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Eric Benét』


アメリカ合衆国ウィスコンシン州ミルウォーキー出身の
R&Bシンガー。1996年にソロアルバム『True To Myself』をリリース以降、コンスタントに名作を発表。





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<TSUYOSHI評>

ソロキャリアとして早20年、今年7枚目のオリジナルアルバムをリリースしたエリック・ベネイ。ネオ・ソウルの流行りに乗ったファーストアルバムは音楽としてはもちろんのこと、ルックスの良さやアートワークによるイメージ作りも手伝ってか、とても好印象で世の中に受け入れられた。この時期、ディアンジェロとマックスウェルとエリカ・バドゥとエリック・ベネイをよく聴いていたという御仁も少なからずいるであろう。ご多分に漏れず、私もこの時期のこの4組はよく聴いていた。しかしながら、エリック・ベネイの音楽には他の3組のようなネオ・ソウルやニュー・クラシック・ソウルと呼ばれたモノに不可欠な所謂アートな要素はほぼ無い。実際のところ、彼は純然たるR&Bやブラック・ミュージックにポピュラーな香りを散りばめた音楽を作り出し歌ってきたという印象。黒いところは黒いけれども、ラテンやポップスの香りもまとってますよ、結局アルバム全体ではマスに訴えかける的な。


 一方でR&B/Soul好きなリスナーからすると、ここ最近のSoulフレーバー強めな楽曲の増加傾向はとても喜ばしい事と思われる。例えば2008年発売のアルバム『Love & Life』に収録された、ギャンブル&ハフ、トム・ベルが作り上げたフィリーソウルのエッセンスがほとばしる『You’re The Only One』。なんとなくSoul回帰的な空気もなくはなかったこの頃、正直エリック・ベネイが真っ正面からこういった路線でくるとは当時思いもよらなかったので、このフィリーな感じはとても嬉しいサプライズだった。曲調はスタイリスティックス+テディ・ペンダーグラス。なんならテディペンが歌ったら凄まじくカッコ良く、よりセクシーな曲になったであろう。けれどもエリック・ベネイのこの曲の収まり具合は秀逸だ。

 ソロデビュー以来、ラテンぽい曲やフォーキーな曲も時折アルバムに収録されているが、そういった要素はいっさい捨てて全部SoulR&Bで埋め尽くされたアルバムを作って欲しいのに...と思っていたら、続けてリリースされた2010年発売のアルバム『Lost In Time』では全編70’sSoul/R&Bに寄せてきた。M1.Never Want To Live Without You』は、まるでスタイリスティックスがSoul Trainであの歌振りを交えながら口パクでのパフォーマンスをする光景が目に浮かぶよう。フィリーソウルお決まりのシタールのリードに導かれ、美しいストリングスと鉄筋の音色がそれを追いかける無敵のイントロ。ハープが駆け上がったあと、歌い出しからキメが入る憎い演出。もう1曲目からお腹いっぱいである。ヒット曲となったM3.Sometimes I Cry』は「君がいなくなってからもう2年」と始まる歌詞から何から純正Soul。後半ほぼファルセットで鳴き通すエリックの歌は圧巻。他にもシェリル・リンのあれに似た曲やエディ・レヴァート本人がフィーチャリングされたオージェイズのあれのような曲があったり、昔を懐かしむリスナーにも程よいバランスで構成された素敵なアルバムだ。その次にリリースされたアルバム『The One(2012)では従来のマスな内容も見え隠れしているが、おおよそR&B/Soulで構成されている。EWFな『News For You』、ブラック・ミュージック王道3連バラード『Real Love』、ウィリー・ミッチェルでアル・グリーンな『Redborn Girl』など、エリック本人のプロデュースワークも冴え渡っている。

 とはいえ個人的に一番好きな曲は1stアルバム『True To Myself』収録の『Let’s Stay Together (Midnight Mix)(https://youtu.be/U6LYMwSROFM)。基本は90’s当時のR・ケリーやキース・スウェットのようなサウンドプロダクション。その中で時折顔を出すソウルフルなファルセット。アイズレーの『Choosey Lover』っぽい装飾音のあれとかキメとか。その他にも曲作りにおいて様々な試みが1曲の中に凝縮されているにもかかわらず、トゥーマッチにならずに何度でも聴ける完成度の高さが素晴らしい。


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<西崎信太郎評>

変わらない人。アーティストの年齢って、あまり気にしたことがないのですが、なんと今年50歳と知って仰天。ジョーより、R・ケリーより、最近妙に老け込んで見えるブライアン・マックナイトより、年上。若すぎる。


 そういえば、ソロ・デビュー前に兄弟デュオ、ベネイというユニットで活動していましたね。後のベネイ仕事を数多く担当するジョージ・ナッシュJrや、EW&Fの元メンバー故ロバート・ブルッキンズらが、'92年に発表されたアルバムの制作メンバーに連ねておりましたが、セールス的にコケて単発でユニットは終了。ユニットの存在は、今やマニア向けの肴となってしまっております。


 僕がベネイを知ったのは、ご存知フェイス・エヴァンスとのデュエットでヒットしたトト"Georgy Porgy"のカバーにて。ベネイの代表曲の1つかと思いますが、今思い返せば、そのアーティストの代表曲がカバー曲っていう構図は、昔は結構ありがちでしたね。オリジナル曲がさほどヒットしなかったということ(つまりは短命で終わってしまった確率も高い)も一つの要因なのでしょうが、ベネイは"Georgy Porgy"で灯った火を、今なお燃やし続ける実力派でございます。


 ソロ・デビュー時は、マクスウェルやディアンジェロといったネオ・ソウルの括りで人気を博していたような気がしますが、スティーヴィー・ワンダーのようなソウル・ミュージックと共に、ビートルズやクイーンを聴いて育ったというベネイの守備範囲は広く、事実僕の周りではR&B/ソウルはよく分からないけど、ベネイは好きという人が少なくないのです。今やベネイをネオ・ソウル・シンガーとして認識している人の方が少ないと思いますが。


 最近よく周りに話している話題の1つで、僕の知人がかつて「R&Bを聴いていると、思わずオシャレしなきゃって思える」と言っていた言葉が印象的で、その最たるアーティストこそベネイだと思います。この見た目で50歳。ベネイを聴けば、オシャレをせずにはいられない。R&Bって、それで十分な気がします。



 '16年リリースの新作は、キャリア20年目にして初のセルフ・タイトル『Eric Benet』。 アートワークが、今まで1番好きです。'172月には来日公演も決定。ただ、ネタでもなんでもなく、未だに「エリック・ベネット」と本気で間違えている正直者も、結構多いのです。R&Bが最も似合う今の季節、ベネイの出番も多くなって来ます。