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R&Bフリーク以外は置き去りにするR&B評 第20編『Anita Baker』
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R&Bフリーク以外は置き去りにするR&B評 第20編『Anita Baker』

2016-04-16 03:25
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    「Anita Baker」(アニタ・ベイカー)
    アメリカ合衆国オハイオ州出身のR&Bシンガー。バンド「チャプター8」を経て1983年にはソロに。『Sweet Love』『Giving You The Best That I Got』『Body And Soul』などヒット曲は数知れず。グラミーなど多くの賞を獲得。



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    <TSUYOSHI評>

    アニタ・ベイカーの2ndアルバム『Rapture』がリリースされた当時、私は中学生だった。ラジオから流れる大ヒット曲『Sweet Love(https://youtu.be/2v6uPKMUgnE)は、色恋を知らない日本の片田舎の中坊をしてオトナを理解できてしまったと勘違いさせるほど超アダルトな雰囲気を漂わせまくっていた。子供だった私が何故そこまでこの曲をオトナだと認識したのか。 

    まず出だしから。いわゆる「キメ」を8回行うだけで成立させてしまった8小節のイントロ。個人的にこんな始まり方をする曲はそのとき初めて聴いたのだと思う。初体験である。そしてこの8小節内で奏でられるドラムがまた素敵。まるでフィルインの合間にたまたま他の楽器陣との「キメ」があるが如くである。ごく普通のフィルインのフレーズなのだが、まるでドラムは歌っているかのよう。パトリース・ラッシェン『Forget Me Nots』の「あの」ベースプレイで知られるフレディー・ワシントンによる、そつのないグルーヴィーなベースと相まって、この時点ですでにグルーヴ感満点。この痺れるドラムプレイ、今は亡きスーパードラマー:リッキー・ローソンの仕業である。あと、1小節目のBmaj92小節目でGmaj9への流れ。スッと異空間へといざなってくれるコード進行。決して珍しくないコード進行ではあるが、やはり未だにオトナを感じてしまう響きである。そして肝心のアニタが登場。歌い出しからジャズな唱法。しかしどことなくSoul特有の熱を感じる。とかく「ジャズっぽさ」というものは、理性的に心のヒダにスーッと入り込み、いくら高揚感を感じたとしてもどことなく穏やかに完結しがちな印象をもっているのだが、そんな綺麗事はいらないとばかりの熱いものをアニタの歌から感じるのである。このSoulな黒さが有るが故、本能を押さえ込もうとする理性と、理性では押さえきれない本能とが混在するこの絶妙なバランス感が生まれるのであろう。いやはやオトナである。やはりお子様にはいささか刺激が強めだ。しかし「甘美なる愛」を恥ずかしさという衣さえもまとわず歌い上げていく様のなんと美しいことか。若いうちにこのような素晴らしい歌・演奏・楽曲という世界観に触れられたことを感謝したい。少なからずアニタ経由でクワイエット・ストームや様々なブラコンアーティストを知っていった訳であるから尚更である。 

    20代後半のアニタがオトナな『Sweet Love』を歌いこなすのは合点がいくのだが、それ以前に彼女が所属していたグループ「チャプター8」でリードをとった『I Just Wanna Be Your Girl(https://youtu.be/GVhOCOL8Ex0)でのオトナな歌いっぷりには驚く。録音時点ではまだ二十歳そこそこ。オトナに憧れて大人っぽく歌ってるわけではなく、見事に大人の歌を歌っている。よくよく聴くと当時のパティ・オースティン辺りの歌唱に似てはいるが、まだJazz度合いが少なめのアニタの歌はなかなかソウルフル。後半にかけて、時には押したり引いたりしながらも、徐々にエモーショナルに「あなたのものになりたいの」と歌い進めてゆく。二十歳そこそこでこれほどオトナに歌いこなすのはアニタ・ベーカーか山口百恵くらいのものだろう。加えて、オトナなサウンドで人気のチャプター8を率いたマイケル・J・パウエルは、アニタがソロになった後も彼女のプロデュースを続けている。アニタ・ベーカー作品全体における終止変わらぬオトナ感は、このマイケル・J・パウエルの存在も大きく影響しているという事を忘れてはならない。


     


    2010年のソウル・トレイン・アワードでの、アニタ・ベーカーの名曲だらけトリビュート(https://youtu.be/zJ5mAaQfESY)。歌が上手くないと100%の良さが伝わらない楽曲ばかり。もちろん出てくるシンガー達は歌ウマぞろい。素晴らしいパフォーマンスばかりだ。ここのところアニタの『Angel』のカバーの評判が高いレイラ・ハサウェイがこの時点ですでに同曲をパフォーマンスしていたりする。ところで、アニタにはシンガーとしてのフォロワーが多分いない。しかしそれは逆を言えばワンアンドオンリーであるということ。そんなワンアンドオンリーの存在を讃えるこのトリビュートの凄さを是非感じていただきたい。




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    <西崎信太郎 評>



     ソロ・デビュー前にチャプター8というグループに在籍していたことすら最近知るくらい(僕は世代的にサード・ストリーの後身グループ、チャプター4の世代。と言っても今やチャプター4自体知る人ぞ知るグループになってしまいましたが)、自分にとっての母親世代くらいのアーティスト。でも、もちろん後追いですがハマったアーティストではあります。

     確か、 最初にアニタ・ベイカーに辿り着いたのが、Sugar Soul"いとしさの中で"DJ HASEBEさんプロデュースの1曲、これアニタ・ベイカー"Mystery"をサンプリングしたナンバー。"いとしさの中で"を聴いて、どういう経緯だかでこのトラックの元があるということを当時の僕は知り、そこからこの年増女性の魅力から抜け出せなくなった、という淡い青春の一幕。でも、自分でアニタの音に辿り着いたというより、当時のbmrとかレコード・ストアのコメント文とか、当時の僕にとって未知なる大人の世界だった「洋楽」の世界へ誘う、何気ないアシストがかなり強烈だったと思います。だから、何気ないけど凄いですよ。今の10代にマクスウェルの魅力を伝えるようなもの、自分の立場から考えると、当時の業界人の熱量は凄いなぁ、なんてしみじみしちゃいます。


     ベタですが、やっぱり好きな曲は"Sweet Love"。結果的にヒット曲だったからっていう理由もあるけど、マイケル・J・パウウェルの作る曲が本当に好き。あと、レイト'80s~アーリー'90sのアル・ジョンソン作の楽曲。アーティストだとバイ・オール・ミーンズやフレディ・ジャクソン。僕の中で「聴く情景を瞬時に思い浮かべられる楽曲」こそ名曲の1つの条件かなと思っていますが、この時代の楽曲は一言で「アーバン」。その中核となった曲が"Sweet Love"じゃないかなぁ、と思います。


     かつては日本武道館でライブを行ったアーティスト。'12年には久々のシングル"Lately"をリリースして往年のファンを喜ばせたことでしょう。小箱でも良いので、是非とも再来日公演を切に希望。



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