「Ne-Yo」(ニーヨ)
アメリカ合衆国アーカンソー州出身のR&Bシンガーソングライター、音楽プロデューサー。デビューからアルバム3枚をビルボード1位に送り込み、全世界トータル1000万枚を売り上げる。
<TSUYOSHI評>
結局のところ、時代を作ったり時代を変えるほどの”何か”を世に残すという事は、ほんの限られた人間にしか許されてはいない。そんな中、ニーヨは『So Sick』を世に送り出し、確実に時代を作った。チキチキR&Bも使い倒され、ディアンジェロのVoodoo熱も一段落したR&Bの世界にポンとこの曲は現れる。この曲以降一大ブームとなったハープのリフが鳴り始め、この曲以降誰もが使い倒したスネアの音が特徴的なドラムが淡々と流れ出す。ここまでは正直なところプロダクション・チームのスターゲイトが凄いという話だが、このトラックの上にニーヨが紡ぎ出したトップラインであるメロディーと歌詞がまた良かった。コード進行に逆らわず置かれたメロディーの何とも言えない朴訥さ。そのメロディーと同時に響く歌詞は、それまでのマッチョでマスキュリンなR&Bの歌詞には見受けられなかった、ちゃんとした情景描写や心理描写が表現されていた。説明的過ぎず読みやすく、心のひだにすっと入り込んでくるような短編を読んでいるかの如く。要はとても質の高い楽曲が時代に変わり目に当然のように現れただけなのかもしれない。しかし、ただタイミングが良かっただけではなく、その2年ほど前に彼らがマリオに提供した『Let Me Love You』のヒットという伏線はあったけれども。
とにもかくにも、『So Sick』や『Stay featuring Peedi Peedi』の2曲だけでデビュー当時は話題騒然だった。彼のプロモーション来日の際のショウケースライヴを運良く見る事ができたのだが、その歌の上手さは当時からほぼ出来上がっていた。ほんの数曲のパフォーマンスだったと思うが、とてもいいライヴを観たという印象を今でもはっきり覚えている。しかしそれよりもはっきり覚えているのは、当時ニーヨと同じレーベルメイトで、隣のライヴハウスでパフォーマンスしてきたばかりのリアーナがフロアの後ろで取り巻きのスタッフらしき面々と「ぎゃ~! ニーヨ~!! ヤバい~!!!」くらいのテンションでニーヨのパフォーマンスを応援していたのはとても印象的だった。
今のところ彼の立ち位置は極めてポップス寄りである。どの要素を切り取っても”黒さ”はあるけれども”真っ黒”な部分は見受けられない気がする。”キング・オブ・ポップ”マイケル・ジャクソンですら、その歌にはSoulやBluesを感じるし、ホイットニー・ヒューストンやダイアナ・ロス、ライオネル・リッチーといったR&Bとポップスの垣根を越えて活躍している人達にも、一様にSoulやBluesを感じるもの。ニーヨからはそれをあまり感じとれない。ただ、そこが彼の魅力なのかもしれない。人種や年代を超えて愛されるには”真っ黒”が薄いことはポップスには必要な要素なのかもしれない。個人的にはなんだか物足りなさを感じてしまうが、しかしながら音楽の世界においてニーヨは間違いなく必要なアーティスト。多くの魅力を内包している。今後の動向が楽しみである。
黒さが薄いと述べてきたが、ニーヨの楽曲で1曲だけとても好きな曲がある。『Time』(https://youtu.be/UIODKnOlP48) (https://youtu.be/o4_a6iLfk0M)。とある男のもとを去っていってしまった元カノへの未練を歌っているこの歌。第三者目線で終止している内容なのだが、実のところこの「とある男」は歌っている本人目線だと思われる。冷静ぶった第三者目線でないと語れない主人公の強い悲しみが見てとれる、こういう手法ならではの切ない内容の歌詞である。そしてこの曲のもう一点大事な要素として挙げたいのが2コーラス目から入ってくるドラム。バラードなのに容赦のないドラミングというのを未だにいぶかしがる方面があるのかもしれない。R&Bやブラックミュージックでは昔から当たり前なドラムの立ち位置なのだが、相変わらず日本人でこういう風に叩いてる御仁をあまりお見受けしない。もっとこういう概念のドラムプレイが国内でも普通に聴けると楽しいのだが。
<西崎信太郎 評>
「ネーヨじゃねーよ」なんていうダジャレが飛び交ってから早10年。先日の'16年2月28日で、ニーヨのデビュー・アルバム『In My Own Words』がリリースされてからちょうど10年の月日が流れました。「ねぇ、ネーヨのアルバムもう聴いた?メッチャ良いよ!」なんて、ブラック・ミュージック愛好家達を飛び越えて、普段R&B/ソウルに馴染みがないリスナーへまでも届いたそのメロディと歌声。事実、ニーヨの恩恵を大なり小なり受けたのがここ10年のR&B/ソウル・シーンではないでしょうか。
'05年に、クリス・ブラウン、トレイ・ソングスっていう2人の大型新人がデビューし、その翌年に登場したのがニーヨ。この頃、僕が音楽業界にまだ入る前で、素人目ながらデビュー時のインパクトは既述の2人ほど大きくなかった、っていうのが当時の率直な印象。で、一躍ブレイクしたのが"So Sick"。当時はクラブでも国内外のラジオでも流れ続け「"So Sick"を聴きすぎてSo Sick」なんていうダジャレが飛び交う程にスマッシュ・ヒット。意外にも、この曲がチャート1位を記録した国はアメリカとイギリスだけだったんですけどね。その後も"Sexy Love"、"Because Of You"と出す曲が続々とヒット。と同時に、プロデューサーでもあるスターゲイトにもスポットライトが当たり「ニーヨ→スターゲイト→新たなアーティスト」と音を探求したリスナーも多かったはず。かつてのジャネット×ジャム&ルイスのように。
僕自身も、各所で執筆をさせて頂くにあたり「ニーヨ登場以前・ニーヨ登場以降」という表現をどれだけしたことか。そういった意味でも、やはりニーヨの恩恵は改めて大きかったなぁ、と。特に、ニーヨ登場以後の5年間('10年前後)は、空前の男性R&Bブーム。ネイサンやスティーヴィー・ホアンなど、ジャパニーズ・ヒットする海外アーティストが続出するほどに、いわゆる「ニーヨっぽい」っていうスタイル自体がブランド化。どれもスマートで、スタイリッシュで(一時期ハットのアートワークが乱発)、メロディ主体で入る日本のリスナーには、あの黒さが薄まったポップス的キャッチーな美サウンドが結果的には受けたわけで。
'90年代のサウンドはほぼほぼ後追いの世代だった為、デビュー時から知っているアーティストと言えば、デスチャとかアシャンティとかクレイグ・デイヴィッドとか。そういった意味でも、デビュー時から見て、これだけの影響力を持つまでになったニーヨの存在は、僕ら世代にとってはやはり特別な存在であれ、'06年2月28日は「アーバンR&B元年」くらいな認識です。
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