである。(5)
さて、奥を極めればキリのないギター道を旅するパタが、ロスで購入したレスポールは20,000ド ル。さらにプレイについても、自作の『White Wind From Mr. Martin』や『Stab Me In The Back』のソロをはじめ、存分に楽しめることを約束しよう。
        ( 〜中略〜 )
 作曲•アレンジに半年、レコーディングに半年を費して完成されたこのアルバムは、前作『BLUE BLOOD』発表後、2年間にわたる5人の成長をそのまま反映したものとなった。
5つの個性がXという文字1つのオリジナリティとなる独特のクリエイティビティーは、当然のことながら、このままでは終わらない。
(6)
『Say Anything』の語りが暗示するように、次の作品となる30分あまりの大作『Art Of Life』は、ヨシキが自らの人生の中で答えを見つけようとする精神世界と、Xだけが表現し得るサウンドの集大成となるはずである。『JEALOUSY』に刻まれた現在のXのすべてを体験しながら、その完結篇となる『ART OF LIFE』の完成を、待っていて欲しい。
 
 
 《僕の想い》
 
 (1)一時はドラムを諦めかけた彼が、このアルバムを完成させたエネルギー。彼を支えた4人のメンバーと周りの全ての人達のエネルギー。このアルバムにはその全てが刻まれている。

 このライナーノーツを書いている時点では、アルバムが無事完成してタイムリミットまでに日本へ帰国、リリースが間に合う…という確証はまだなかった。
 
 寝る時間を削って作業を続けても、レコーディングは終わらない。
 
 そんな「終わらないレコーディングの日々」の中で、僕がこの文章に込めたもの。