『Bruno Mars』
アメリカ合衆国ハワイ州ホノルル出身のシンガーソングライター。2010年のデビュー以来No.1ヒットを連発。2016年に発売の3rdアルバム『24K Magic』が全世界で大きな話題を呼んでいる。
<TSUYOSHI評>
ステージネームの由来はブルーノ・サンマルチノなのか…
ブルーノ・マーズの3rdアルバム、今作は80年代後半から90年代前半のブラック・ミュージックを結構ガッツリ模したプロダクションが多め。随所にかまされる色とりどりのファンクなフレーズ。あの頃のドラムパターンだったり、あの頃の音色(おんしょく)によるシンセにシンセベースなどなど。懐古的指向のサウンドプロダクションを現代最高レベルのトラックダウンやマスタリングで仕上げているという面でも非常に興味をそそられる。だからサウンド的には聴いていてとても楽しい。ゲートリバーブの効いたスネアやフロアタムとかたまらなくヤバい。当時の雰囲気をガッツリと真似をしている訳なので、ある意味音楽としてのオリジナリティーにかけるという面も出てきてしまうが、今作は時代を引っ掻き回してトレンドを作り出すにはもってこいのアルバムなのかもしれない。R&B/Soul好きからすれば、80年代後半から90年代前半の流れがいい加減来て欲しい頃だったりする様だし。とはいえ実際のところは、ミネアポリスやらJBやらブラコンやらZappやら「童顔×男」なニュージャックやら。”Ain’t no ~”とサビ頭で歌ってるなと思ったら、最後の最後にスネアが2,4だけでなく1,3にも入ってきて結局モータウン風味で終わるとか。他にも色々なオマージュというかアイデアがちりばめられていて、特定の時代に縛られないブラック・ミュージックの玉手箱的な内容となっている。
けれども”ポップ”。これだけ黒い要素だらけのアルバムなのに何故だろう。プロデューサーでのある彼が手がけるメロディーは素晴らしいしアレンジも興味深い。しかしメロディーもアレンジのさじ加減もどことなく”ポップ”だ。ここではR&B評を謳っているが、今回取り上げているブルーノ・マーズはR&Bでは括りきれない世界最高レベルのPopスターである。しかも、歌える・ラップできる・作詞作曲ができる・楽器ができる・踊れる。表に立つエンターテイメントな事は大体できちゃう。動画とかで『24K Magic』のライブパフォーマンスを見るとそれら様々な要素が一気に目と耳に押し寄せてくるので単純に凄いとしか感想が出ない。しかし、例えば落ち着いて今回のアルバムを歌の部分にフォーカスして聴いてみると決して歌は黒々とはしていない。いや、フェイクのスケールの取り方はしっかり黒いのだが、彼の声質が黒くないからR&Bに聞こえない向きはある。けれども多分、だからこそ全世界でPopスターとしてブルーノ・マーズは共有足りうるのだろう。それにしても歌のキーが高い高い。のど壊さないで欲しい。
今作3曲目『Perm』のヒントはマーク・ロンソン『Feel Right feat. Mystikal』か。この動画(http://dai.ly/x2axi43)でのミスティカルとブルーノ・マーズ率いるバンドとの相性がとてもいい。ミスティカルが段々JBに見えてくる。実にファンキーだ。
<西崎信太郎評>
予告なしに突如アルバムがリリースされたり、毎週のようにシングル・リリースを重ねた後にアルバムをお披露目するなど、より効果的な算段を各々が探っている"今"のシーンにおいて、久々に「リスナーの足並みが揃った作品」が出てきた印象です。久々の「リリース日を待ちわびた作品」という感じでしょうか。
'90年代に育ったブルーノが、自らが影響を受けたサウンド、アーティストに敬意を払い、礎となっているオールド・スクールなサウンドをブルーノ流に昇華した作品が、話題となっている最新作『24K Magic』。「1曲につき50回は曲を書き直した」「スウェットを着ていたらスウェットっぽい曲になるだろ?だからコレクションしたジュエリーを身につけて、一番いい靴を履いてレコーディングした」と、陽気でひょうきんなキャラクターの"表の顔"だけでは分からない、こだわり抜く職人気質が、人気の真の秘訣の1つかと妙に納得。
僕自身が、今回のアルバムが世に放たれて気になることは1つ。「'90年代リヴァイヴァルはいよいよ来るのか?」という点。過去に何度か'90年代リヴァイヴァルの風潮が見え、例えばプリティ・リッキーが往年のジョデシィ、H・タウンらのスタイルにリンクした頃、例えばアリアナ・グランデのデビュー作がリリースされた頃、など。しかし、"Get Lucky"リリース以後、未だに色濃い'80年代リヴァイヴァル熱が冷める気配の無い中、いよいよ"'90年代"リヴァイヴァル"到来ではないかと期待するのは、"Get Lucky"リリース前にブルーノは"Treasure"をリリースし、その後の'80年代リヴァイヴァルへの流れを作ったという経緯から、ブルーノが今の音楽シーンのトレンドセッターであることに疑いはないと思います。'80年代後期~'90年代初頭のテイストを匂わせる『24K Magic』は、NJS調の"Finesse"、ベイビーフェイスを迎えた"Too Good To Say Goodbye"など、「'90年代リヴァイヴァル元作」のきっかけになるであろう仕掛けが満載。リード・トラック"24K Magic"のトークボックスがバイロン・チェーンバースなんて、人選のセンスも素晴らしい。